見出し画像

エースたちは新たな僚機を得た~Project Wingman感想~

"よう相棒、まだ生きてるか?"

アフター・コロナもアフター・カラミティもカスたちが跋扈し、善人と弱者には住みづらい地、カスカディアからお届けする、Project Wingmanレビュー第二弾。

「ポストアポカリプスのアメリカ西海岸に存在する共和国」仲間、FalloutのNCR。

無事にメインキャンペーン二周目を難易度:Mercenary/傭兵でクリアし、PS5移植版のFrontline 59キャンペーンもクリアしたので、腰を落ち着けて感想文を書こうと思う。ネタバレはする。潔癖な人間は帰りたまへ。

話せば長い。(トンカチさんによるACESZEROファンアート)

ACESフォロワーに留まらないPW

Project Wingman(以下PW)は、四次元ポケットもかくやと無数のミサイルと爆弾を懸架する現代戦闘機のそっくりさんに搭乗し、立ちふさがる敵のことごとくを薙ぎ払うコンバットフライトアクションだ。

要するにPWはACESのフォロワーゲームである。

この飛行機を見てくれ。

AST21さんによるPWファンアート。

機体の上面にずらりと並んだマイクロミサイルポッド、発光する粒子をまき散らすエンジン、ここには見えないが下部に懸架するレールガンは、それぞれ6のCFA-44/ノスフェラト、3のX-49 ナイトレーベン/XR-900 ジオペリア、ZEROのADFX-01/モルガンの系譜に連なるADFシリーズを想起するだろう。

そしてこの機体、PW-MK.1はライバル機だ。

歴戦のエースたちなら開発者がACESの大ファンであることが分かるだろう。

分からない読者からは随分と失礼なことをしているなと思われるだろうが、コントローラーのキー配列を始めとしたゲームシステム、無線劇やブリーフィング・デブリーフィングを用いた演出によるストーリーテリングはACSEのそれとほとんど同じである。

しかし、私はPWはACESのコピーだと言いたいわけではない。PWはACESと競って戦える作品である

遠い異国の地で味噌ラーメンを注文したら、思っていた通りの味噌ラーメンが出てきたような感じのゲーム。」という有名な評には私も確かに大きくうなずく。

こってこての札幌ラーメンはラードが重くて苦手だ。

ただ、私の感想としてより正確性を求めるなら「レビューを見て自分の好みに近そうなラーメンを掘りに来たら、まさに正解。だしやトッピングなどオリジナリティもあって、既存のラーメン屋と併せて"定期的に通いたい店舗リスト"入りした」あたりだろう。

前提として。PWは日本エンタメ界の大資本の代表格、バンダイナムコ傘下のプロジェクトエイセスと違い、BGMやアートワークなどの例外を除けば、その多くをアビ・ラフマーニー(RB-D2)さん個人で制作している

これから述べるACESとの差異の中には、開発環境の差異によって生じているものがあることは承知おき願いたい。その上で、プレイヤーとしてはそんなこと知ったこっちゃなく同じように可処分時間を突っ込むので、並べて比較する。それだけである。

ただなぎ倒し、ただドッグファイトするプレイフィール

ただなぎ倒すプレイフィールとちょっとした調整

まず第一にACESとの違いは何かと言われれば、高速で戦闘機を駆りながらも「ただひたすら目の前のコンテナを赤色にしてミサイルぶち込む」ゲームであることだ。

特に大規模空戦マップ、M11「空戦」は04のコモナ諸島を想起させる。

結局のところ、コンバットフライトアクションをやっていて単純に楽しい瞬間というのは、バンディットのケツを追っかけ、爆散して粉々になった敵機がキャノピーをかすめる瞬間や、急降下爆撃の後爆炎の中スティックを引きこむ瞬間だったりする。

その点、PWはイージーからその辺のモブパイロットでも、しっかりとマニューバを取ってくれる点は、ドッグファイトのしがいがある。ACES7の場合は、モブ敵は割と当てやすく、無人機は極端に当てづらいマニューバだったが、それと比較すると同じ土俵で戦っている感があった。

もっとも終盤の敵ともなるとミサイルを当てにくい挙動になり、ハイGターンも存在しない為に、かなりキツイ戦いになる。とはいえPWではレールガンや機関砲といった兵装の当たり判定が割と大味。良い感じにクロスヘアを合わせて弾数を気を付けながら引金を引こう。

おじいちゃんとそのコピーはバケモノ機動だが、ヘッドオンしてくれるので「やさしい」。

加えて、ACESでは機体に懸架される特殊兵装が固定だったが、PWでは一定程度の選択肢が設けられている。地上目標、航空機と主要な目標に合わせて、兵装を切り替えられることで、ミッションに合わせた機体でより出撃しやすくなる。

この点はACESも追随してほしいところだが、一つの機体で全ステージ通用するために、中盤に解禁した機体に最後まで乗り続けたので、いろんな飛行機に乗る体験ができないというデメリットもある。ミッション報酬も思ったよりしょっぱいので、軽率に機体を購入して乗り換えるのも難しい。

一周目は途中から最後までこのF/D-14に乗り続けた。

プレイの面で印象深いミッションには乏しい

また、個人開発として「ただひたすら目の前のコンテナを赤色にしてミサイルぶち込む」ゲームとしての完成度に注力したのだろうし、その点では成功を収めているが、だがそれでも「やっていることは基本変わらない」というマンネリ感は人によっては感じるだろう。

悪く言えば、対空砲やSAM、戦車を始めとした一般の地上目標、艦船、一般の戦闘機、大型航空機(エアシップ)、ボス戦闘機といった主要な敵の、配置バリエーションや配置数が変わるだけであり、基本的にミッションの目標は指定された目標を破壊することだけである。

とはいえ連邦のエアシップはカッコいいし、レールガンでぶち抜かれて墜ちていく姿は美しい。

特定の制約の中で戦うようなミッションがないため、「特定の遊びを求めての」リプレイ性は乏しいと言える。例えば、ACE04のストーンヘンジ攻略、5の鉱山偵察ミッション、7のIFF識別など。定番の護衛ミッションや渓谷飛行もない。

もっとも、敵を爆散させるだけで十分楽しいのは確かであるので、コンクエストモードというローグライク制のゲームモードでひたすら敵を薙ぎ払ったり、仲間を雇用して傭兵団を率いてみるのも楽しいものである。

分割されたカスカディアを出撃毎に色塗りしていくコンクエスト。次第に敵が強くなる。

魅力的な「新キャラ」とACESではできないストーリー展開

後ろに座る謎の人がついに口を開いた

次にPWの良ポイントとして多くのプレイヤーが挙げるのが、複座機に乗った際に、兵装システム士官(WSO)として無線での賑やかしに入ってくれるプレジデントちゃん(愛称プレズ)の存在だろう。

ACESでは基本的に複座機が存在する機種は、複座機が優先的にモデリングされることが多い。しかし、ACESではこの後ろに乗っている人はストーリーの中でずっと触れられてこなかったのである。そして巨大兵器を打ち倒そうと、平和を勝ち取ろうと、頑として口をつぐんできた。サンド島の5人ではなくサンド島の4機だし、"Dumbass"はいつも一人だった。

プレイアブルなので謎の人が乗っているが、ミハイ翁のX-02Sは支援AIコプロが載っている。

ここにきて後ろに座る謎の人がついに口を開いたのである。

プレズは主人公(モナーク)より「少しだけおしゃべり」、要はあまりしゃべらない方ではあるが、無茶苦茶な主人公のマニューバについて行けるタフさが自慢であり、WSOとして座っているだけでキャッシュフローが好転することに喜びを感じる愉快なキャラだ。実はそのお金で家族に仕送りをしているらしい心優しい女性でもある。

でもパイロットスーツを着ているので、人相は分からない。

ミッション開始時には他の僚機と楽し気に軽口を叩いてくれるし、ミサイルを発射したとき、敵を撃墜したとき、ミサイルに追われるとき、彼女はときたまAWACSの代わりに元気に喋ってくれるだろう。

もっとも、PWのプレイアブル機体の内、WSOが搭乗できる機体は非常に少なく、高難易度で安心して駆れる架空機には一切複座機が存在しない。そのため、PC版の場合は全ての機体を複座機に改造するMODや複座でなくともプレズが話してくれるMODが開発されている。残念ながら、PS5にはそんなものはないので、私は一周目のイージーを全機複座機で載ることを自身に課していた。

救われない世界観

ACESはその多くの作品がストレンジリアルという架空世界を舞台にしている。現代にも関わらず数年に一回世界のどこかで国家間戦争が勃発する恐ろしい世界ではあるが、簒奪された領土は概ね奪還され、エースの導きによって未来が切り開かれてきた。

もっとも、企業間戦争を経て成立した統一政府はエイリアンとの際限ない紛争に巻き込まれるのだが。

PWは現実の地球をベースにしつつも、大規模な地殻変動に伴う大地震や大噴火によって人類の文明が一度荒廃したアフター・カラミティ(大厄災後/A.C.)の世界が舞台である。いわゆるポストアポカリプスだ。

作中の敵役となるのが、世界最強の国家連合「太平洋連邦」であるが、私たちが味方するカスカディアはその連邦の一員でもある。

要は独立戦争であり、この戦いは連邦内における/カスカディア内における内戦でもある。人々の心はすれ違い、昨日まで隣人・同胞だった人々に銃口を向ける。そして戦略兵器によって再び引き起こされる地殻変動によってカスカディアの地は不可逆な傷を負う。

美しい街が、森が、大地が赤色に染まる。

戦争には勝利するだろう。しかしそのあとは?
一体何が残ったというのだ。

このような救いのない終わりをぶつけることができるのは、インディーゲー故であり、ACESでは出来ないストーリーテリングだろう。

Frontline 59で見るもう一つの独立戦争

PWのPS5移植版である「Project Wingman: Frontline 59」では、メインキャンペーンM11「冷戦」の直後を描く。

プレイヤーは一度ベーリング海峡上空の大空戦を歴戦の傭兵「モナーク」として一方的な勝利に導いたが、今度は連邦構成国の予備役「ドライバー(K-9A)」として、ベーリング海峡を越えて旧ロシア極東に位置する「マガダン」に上陸を敢行したカスカディアを出鼻をくじくことになる。

現在のロシア連邦マガダン州はここ。でも上陸地点は位置的にカムチャツカのような気もする。

Frontline 59では本編では出会えなかった巨大な超兵器やトンネルくぐりに挑戦することができる。

敵が沢山出てくるステージなので特殊兵装の使い過ぎには注意。

最終ミッションのカスカディアン・ホワイト・フリート戦では、連邦においてカスカディアが果たしてきた「役割」が語られる。本編ではカスカディアが産出するエネルギーを使って帝国主義的拡張を推し進めている太平洋連邦とそれに対抗するカスカディア在来勢力という構図だが、FL59をプレイしてしまうと、カスカディアもまた手放しで肯定できる国ではないことが分かってしまうだろう。災厄後の世界で豊かな自然と尽きぬエネルギーに恵まれ、明日の食事の前に天下国家を論じることのできる国民は、カスカディア人をおいて他にはいないようだから。

サトシ・コウノ…どこかで聞いたことがある名前だ(すっとぼけ)。

ミッション4「Express Line」では、敵の駐留地を襲撃するために工事中の高速道路の地下区間に飛び込む。ノリノリの音楽に路側放送(ハイウェイラジオ)が彩りを添えてくれる。日系の男性DJの美声を聞いて大厄災を生き延びた日本人がいることに感動しつつ、現代人の目線では真っ当ではない世界情勢を推し測ることができるだろう。

インディーゲームであるが故にもう一歩足りないところ

PWの良いところについて上では語ってきたが、今一歩であるところにも言及しなくてはならないだろう。

雲と光の処理に難あり

一つは光と雲の処理である。ディスプレイの設定を弄ってやらない場合、PWは雲が白のベタ塗りのようになりがちである。地表面近くまで雲があると全く地面が見えず墜落しやすく、雲海の上でドッグファイトをしていると画面が白飛びしたようになって、敵戦闘機を見失ってしまう。また私の環境では感じられなかったが、溶岩と夕焼けが同居するマップでは画面がオレンジに支配されて、画面が見づらいとのレビューもある。

元々雲海は見づらい気象条件だが、HUDも少々見ずらい。

演出も日本人にはちょっと辛い

もう一つは演出面全般だろう。PWはムービーを実装することができなかったため、全てのストーリーが無線劇で進む。幸い日本語字幕が付いているので、ストーリーが一切分からないということはない。しかしドッグファイトで忙しい中、画面下端の字幕を全部見るのは難しく、スラング有りの英語音声を聞き取るというのも、生粋の日本人には少々ハードルが高い。ACE04も英語音声がデフォルトであったので慣れと言われればそれまでだが。

演出面で付け加えるのであれば、ブリーフィング・デブリーフィングもあまり凝ったものではなく、詳細な地形図や敵の配置図はお出しされない。

「エアシップと艦船と対地目標があるね」ぐらいしか画面から読み取れない。

またプレイ後のリプレイもない。コンバットフライトアクションは自分が華麗に敵を吹っ飛ばす様子や割と綺麗に決まったマニューバを見るのも楽しみの一つなので、デブリーフィングのリボンによるリプレイぐらいは実装されてほしい。リプレイについてはPS1や2の世代のACESが実装しているし、現代の技術であれば多少は可能だと思いたい。

初心者は弾切れしやすい

ACESでは、ミサイルを完全に撃ち尽くしてもしばらく待てば十本程度補充されたり、低難易度では機関砲の弾倉が無限であったりと、弾切れによる進行状況のリセットに陥らないよう工夫されていた。

しかしPWではミサイルの補充はなく、もとより機関砲が強く設定されていることもあってACES以上に弾がシビアである。当たる軌道をまだ見極められないヒヨッコの頃は無駄撃ちをしがちであるから、弾切れになりやすいのではないだろうか。

Project ”Wingman”の意味について

さて、ここまでPWとACESについて語って来た。

PWのゲームデザインは敵をなぎ倒すことに注力しており、ACESがこれまで今一歩だった特殊兵装まわりの仕様やWSOの物語への登場、そして救われない世界観などの点で、ACESからの「改善」や十分な差別化を実現できたというのがひとまずの結論である。

これらはPWがACESのフォロワー/後発であるということを十分に生かしたと言えるだろうし、ほぼ個人開発でありながらこれほどのクオリティを叩きだしたのは、ゲーム開発には門外漢である私ですら驚嘆するほどである。

PWは単なるACESの後追いではない。PCとコンシューマーの垣根がなくなりつつある昨今、コンシューマー市場においてコンバットフライトアクションというジャンルがエースコンバットしかなかった時代はある意味では終わりつつあるのかもしれない。

ここでこの作品のタイトル、「Project Wingman」に立ち返りたい。

Wingmanとはいかなる意味か。

僚機(りょうき、:wingman)は、広義には自機と編隊を組む友軍機をさし、狭義にはその編隊内において指揮官部隊長隊長)が搭乗する長機とペアになる機のこと。ウィングマンウィングメイトとも。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

開発者であるアビ・ラフマーニー(RB-D2)さんは、PWを一海外ファンによるプロジェクトエイセスへの熱いファンレターだとか、ACSEのフォロワーだとか、そんな「ちゃちな」ものではなく、コンバットフライトアクションという空をACESという先達と共に征く相棒とする矜持をもって開発したのではないか。

私はそんな気がしてならない。

PWにダストマザーのご加護を。

(おしまい)

おまけ: ゲーム内用語としての"Project Wingman"

"Project Wingman"、その名を冠するのはこのゲームだけではない。冒頭に紹介したPW-MK.1の「PW」こそ、Project Wingmanのアクロニムだ。

そしてPW-MK.1は連邦の次世代機開発の途上で生まれた機体ではあるが、その前身にあたるのが、X-PFである。

PW-MK.1によく似ている。

X-PFの特徴として密閉されたコクピットが挙げられ、fandomWikiではACE3のコフィンシステム(COnnection For Flight INterface)がこの機体のモチーフであるとされている。これはある意味では正しい(全天周囲モニターと無人機AI開発はACE5以降グランダーI.G.によるものとして再整理された)が、赤い発光ラインはACE7では敵対するAI搭乗機を示す符合であり、赤色の機体それ自体、Z.O.E.に通じるものだろう。

その上で"Project Wingman"というプロジェクト名を鑑みるに、同プロジェクトは人間のパイロットが搭乗する戦闘機に随伴するAI開発を含む、次世代の戦闘機編隊開発計画ではないだろうか。実際、現実の戦闘機AIの開発の中には、対地攻撃機ではないものでは、次世代機に随伴するものという形で進められているものも見受けられる。

おまけ: PWとACES、どちらをニュービーに勧めるべきか?

ここではひとまずアクセスしやすい、ACE7とPWを比較するが、結論としてはACE7だ。

これはシンプルな話で、ACE7には救済措置がある。ステージ途中からのコンティニューと弾切れ後の多少の自動補充、一定程度のHPの自動回復(任意)などなど。

女王陛下に敬礼!

裏を返せばPWにはその全てがない。コンバットフライトアクションとしてはこちらの方がニュートラルだとは思うが、今世代の人間に酷であることは確かだ。俺はハミルトンネルで何度も落ちてオーカニエーバの歌声を飽きるほど聞いたが、素晴らしい演出もこれでは台無しである。

そもPWは、フラシュー経験者…というかACES経験者なら分かるよな、みたいな「信頼」がユーザーと開発者の双方にあって成立しているような演出や仕様がときたま存在するのだ。ACE7にもそういった初見殺しがないわけでは全くないが、途中からのコンティニューがあるだけ有情である。

ACE7をとりあえずACE難度でクリアしたら、カスカディアの空にやってくるのが、私としてはお勧めである。バンディットのケツをしっかり追えるマニューバを会得しないと、ガンキルが有効なPWの空は生きられないだろうから。

オマージュが沢山あるので可能なら、(3)・04・5・6を通っておくのもお勧めだが、時間に追われる現代人には厳しい要求だろう。



この記事が参加している募集

心に残ったゲーム

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?