見出し画像

未来の建設業を考える:建設論評「アップルから学ぶこと」(2012年11月2日)

アップルiPhoneの製造に学ぶ

 iPhone5やiPad miniで評判のアップルコンピューター。販売3日間で300万台のiPadを販売するほどの大ヒットになっているとのこと。

 iPhone5の製品の50%超は日本製。村田製作所のコンデンサーや画像センサーのソニーなど、多くの企業が部品を提供している。一方で、全体の製造は中国で行われている。どうして中国なのか、単にコストの問題だけではない事実に気がつく。

リードタイムの短縮化

 iPhoneの製造に必要な労働者数は、推定で延べ20万人もの組立作業員と延べ8700人の監督員が必要。仮に米国で製造した場合、9ヶ月もかかる想定だ。実際は中国で製造して、たった15日で済んだとのこと。この違いは何か。圧倒的な労働力をベースにした生産に必要なリードタイムの短縮化だ。

 リードタイムの短縮に関する同様のエピソードがある。ある日、試作品を持ち歩いていた故スティーブ・ジョブズ氏がキズつきやすいガラスを交換するように言うと、その日のうちに、すぐさま中国の工場で従業員8千人が12時間シフトの作業を開始し、96時間以内に日産1万台以上の製造を実現してしまったそうだ。

圧倒的な労働力

 ここで何が重要かと言うと、製造にかかるリードタイムの縮減を労働人口でカバーできる国があるということだ。また、その圧倒的な労働力が、時に考えられない製造量を短期間で実現できるということだ。

 実は建設業においても、圧倒的にリードタイムを短縮する工法を導入している中国企業がある。30階建てのホテルがわずか15日間で完成させている事例が、インターネット画像で配信されており、500万回以上再生されている。品質や耐久性と言った検証は必要であるが、ユニット化されたパーツを組み立てていく様子は圧巻だ。

 この中国企業は、更に、世界で最も高い838メートルの超高層ビルを計画しており、その建設工期もたった半年と言うから、驚きだ。

短工期の建設プロジェクト

 一般的に、大型ビル工事では建設費を金融機関から借り入れて発注しているので、建設期間が短ければ短いほど金利負担が少なくなり、投資利回りは高く、発注者に優位に働く。発注者ニーズからすれば、工期が短ければ短いほど、工場生産に迅速にかかれるなど、そのメリットは大きい。

 現状は建設業者の受注が価格競争に依存しているところが大きいが、無理な工期短縮ではなく、建設リードタイムを短くするような画期的な部品や建設生産プロセスの開発を検討し、他国の企業に対して優勢性を確保することも必要ではないだろうか。単純に工期を縮減するだけでなく、製造プロセスや部材を見直すことによって、プロジェクト全体の投資額、ライフサイクルコストを縮減すると言った、建設工事費だけでない、より高い経営視点でのコストダウンを提案する方法もあり得るのではないか。

労働人口によるリードタイムの削減は限界

 中国のゼネコンやプラント業者がアフリカ等の海外で工事を行う場合、中国の労働者を連れて行き、すべての工事を実施してしまい、アフリカ等の現地企業が一切入らずに工事をやるため、自国企業の発展に資することがないとの批判を良く聞くが、これも、豊富な中国の労働人口に寄ることが大きい。しかし、韓国企業も経験したように、労働人口によるリードタイムの削減は限界がある。

ダイナミックな建設生産体制の導入を

 改めて、日本の建設産業においても、製造業におけるリードタイムの短縮が重要なように、建設業におけるリードタイムの短縮へ向けた検討が求められているのではないか。
 それを実現するために、単純労働力に頼らない日本の技術力を活かした画期的な部品の開発やダイナミックな建設生産体制の導入を、今まさに日本の建設産業においても展開することが必要であろう。
 日本の建設業の中からもアップルのような企業が生まれることに期待したいものだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?