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素敵な先輩が、会社を辞めた。

素敵な先輩が、会社を辞めた。
この人は、会社の「要」にいた人だ。それはビジネス上でもそうだし、人と人の繋がりという意味でもそうだし、会社の雰囲気という意味でもそうだった。

総務人事やITといったバックオフィス系以外で唯一といっていいくらい、会社のほぼ全ての人と絡む、そういうロールに就いていた。40弱-50人強で推移する会社の中でもこのチームは多くても三人、少ないときは彼女一人の所帯だった。会社のビジネスは長らく二つの軸を持っていて、そのうちの一つの、運営上の肝のところを握るチーム。やりがいとプレッシャーが高次元で存在する、花形でもあり、かなりタフでもある仕事だったと思う。

うちの会社はざっくりと、バックオフィスを除くと「セールス」と「リサーチ」、カタカナで格好つけないならば「営業」と「調査」にわかれている。ビジネスの軸として調査の事業体(=先の「軸」)が二つあって、そのうちの一つの事業体の営業と調査をつなぐところが、彼女の仕事区域だった。文字通り要なのだ。お客さんのところにいって営業的な動きもしていたし、ときには調査のサポートもがっつりと行っていた(「サポート」なんてもんじゃなかった)。事業のプロセスのみならず、重要性の観点でも要だった。創造性を発揮しないと受注に至らず、お客さんの理解や諸々の握りが甘いと案件が燃える。いろんなスキルがハイレベルで求められそうな仕事だった。そのチームに長らく貢献してくれた彼女とそのさらに先輩は、二人ともそれぞれ「従業員が選ぶ今年のナンバーワン従業員」に文句なしで選ばれていた。そのくらいでないと務まらないようなロールだったと言えるかも知れない。

僕はもう一つの方のビジネスの専任だったけれども、彼女が活躍するもう一つの事業と絡むこともあった。でも仕事上の関わりよりは、ランチとか日々の他愛ない会話とか、そういう関わりの方が多かった。僕がはじめOJT的についた別の先輩とこの今回の主役の先輩がよくランチをしていて、僕もそこに入れてもらって、彼女を知りはじめた。なぜかはじめは少し怖かったのだけれど、とにかくよく笑う人で、怖い印象は早々に消えていた。コミュ力が高い、なんて言葉にしてしまうと軽すぎるくらい、どんなタイプの人とも、老若男女も問わずにいっぱい話ができる人で、気配りもすごく、はにかんだような話し口で、気づいたら懐にいるような人だった。

太陽、そう形容してなんら誇張のない人だった。オフィスで挨拶をすると元気をもらえて、笑い声が聞こえると周りの人の心が温かくなるような。どこからこんなにエネルギーが出てくるんだろうと思うくらいエネルギーを発している人だった。

そんな明るさを生む人だったけれど、仕事に甘いなんてことはなく、英語で日本語で、ビシッとバシッと電話やオンライン会議で話しているのも何度か隣のデスクで見た。たぶん自分にも厳しい人だったんじゃないかと思う。せっかく上記の「会社のエース」に選ばれて表彰される忘年会に、仕事の正念場でなかなか出て来られずに終わり際になってようやく到着したこともあった。仕事が大好きだと言って憚らかった。そう言っていたとき、僕はあまりに自分と違っていて訳がわからないと同時に、眩しくて、眩しすぎて、直視できなかった。目を伏せてヘラヘラと、スゴイとしか言えなかった。

そんな太陽のような先輩だったけれど、曇りの時期もあって、その時期は会社もどよんとしていた。太陽はずっと核融合をしてエネルギーを発し続けているが、彼女は人間なんだと、スーパー(ウー)マンであってそうではないのだと、そんな当たり前のことを思わされた。会社と彼女のチームが相当タフだった時期が続いたときに、彼女はきっとそれでも太陽たらんとし続けて、エネルギーが出てこないタイミングが訪れてしまったのだろう。

それだけが原因かはわからないけれど、それに前後して、会社の空気は澱み、従業員の心も濁っていくようだった。これはマズイと思った。総務人事に思いをぶつける一方で、根暗コミュ障なりに会社の中の繋がりを広く太くしようと努めたけれど、焼け石に水というか、太陽にアイスバケツというか、何か効果があったのかはわからなかった。むしろこの先輩に僕の取り組みをサポートしてもらってしまったくらいだった。やっぱり太陽だ。

さて、そんな先輩は会社を辞めた訳だが、常人あるいはヘタレな僕の感覚からすると、とんでもないチャレンジをすることになった。でもおそらく、彼女にはその方が刺激的であり楽でもあり、自分らしくいれて家族にとってもベターで、心身ともに健康でいられると判断したのだろう。チャレンジというよりは必然に見えた。スゴイ。またそれしか言えない僕だけれど、せめて目は伏せず、ヘラヘラもせずに、真正面からそう伝えたい。そして、ほんとうにほんとうにほんとうに、ありがとうございました。


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