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さよならを伝えた私の旅 前編

2021/12/23-24 旅行を目的とした一人での外出を生まれて初めて完遂

1人でレンタカーを借りて、1人の宿を予約して、1人でイルミネーションとライトアップされた熊本城を見上げ、1人を噛み締める。あれ、冬の夜空を、空に瞬く星を、隣で眺めてくれる人が私にはいたのではなかったのではないかと、疑問符を携えて。

何を隠そう、3週間前までの私は、クリスマスイブには彼氏と一緒に日田駅の前でリヴァイ兵長像を拝むのだろうと心から信じていた。熊本市の中心街にあるデパートの馬鹿でかいくまもん像なんか頭の片隅にもなかった。けれど誰ひとり未来は予測できず、確約された計画はないのだと嘲笑されるが如く、その予定は潰えました。

2年半付き合った彼と別れた。素敵な時間を頂いたなぁとしみじみと感じている。私にとっては初めてのパートナーだったけれど、相手の方は何人かお付き合いの経験が前からあったから、きっと向こうにとって不便さを感じる側面やもどかしい気持ちをさせる場面が多々あったのではないかと思う。それでも、今よりも随分世間知らずで利己的にしか動けない私を愛してくれていた。彼が私にくれた安らぎや言葉は私を強くしてくれたし、甘やかしてくれた。

思えば大学1年の頃から絶えることなく供にあったし、私が大学に入ってから一人きりで誕生日を迎えることはなかった。そうは言っても2回分しか一緒に超えることはできなかったんだけど。でも1回目も2回目も、彼なりに私に喜んでほしくて準備したんだってことが充分に伝わってきたし、本当に幸せだった。周りの人と恋愛の話になっても、自分は”いつも通り”だよって笑えるくらいに、彼は私に対していつも愛を与えてくれていた。クリスマスイブと同じ日が誕生日だなんて、お店や場所の予約には随分と困らせてしまったんだろう。

そんなこんなで、誕生日3週間前に「1人で過ごさなければならない」という事実が眼前に迫った私はひどく狼狽していた。本当に初めての1人の誕生日。高校までの時のように当たり前に家で私を待っててくれてる家族のもとに向かうことは叶わない。仲の良い友人は既に予定が埋まっている。誕生日って何すればいいんだっけ。21の私が迎えたい初日ってどんなもんなんだろう。何が正解で何が適している...?

ぐるぐるぐるぐる、たった1日をどう過ごすかを、期末レポートの執筆時よりお前真剣に考えてるんやないの?ばりに思考を練った私の答えは「一人旅」だった。

何をするか決まったら、行動するのは易い。バイトとか他の用事もあるから、一泊二日で行ける場所で1人でも寂しくならないところへ向かう。できれば、カップルが目に入る環境は避けたい。幸い私は運転免許証を既に持っていて、地方民として誇りをもってペーパーではないと断言できる。どこにでも行ける、私一人でもなんでもできる。

一夜の熟慮の末に決めた行先は熊本県だった。大分県から熊本県って隣の県やんけって侮ることなかれ。大分から熊本は高速を使っても3時間弱かかる謎の遠距離だし、電車やバスなどのアクセスもめっちゃ悪い。たぶんそんな中でクリスマスイブに熊本へ向かおうとするカップルはうちの大学にはいないし、だいたい皆北にあるオランダを模したテーマパークでイルミネーションを見るか、菅原道真お膝元の街でショッピングを楽しみながらオサレなディナーでも嗜むのだろう。私は知っている。なぜならどちらも私が昨年と一昨年に通ってきた道だからだ(白目)熊本に行き、山だの牛だの城でも見て、うまい焼酎でも飲んで誕生日を迎えようではないか。

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23日 10:00.am 初めてもらった21歳ハッピーバースデー

 別府一安く車を貸してくれる(だろう)レンタカー屋さんでカーナビ機能もついていない軽を借りて、別府を旅立つ。会社の規約で保険が21歳からしか入れないとの情報をネットで事前に掴んでいた私は、おそるおそる店員さんに明日が誕生日でも、やっぱりまだ20の人間は保険に加入できないのかと尋ねた。いや、うちは20歳から加入できるんですよ!と、大学生が多い別府らしく学生に対する寛容さを見せつけてくれた。それにしても明日が誕生日なんて、クリスマスイブが誕生日ってことなんですね、と話は続き、裏にいる目の前にいる店員の先輩らしき人物が、俺21年前のクリスマスイブとか何してたかなぁとぼやく。何はともあれ、私は21の誕生日を、そしてクリスマスイブを寂しく1人で過ごすのだということをなんとなくではあるが自ら暴露してしまった。しかし、二人の店員はそんな私の境遇には気を留めず(ありがたい)、会社の名前に相応しい優しい笑顔でお誕生日おめでとうと祝いの言葉をくれた(重ねてありがたい)。

23日 10:30.am 走り出す俺の車

諸々の手続きや諸注意を聞いてエンジンをかける私。とはいっても熊本までの途は長いし、コンビニで旅のお供でも買っていこうではないかと、駅近くのローソンに止まる。梅のおにぎりと少し大きめのサイズの緑茶ペットボトル。そして、前日に友人から頂いたメルティキッスを横に据えれば怖いものなしだ。意気揚々に大好きなシンガーソングライターの曲をSpotifyで選択して、Google mapで目的地は熊本駅に設定し旅立つ。贅沢を言えばATじゃなくてMTを運転したかったし、軽じゃなくてもう少ししっかりした車を借りたかった。それでも余暇を楽しめる経済的支援があるこの身分に感謝しよう。けれど、駐車場を出ようと車を道路に少し出した時、事件は起きた。

?「Gira a la izquierda」

時が止まった(気がした)待って、何右左どっち?てかなんでスペイン語?誰だよスペイン語設定にしたやつ(私だよ)こんなんじゃ熊本つけるかわかんないよ(まぁ、言語設定変えればいいだけなんだけど)てか元カレとの出会いってスペイン語の授業だったなぁ(え、つら)

しかし、ここまで来た私が引き下がることはできない。車は既に走り出した。もう止まることは(実を言うとできるけど気持ち的に)できない。スペイン語設定を変更してしまったら、見えない何かに負けてしまう気がした。ここまで来ても元カレを引きづってしまっている自分を認めてしまうような、否、最早ここまで思考を巡らせてしまっている時点で私は彼の幻影に囚われてしまっている。

意固地な私はハンドルを強く握りこむ。決して止まってたまるものか。予定より1時間以上遅れた到着になろうとも、気にせず走り続けたのだ。

23日 12:00.pm 見晴らしが良い

1時間半かけて、やっと熊本県に突入することができた。目下に広がる悠然とした大地と健やかな風に包まれる。だいぶ気持ちが落ち着いてきた気がする。2年ぶりに聞いたスペイン語にもだいぶ親しんできたところだし、ここは一服しようではないか。軽快に軽自動車から駆け下りた私の前に現れたのは3組のカップルだった。...うん、知ってた。こんな感動風景が拝める場所におひとり様はおろか友人と騒ぐ連中がいないことも知っていた。なんならそれくらい多様性に富んだ環境であれば私は自身の状況を悲観せずに済んだのに。どこのカップルも互いに腕を回し、まるで眼前の景色は自分たちのために用意されたかの如く誇らしげかつ穏やかな表情で各々に過ごしている。展望台から少し外れた道を見つけ、私がそこを1人で降り立ったとしても、全く気にも留めずに私の後ろをそろそろと付いていき、絶景ポイントへやってきては感嘆の息を漏らす。私はタバコが吸いたいのに。この雄大な風景を眺め、清廉とした大気を肺に取り込みながら一服したいというのに。なぜ、私の視界にずかずかと踏み入ることができるのか?変な鼻歌でも披露し奇人を演じてでも追い払いたいくらいの気分だった。

知っている。彼らに罪はない。なんなら全身真っ黒で明らかにおひとり様ですムードをかぐわせている自分こそがこの場に相応しくなかったのだ。結局私は展望台近くの仮設トイレの前まで移動し、広大な景色が見えるか見えないかくらいの場所で火をつけた。カップルちゅーのはこんな山の中腹にさえ存在するのだなぁとため息をこぼす代わりに吸い込んだ煙は悲しいけれどもうまかった。生憎、副流煙を垂れ流すほど心の荒んだ人間ではないので、精一杯の配慮をさせてもらったさ。

23日 1:30.pm 熊本市降臨

無事に阿蘇を過ぎ、熊本市内に到達することができた。実を言うと、先ほど自慢げに「慣れた」と豪語したスペイン語に何度も苦しまされた末の到着だ。それでも無事に駅までたどり着けた私に拍手を送りたい。駅近くの丁度よい駐車場を見繕い、車を停める。予約しておいたホテルのチェックインは午後4時からでないとできないらしいから、遅めの昼食を取りつつ駅ビルを巡ることにした。昼食を摂る場所は既に決めてある。準備の良い私は事前にインスタグラムのストーリーズ機能でおすすめのご飯屋さんやら観光スポット情報を収集しておいたのだ(勧められた大半の観光スポットは友人や恋人又は家族でまわることを前提とした場所だったため予期せずダメージを受けてしまったが...(自意識過剰の権化))。いくつかのご飯屋さんから私が選んだ場所は、だいぶ良いとこの寿司屋で働いている友人がおススメしてくれた回転寿司屋である。酒も食の趣味も結構合う(とこちらは推測している)知人のすすめであるし、きっと満足感ある食事を楽しむことができるだろうとルンルンでアミュプラザくまもと店を闊歩していたその時、視界を掠める某麦わら帽子の海賊団のポップアップショップ!私に10のダメージ!!どうやら熊本市は某海賊物語の作者の出身地らしく、作品に関連するグッズを販売するお店が置かれているようだった。返信への期待半分、自分への失望半分で元●レにお店の写真付きDMを送信(ちょろい)し、気もそぞろになりながら店内を軽く見物しておいた。

23日 2:00.pm 酔いどれ

既に時計は午後2時をまわっていたため、幸い席には直ぐ着くことができた。熊本の寿司屋のくせに、鹿児島弁でしゃべる職人さんは笑顔で私に対応してくれる。とりあえず日本酒バーの店員らしく、熊本の日本酒を頼み白身を注文する(今書いていて思い出したけど、付き合ってるときの唯一の約束で寿司屋にいったら鮪を絶対食べるとかいうふざけたルールがあったなぁ...と)ひやの次は何を飲んだんだっけ。多分焼酎かなんかのロックを飲んでいた気がする。ゆっくり味わいながら魚の身を噛み締めていたけれど、1人で飲んでるから他の人の酔い具合も気にしなくていいこともあって急激にアルコールがまわってしまった。頭はくらくらだけど、同年代と思われるバイトの子にこんな時間から酔っぱらってることなんか悟られたくないから、すました顔で会計を済ませようとしたのに、財布から出した金額は2000円ほど足りなかった。アッ、なんか違うところの数字見てました。とかよく分からないことを零して、へらへらと笑いながらお金を出しなおす私は最高にかっこ悪い。相手方は関わりたくないの意でいっぱいだっただろう。

23日 4:00.pm 布団があるのだから

つまり私は誕生日前日の昼から良い感じに仕上がってしまったのである。普段一緒にお酒を嗜む知人には見せられない醜態だった。酒と羞恥心で熱くなった顔を冬の風で冷ましながらホテルへ向かう。幸い予約したホテルは駅近くで徒歩5分で到着した。自動ドアが目の前で開き、奥をまっすぐと見つめる。受付の方に酔ってることは知られたくない。名前を告げ、部屋番号のところに蛍光マーカーが引かれた紙と鍵を受け取る。説明を聞きながら、あぁなるほど、とか分かったような言葉を漏らしたら、笑顔で相手を見つめて感謝を伝えた。そして足取りを間違えることなく部屋へ向かった。大丈夫、きっとバレてない。部屋に入り窮屈なブーツを脱いだら、とりあえず布団を引き寄せ眠りに落ちた。

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