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敵わない友達

一人で暮らしていると基本的に食べることばかり考えている。

特に仕事の帰り道なんて、あーだこーだ一日の反省しつつも、だんだんと"いかにこの疲れた心身を満たすか"に気持ちが移り、家に辿り着く頃には何からどう用意していい感じの夕飯を自分に与えるか、ほんとそれしか考えていない。

心でよだれを垂らしながら帰宅する。郵便ポストを確認するとはがきが入っている。ちらりと見ると食のことなど忘れて立ちつくした。

昔から「敵わないなあ」と思うことばかりの友達からだった。そのはがきは彼女らしさが凝縮されている上に、らしさの上澄みだけが表現されていた。感動した。

「春になったね」。言葉はそれだけ。いかにうまく仕事を進めようか考え一日凝った頭が、思いがけずほにゃ〜とほぐされた気分だった。そうだね〜とひとりごとを口にしながら、「やっぱり敵わないなあ」とぽつり、心の中で小さな私が体育座りをしはじめたのも気づいた。

と同時に、大事なことにも気づけた。

敵わないなあ、と思う人には今までたくさん出会ってきた。私がつくる何かでは、未だ人を感動させることはないのだろうなという寂しい思いはいつもある。けど友達には敵わなくていいじゃん。これからも私を喜ばせてくれる素晴らしい友達でいられるよう、早めに私らしいお返事を返そう。それに、人を感動はさせれなくても明日も人に優しくできるよう、ちゃんとご飯食べて健やかでいよう。

はがきを眺めながらゆっくりと階段をのぼっていたら、部屋に着く前にこの思いに至った。なんとも速やかな自己解決だった。悶々と自分のちっぽけさに悩まずに済んだのは、届いたのがあっけらかんとした春の喜びの便りだったからだろう。敵わない友達、ありがたいなあ。おかげでせめて自分を感動させとこ、とせっせと今日の夜ご飯づくりに取り掛かれたのだった。やっぱり食べることばかり考えてしまうよ。



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