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鼓動

窒息死しそうなほど窮屈な場所で彼は目覚めた。真っ暗で何も見えない。どのくらいその場所にいたのかわからない。辛うじて身動きがとれる程度だった。
彼は本能的に外へ出なければいけないと感じていた。だが同時に、外へ出たらマズいという考えもあった。このまま徒手空拳で外へ出ればきっとよからぬことが起きる。外から聞こえる物音や人の声から察することができた。
それは破壊的な音だった。悲鳴だった。苦しみから逃れるための祈りだった。本来なら彼にはなんの関係もないはずの音だった。しかし、外に出てしまえばすぐに身近な音になってしまう気がした。
聞くに堪えない騒音のお陰で、彼は外にある危険を察知することができた。出たくはないが一生ここでじっとしているわけにもいかない。早いうちにここから出なければ!
あまりの息苦しさに彼は身体を捩った。ここから出なければいけない。出たくはないが、出なければしょうがない。彼は出口を探した。頭上の方に手を伸ばすと穴があった。内壁から圧力が更に増した。彼もその力を利用し、懸命に藻掻いた。
「あっ、出てきた!出てきた!」という男の声が聞こえた。
外からゴム手袋を嵌めた巨大な男が彼を引っ張り上げた。彼は大きな声で泣いた。それは、純粋な魂の叫びでもあり、わたしはここにいる、という証明でもあった。

分娩室にばらららららっ!という音が響き渡った。天井の梁が崩れ落ちた。辺りには硝煙の匂いが立ち込めた。
静まり返った分娩室にブーツを履いた男がズケズケと入って来て、機関銃を持つ兵士たちに告げた。
「我が国家に歯向かう者は反乱分子だ!いいか!反乱分子は女子ども容赦なく射殺しろ。産まれたばかりの赤子でもだ!」
ばらららららっ!
医者らしき男も母親も一斉に鼓動を止めた。
やはり出るべきではなかったかもしれない、と彼は思った。

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