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未来の建設業を考える:「私有・共有」(2019年11月8日)

土地はだれのものか?

 土地はだれのものか?
 ラグビーワールドカップ準優勝のイングランドの土地は、人口にしてわずか1%、25,000人の貴や企業が、イングランド全体の土地の約半分を所有しているそうだ。
 中国では、基本、土地は国家のもの。したがって、国民は土地使用権として、住宅や農地を国家から借り受けることとなる。その期間は、条例(1990年5月施行)により、居住用地は70年、工業用地は50年と定められている。期限が来た時点で、一定の土地使用権譲渡金を再び支払えば、使用を継続できる。

日本は私権が優先

 日本はみなさんもご存じのように、海外と比べて、個人の所有権が強く、地主としての「私権」が優先される。
 しかし、明治以前は日本でも、もともと土地は「公(おおやけ)のもの」との認識だった。
 江戸時代の土地の所有は建前上、農民であったが、領地の大きさによって年貢を納めることから、領主(大名、旗本など)の土地でもあった。しかし、その領主も、将軍から与えられた土地であり、今の土地の所有権のような私権優先ではなく、あくまで将軍から与えられ預かった土地で、農業で使わせてもらうような、より公共性の高いものとして、土地を考えていた。
 領主にとって、土地は年貢の「種」となるものだが、農民個人に年貢が割り当てられているのではなく、「村」ごとに年貢米の量が決められているため、ある農家の土地の生育が良くない場合、不足する年貢を村全体でカバーした。
 村ごとに土地を管理するような互助組織を形成し、村人(むらびと)は、個々の土地はそれぞれの農民の所有だが、村全体で年貢をカバーするという意味で、自分の土地は自分だけのものではなく、村全体の共有物でもあった。
 明治維新を契機に、土地が「共有」から「私有」へと大きく概念を変え、今日に至っている。

増加する「空き家対策」

 現代が直面する土地問題は、増加する「空き家対策」だ。所有者不明土地問題研究会(座長・増田寛也東大教授)による推計では、2016年時点の所有者不明土地は全国に410万㌶。今後、手を打たなければ40年までに合計720万㌶に膨らむ見通しだ。北海道ひとつ分(830万㌶)とほぼ同じ。まったなしで、対応が必要となる分野だ。
 空き家対策で先行する英国では、一定の手続きを経て自治体が「個人の利用権」を収用できる権限の強い制度がある。

土地は社会全体の共有財産

 そこで、「日本も江戸時代に戻れ」とは言わないが、土地は個人の所有物だからと言って、何をしても良いというものではないはず。最近、私有地を提供していた地主が別の人に変わって、数十年にわたって近隣住民が利用していた道路を突然通行止めにし、多くの住民が困る事態が発生しているとのニュースがあったが、これも「私有」と「共有」の間違いが生んだ悲劇だ。
 確かに土地の所有権は権利としての私有部分ではあるが、本来、土地は社会全体の共有財産であろう。
 昨今の自己利益優先の社会が、良くない結果をもたらしている。

自利利他(他人の幸せは、自分の幸せ。自分の幸せは、他人の幸せ。)

 改めて、仏教における「自利利他(他人の幸せは、自分の幸せ。自分の幸せは、他人の幸せ。)」の精神が土地や空き家対策にも必要となっているのではないか。
 今こそ、土地の「私有」と「共有」を整理すべき時期に来ているのではないか。最初の「土地はだれのものか」は、同名の出版物(白揚社)が発行されているので、読者諸兄も参考にされたい。

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