LCD-SLA方式3Dプリンタ超入門
更新履歴
2020年11月7日
題名を変更しました。題名以外にも細かい修正を加えました。
(旧題名:LCD-SLA方式3Dプリンタで実用品を作る)
この記事は
はじめての3Dプリンタ購入から3ヶ月、ようやく欲しいものを作れるようになってきたので、現時点で一番手っ取り早い方法をまとめてみました。
なお、Fusion360などを使ったデザインについてはこの記事では「こうすれば、これが作れる」という説明に留めています。今回は財布投げ込みトレイの仕切り板を作りました。いろんな実用品については、今後、別の記事にしたいと思います。なお、財布からはみ出ているのは間違えて崩した1000円札です。
この記事は全部公開しています。安心して最後までご覧ください。
必要なもの
3Dプリンタ
KickstarterでLonger3DのOrange30を購入しました。レジン、予備のLCD、予備のバット、予備のフィルム、スクレーパー、六角レンチが付属していました。
IPAまたはエチルアルコール
洗浄に必要です。エチルアルコールは飲んでも大丈夫ですがIPAは毒性があります。酒税がかからないIPAの方が圧倒的に安いです。私もIPAを使っています。だいたいですが、レジン500mlを出力するごとにその2-3倍のIPAを消費するので、最初からどーんと4リットルx4本セットを買ってしまった方が楽です。ついでに500mlボトルも買っておくと、仕上げにかけ流して洗うときに使えます。タッパーに入れたIPAで出力を洗浄した後、新鮮なIPAをかけ流しておくと少し光沢がよくなる、ような気がします。
100均のタッパー
いずれもダイソーで100円です。汚れIPA用とすすぎIPA用に1700ml正方形、一度使ったケイドライ保管用とレジンで汚れたものを捨てるために1800mlの長方形タッパーを使っています。
スクレーパー
プリンタに付属してたやつは金属で角も尖っているのであちこち痛めそうです。私が使っているのは金属製と樹脂製のスクレーパーです。薄くて鋭利な金属製スクレーパーをビルドプレートと出力物の間に差し込んで隙間を作り、そこに樹脂製のスクレーパーをツッコんで剥がします。出力物にたくさんラフトを付けた場合には、樹脂製スクレーパーだけでもはがせます。
以前は別の金属製シールはがしを使っていて、それで問題なく作業できていたのですが……この富田刃物はスルッと刃が入っていきます。力を入れる必要がないのでビルドプレートを傷つけるリスクが激減します。
拭き取り紙
キムワイプを使っている人が多いですが、薄すぎるので私はケイドライとモノタロウの厚手紙ウエスを使っています。ケイドライは2段階に使います。一度使ったものをストックしておきレジンベトベトに汚れたビルドプレートやバットを拭いて捨てます。新しいものはIPAを拭き取るのに使い前記タッパーに入れておきます(前述の通りベトベトレジン拭き取りに使います)。厚手紙ウエスはすごく吸収性がよくて大きいので、手袋したままの手を拭いたり、IPAですすいだ器具を拭き取るために使っています。
ケイドライ
https://www.monotaro.com/p/3507/7987/
厚手紙ウエス
https://www.monotaro.com/p/6108/0258/
ニトリル手袋
未硬化のレジンが皮膚に触れると深刻なアレルギー等を発症します。ので絶対に手袋をして扱ってください。モノタロウのニトリルゴム袋は安くて良いので愛用してます。モノタロウブランドの品物は安かろう悪かろうという印象なのですが、ニトリルゴム手袋と前記厚手紙ウエスだけは例外です!
https://www.monotaro.com/p/3577/9134/
トランプ
カードゲームのあのトランプです。プラスチック製が良いです。バットの中のレジンをかき回したり、ビルドプレートから滴っておちるレジンを掻き落としたりするのに使います。
FEPフィルム
非常に重要なパーツですが、消耗品です。消耗というか損耗というか。キットに付属しているものではあっと言う間に足りなくなるので、予備を買っておきましょう。AliExpressで適当なものを買ったのですが、特に品質の違いは感じません。
レジン
これもあっと言う間に無くなります。現在、品質価格ピンからキリまでなのですが、ANYCUBICのを買っておけば失敗はしないです。私が最近愛用しているのは、植物由来レジンというやつです。植物由来でも有害物質であることには変わりないのですが、匂いが少ないのと、あまり黄ばまないのが良いです。やっっっすいレジンは「これ黄色というよりも茶色?」ってぐらい、色が変わりますから。【追記:最近在庫が払拭気味で追加されません。Anycubicさん扱いをやめちゃうのかしら。なおAliExpressでしたら、まだ在庫があるようです】
フィルター
塗料用フィルターというものがあります。その名の通り、塗装業者さんがペンキを濾過するのに使うやつです。私はヨトリヤマというメーカーのディスポフィルターを使っています。紙製の折りたたみ式のもありますが、プラスチックで円錐形をしたやつの方が扱いやすいかと思います。消耗品だろうと思ってたくさん買ってしまったのですが、最初の一個をずっと使っています。残り49個どうしましょ。
https://www.monotaro.com/p/0028/3395/
塗料カップ
これも塗装業者さんが使うものです。使い捨て塗料カップと、カップホルダーを使っています。カップに前記のフィルターをのっけて、そこにレジンやIPAを流し込んで濾過します。
https://www.monotaro.com/p/8971/5955/
https://www.monotaro.com/p/8971/5946/
漏斗
私は4リットルIPAに付属してきたやつを使っています。塗料カップがあれば、漏斗がなくても大丈夫です。私の場合IPA廃棄用容器の口が狭いので、タッパーから移し替えるときに使うぐらいです。
ひよこ刷毛
別に「ひよこブランド」でなくても、持ち手が無塗装で比較的コシがあり溶剤耐性があれば何でもいいです。
https://www.monotaro.com/p/3810/0054/
USBメモリ
Orange30はWiFi接続できないので、USBメモリ経由でデータを与えます。Orange30には付属しています。
シャコ万力x4個など
【追記】なければ、なくても何とかなります【追記終わり】FEPフィルム交換時に使います。5個1000円前後で売っている50mm〜100mmの小さなやつで充分です。私はもともと持っていた木工用のコーナークランプを使っています。要するにバットの上下左右を挟んで、ネジでギリギリ締め付けることのできるものがあれば何でもOKです。
六角レンチ
プリンタによってフィルムの固定方法は違いますが、Orange30の場合には2種類の六角ボルト20本で固定します。よくあるL字型の六角レンチだと大変です(プリンタに付属していると思います)。なので、私はこれ買いました。おかげでロードバイクの整備が簡単になりました(よい副作用)。
電動でも良いのですが、M3の六角ボルトはちょっとトルクをかけすぎると折れるので、手動で締め加減を調節しながらの方が良いかもしれません。トルクリミッターのついた電動ならベターですが、かといってトルクレンチを使うほどでもないな、という気がします。
アプリ
立体をデザインするためのアプリ、STLファイルをスライスするスライサー、スライサーの出力をプリンタ用に変換するアプリが必要です。
デザインには私はFusion360を使っています。一応メイカーなので商用ライセンスを買っていますが、個人や学生が使うのであれば無償ライセンスで使えます。
Fusion360から出力したSTLをスライスするには、CHITUBOXを使っています。
CHITUBOXから出力されたZIPファイルを変換するにはOrange30に付属していたLonger3D社製アプリを使っています。
3Dプリンタ到着から最初の出力まで
プリンタごとに、どのぐらいの組み立てレベルで届くのか違いはあると思いますが、Longer30は本体は組み立て済みで、ビルドプレートをネジ止めしてキャリブレートし、バットをねじで止め、アクリルカバーをアングル材とゴムバンドで止めるだけで出力可能になりました。一番大変だったのはダンボール箱と緩衝材の処分でした。
キャリブレーション
LCD-SLA方式3Dプリンタは、ビルドプレートとFEPフィルムの間のごく僅かな隙間に入り込んだレジンに紫外線を当てて硬化させます。そのため、キャリブレーションは大変重要です。Orange30では、A4コピー用紙を二つ折りにしてはさんだ厚さ、という基準になっています。左右にあるバット取り付けネジを外して二つ折りにしたコピー用紙を液晶パネルの上に起き、バットを載せます。
次にビルドプレートを固定している4つのネジをぐらぐらに緩めてから、操作パネルから液晶を最低までおろします。この状態で左手でビルドプレートをグッと下に均等に押し付けた状態で右手で4本のネジを対角線の順番に均等に締め付ければ、FEPフィルムとビルドプレートの間にA4コピー用紙2枚分の隙間が確保される、という寸法です。
終わったらコピー用紙を除去してから、バットの左右のネジを締め込みます。
この作業は、バットやFEPフィルムを交換するごとに実施した方が良いと思います。同じメーカーの同じロットのFEPフィルムなら省略してもいいと思いますが、調整した時と室温が変われば隙間も変わりますので。
レジンを注ぐ
レジンを注ぐ前にボトルはよく撹拌しておきましょう。特に透明でないタイプは念入りに。顔料?の微粉末で着色しているので、底に粉が沈殿しているからです。
注ぐ量ですが、レジンが少ないと出力途中で干上がります。かと言って多すぎるとビルドプレートが下がったときに溢れます。でかくて密度の高いものを出力するならともかく、そうでなければバットの1/4 〜 1/3程度入れればいいかと思います。
ChiTuBoxにプラグインを入れる
当初はFusion360などでSTLファイルを作る→ChiTuBoxアプリでスライスする→Longer3D提供のアプリでOrange30用に変換する、という3ステップでした。が、ある日突然Longer3Dでの変換がうまく行かなくなり、対策を探したところChiTuBox用のプラグインが出ていました。これを使えばLonger3d製アプリは不要になり、手間が省けます。この手のプラグインは各プリンタメーカーが用意していることが多いので、Longer Orange30の手順を書いておきます。
プラグインは以下からダウンロードできます。
ダウンロードしたプラグインは、ChiTuBoxを起動して画面右上の「Ⅲ」からヘルプ>プラグインを選び、
開いたウィンドウで「インポートプラグイン」からダウンロードしたプラグインを選択します。
次に、画面右側の「設定」ボタンを押して、右上の"ファイル+"アイコン(新しいプリンタを追加する)を選ぶとプリンタ選択リストにOrange30があり、これでOrange30の設定が活きます。
このあと、STLファイルを読み込んでレイアウトを決め、必要ならサポートを追加して、「スライスボタン」、「保存ボタン」とすれば、この時点でOrange30用のデータファイルが作成されています。ひと手間減っただけなんですが、待ち時間のあとのひと手間だったので結構煩雑でした。
Fusion360で、財布立てを作りましょう
インストール、フリーで使うためのアカウントの取得、などについては他の記事をご参考になさってください。この記事ではFusion360が起動している状態から始めます。
まずはスケッチ
Fusion360で実用品を作る場合はスケッチから始めます。スケッチは平面図です。工業製品が三面図で示されるように、平面図を組み合わせることで形の素を定義します。
できあがったものがこちらです。紙に完成イメージを書いてから作業する方がスムーズに進められると思います。
赤い矢印の面をスケッチとして定義します。
スケッチを作成
「スケッチを作成」を選ぶと、3つの基準面が表示され、どれを基準とするか選ぶ必要があります。この場合は、上の完成イメージに忠実に縦の面(グレイになっている面)を選びます。
長方形を3つ
作成>長方形>中心の長方形を選び、画面の中心点からから底面となる2x100mmの長方形を作ります。ドラッグすると数値を入力する欄が出てきますので、2tab100tabで寸法を指定し横長の長方形にしてリターンキーを押します。縦長になってしまったら100tab2tabと入力し直してからリターンキーを押します。
次に縦の仕切りを作ります。作成>長方形>2点の長方形で中心点付近に縦長の30x2mmの長方形を作ります。同様に右半分ぐらいの位置に30x2mmの長方形を作ります。縦の長方形が横長の長方形の中心から始まっているようにします。画面の縮尺を変えるとグリッドが変化しますので、適宜縮小拡大しながら操作すると1mm、5mm単位にきちっと揃えることができます(「寸法」という機能をつかえば任意の寸法で固定することができますが、それはまた別の記事で)。
スケッチを終了します。
右上のホームボタンを押すとこんな感じになります。
「押し出し」で立体に
ではこれを立体にします。「押出」を選び、マウスを左上から右下へのドラッグで長方形3つが選ばれるようにします。そして入力パネルで方向:対称、距離25mmを入力すると
このように奥行き50mmの立体になります。
OKを押せば確定します。
フィレットを付ける
角が尖っていると危ないし扱いにくいので四隅にフィレットを付けます。修正>フィレットを選び、底板の四隅の縦の線だけを選び、5mmを入力してリターンキーを押せば、半径5mmで丸くなります。四隅を選ぶ時には図形を回転したり、縮尺を変えながら操作すると選びやすいです。
フィレットを付けました。
同様にして、上端にもフィレットを付けます。
底面にビルドプレートから剥がしやすくするための1mmのフィレットをつけます。右上のアイコンから「下」をクリックするかドラッグして下面を表示しておいてからフィレットを選び、周辺をクリックします。四隅がフィレットでつながっているので1回で選ぶとぐるりと選択されます。
STLファイル
これで出来上がりです。PC/Macの一般的なお絵かきソフトなどとは操作感が違うので、最初はうまくスナップできなかったり選択が決まらなかったりでスムーズに進まないと思いますが、慣れれば5分ぐらいで作れます。
ここで作ったものは、右端のブラウザ、ボディ>ボディ1を右クリックして現れるメニューから「STL形式で保存」を選ぶと、3DプリントのためのSTLファイルとして出力することができます。
Fusion360を学ぶには
私はMakersLoveさんのFusion360セミナー初級・中級編に参加して学習しました。セミナーは、疑問点を質問できるところがありがたいです。特にFusion360は謎のショートカットでへんなモードに入り込んでしまって意図した操作ができなくなるというトラップがたくさんありますので、そういうときに「あ、それはね」って教えてもらえるのはとてつもなく時間の節約になります。
無料の配布資料をダウンロードできますので、ぜひ試してみてください。
3Dプリンターに最適!無料3DソフトのFusion360入門を配布
https://makerslove.com/8701.html
レジンを扱う前に
未硬化のレジン液が皮膚に接触すると接触性皮膚炎、化学物質過敏症、有機溶剤アレルギーを発症することがあります。
レジンによるアレルギーは本当に激烈で「死んだほうがマシだ」という発症者もいます。発症したらほぼ治りません。
充分、気をつけましょう。レジンが付着してる可能性のあるところ、一度付着したところは、すべて汚染されていると見做して手袋をして扱いましょう。例えば、我が家の場合、3Dプリンタ専用の道具と3Dプリンタ本体は汚染されているという認識ですが、USBメモリと液晶タッチパネルだけはレジンで汚れた手袋では触らず、素手で扱っています。汚物とそれ以外、という分け方をすると案外楽に生きていけます(人生訓ではないですが)。
出力〜後始末:準備
バットのネジがちゃんとしまっているか、ビルドプレートのネジがしっかり固定されているか、バットに充分なレジン液が注がれているかなどを確認します。
【追記】あと前に出力したものを取り除いたかどうか確認しましょう。まさかそんなミスは、と思っていたら1回やってしまいました。幸い液晶は無事でしたが、FEPフィルムに穴が空いてレジンが漏れる大惨事でした。
出力を開始する前に重要な作業があります。それはバット中のレジン液の撹拌と泡の除去です。
前述の通り、レジン液に着色用の粉が入っているのでしばらくすると沈殿します。なので、レジン液の撹拌が必要です。トランプを使ってバットから液が溢れないように注意しつつ、FEPフィルムの表面を撫でるようにしてかき回します。これをする前は、ビルドプレートから剥がれたりやけに粉っぽいものが出力されたりしたのですが、かき混ぜるようにしてから格段にトラブルが減りました。ぜひ実行してください。かき混ぜ終わって泡が残っていたら、トランプで泡を周囲に寄せ集めてバットの壁にくっつけておきます。
繰り返しになりますが、この作業ではレジン液に直接触れる可能性があるので、大丈夫だと思ってもニトリルゴム手袋をはめて作業してください。トランプと一度使った拭き取り紙を用意しておき、撹拌したあとは拭き取り紙でレジンを拭ってからIPAで洗っておきます。トランプを買うと53枚入ってますので、数枚を適宜ローテーションして使えば拭き取りや洗浄の手間を少し減らすことができます。
出力〜後始末:出力
Orange30では、USBメモリをコネクタに差し込んで、液晶タッチパネルからファイル選択アイコンをクリックし、ファイル名一覧をページ送りして目的のファイルが表示されたところで該当ファイルを2回クリックし、実行ボタンを押し、ダイアログでチェックボタンを押すと出力が始まります。このへんはお使いの機種により異なると思います。
実行開始すると終了予定時間が出ますが、だいたいあてにならないですよね。
出力〜後始末:後始末(成功した場合)
以下、手袋を装着しての作業です。新聞紙、トランプ、ケイドライ、IPAを入れたタッパーを2つ(汚れIPAとすすぎIPA)、汚れ物を捨てるためのタッパー1つ、ひよこ刷毛、スクレイパーとシールはがしを用意します。
まずビルドプレートをマニュアルモードで作業に支障のない位置まで上げます。Orange30の場合は液晶パネルからメンテナンス>プレート操作>移動量設定(50mm)、上ボタン1-2回、という操作です。
ビルドプレートを外します。レジン液がバットの外に垂れないように注意しながら、トランプでビルドプレート上のレジンを掻き落とします。まぁ完全には落とせないですが、レジンの1滴も結構高いのでがんばります。
一度使ったケイドライでベタベタのレジンをさっと拭き取ります。この際、出力物をあまり強くこすると傷が残るのでさっと撫でる程度で。ビルドプレートはゴシゴシ拭いても大丈夫です。きれいに拭き取るとIPAの寿命が伸びますのでがんばります。拭き取りに使って汚れたケイドライは廃棄物タッパーの中に捨てます。
ビルドプレートを汚れIPAタッパーに入れて、ひよこ刷毛で洗います。ビルドプレートの6角ネジ穴などに溜まりやすいので注意して洗います。色の濃いレジンを使うとわかりますが、レジンは刷毛でさっと撫でたぐらいでは落ちません。傷をつけないように気をつけながら丁寧かつ念入りに洗いましょう。
ビルドプレートから出力物を剥がします。ラフト付きサポートや薄いものであれば、スクレイパーを密着面に差し込めば取れるのですが、箱をビルドプレートに密着させて出力したような場合は難しいです。この場合は、シールはがしで一部を剥がしてから、そこにスクレイパーを差し込んで全体を剥がします。シールはがしの刃はゆるく湾曲しているので、刃の左右のエッジがビルドプレートに触れないよう注意しつつビルドプレートとほぼ平行に刃を差し込みます。刃が強くビルドプレートに当たると確実にビルドプレートに傷が付きますので、くれぐれも慎重に。特に、刃が入るときは結構力がいりますが、一度入ると「ズッ」と奥に入ってしまいます。このときにビルドプレートを傷つけやすい(と経験者は語るのです)ので、気をつけましょう。
剥がした後は密着していた面をさっと洗って、使用済みケイドライで拭いてからすすぎIPAの中へ移します。すすぎIPAで丁寧にレジンを洗い落とします。特に出力物は、四隅、ネジ山、ネジ穴などの細かいところにレジンが残りやすいので丁寧に洗ってください。出力物を新品ケイドライで軽く拭き取ってから乾燥させます。ここで使ったケイドライでビルドプレートを拭き取ります。ビルドプレートは、上のネジ部分にレジンが残らないように注意します。ここにレジンが残ると出力後に外そうとしても固着して外れなくなりますので(経験者談)。使ったケイドライは保管しておいて、次回レジン拭き取りに使います。
出力物の乾燥はホコリ等がつかないように注意します。急ぐときはエアで飛ばせばきれいに乾きます。
ビルドプレートはよく乾燥させてから本体に戻します。
出力物は、紫外線ランプや日光にあてて後硬化させます。レジンにもよりますが、後硬化は長すぎると黄色くなってしまいます。特に初めて使うレジンでは均一に硬化・黄化するように1-2分ごとに裏返して様子を見る感じでしょうか。
さて、出力物は反ります。特にビルドプレートに密着させて出力したものは、間違いなく反ります。でも、大丈夫です。ヘアドライアーで40-60度(レジンや出力条件によります)に暖めてから、冷たい平らな面に押し付けていると平らになります。その際は、谷側を上にして伸ばします。縮まって谷になっているので、そっちを伸ばす感じです。温度はお風呂温度ぐらいから初めて、少しずつ高くしましょう。55度までは大丈夫だったけど60度でグニャ、ってことがありますので。
お疲れさまでした、以上で1サイクル終了です。
出力〜後始末:例外的手抜き
これは賛否両論かもしれないんですが……
こういう円筒を出力した場合、ビルドプレートを本体から外し(本体に力がかかってネジが破損するのを防ぐため)、ビルドプレートと円筒を持ってポキッと外してやり、そのままビルドプレートをもとに戻してます。
これだと洗浄の手間が一切省けます。完全平面を含むいくつかの出力で確認しましたが、特に問題はありませんでした。
ただまぁ長時間かかるような大物を出力する前はしっかり洗って拭き取った方が失敗したときの後悔は少ないと思います。
出力〜後始末:後始末(失敗した場合)
失敗とはこの場合、FEPフィルムに固着してしまった場合のことを示します。
以下、手袋装着しての作業です。
まずバットからレジンを移します。レジン自体が劣化したわけではないので、別の容器に移して後で戻します。私は塗料フィルタと塗料カップを使って、濾過しながらカップに入れておきます。
バットと本体を固定しているネジを外して、バットを取り外します。ケイドライなどで軽くフィルムを拭き取ります。この際に剥がれてくれることもあります(私は4回固着して1回だけ)。拭き取ったあとはIPAで軽く拭き取ります。
剥がれてくれなかった場合には、まずトランプを使ってみましょう。トランプを湾曲させてFEPフィルムに平行にくっつくようにして削り落としてみます。これで落ちることが多いです。
【追記】それでダメならカーボンスクレーパーを使います。あまり強く当てるとFEPフィルムに傷がつくので、気をつけましょう。
それでもダメならシールはがしを使いますが、シール剥がしの刃がFEPフィルムに当たるとフィルムが傷つきます。なので、貼り付いたレジンのごくごく薄い側面を押す、という気持ちでシールはがしを使います。もともとテフロンなので、それほど力を入れなくても剥がれるはずです。
それでも剥がれない場合には……ダメ元でシールはがしを少し立ててFEPフィルムに触れるか触れないかでなぞってみます。
傷がついてしまったり、どうしても剥がれなかった場合には……FEPフィルムを交換しなければなりません。ただ、FEPフィルムの傷については、そんんんんんなに神経質にならなくても大丈夫かな?という印象です。もちろん穴が空いたり凹んだりしていたら交換必須ですが、ちょっと引っ掻いたような傷が付いている分には影響しませんでした。もちろん程度問題ですし、もしダメだった場合には出力失敗した分のレジンが無駄になるだけでなく、1回余計にバットを洗う手間が増えてしまうことになるので……その辺は手間とリスクを計りにかけてみてください。
この辺の「ダメ元感」を維持するのが、プリンタと付き合うノウハウなのかもしれないなぁ、と思っています。
廃棄物処理
ケイドライや失敗レジン
レジンで汚れたケイドライや失敗した出力、切り取ったサポートなどはレジ袋などできっちりくるんでから燃えるゴミに出します。
ニトリルゴム手袋は5-10回程度使うと裂けやすくなりますので、適当にゴミが溜まってきたところで手袋をしたままゴミを握り、そのまま手袋を裏返すように外して口をしばると丁度いいゴミ捨て容器?になります。燃えるゴミに出しましょう。
使用済みIPA
念のためですが、使用済みIPAを河川や下水に流すのは、絶対にNGです。
大量のIPAを燃えるゴミとして出すと、自治体などの焼却炉にダメージを与える可能性があります。ウエスなどに染み込ませて少しずつ燃えるゴミに出すか、少量ずつ火気のない所に放置しておいて蒸発させます(大気に放出されたIPAは細菌等により分解されます)。
以下考察
使用済みIPAに日光をあてるとプリンのように固まるのですが、その状態で火を付けたらどんな感じで燃えるのか確認してみたいです。もし、燃焼がゆっくりになるのであれば、そのまま燃えるゴミに出せますし。
うまく出力するための設計
圧力逃し穴を作る
ビルドプレートが上下してFEPフィルムとの間に挟まったレジンを硬化させます。ただ、レジン液は結構粘りがあります。こんなものを50ミクロンまで押し付けようとすれば、かなりの圧力がかかりますよね。
そのため、箱を作ったりすると逃げ場を失った圧力が壁を壊してしまいます。なので、箱の底面の少し上には壁に穴をあけてレジンが抜けるようにしてください。私の場合は、15-25mm間隔で1.5-2.0mmの穴を空けてます。
ビルドプレート密着型か否か
直方体・立方体の箱を作るような場合には、CHITUBOXでビルドプレートに底面が密着するように設定するときれいにできます。ビルドプレートに密着させると剥がせないという記述もよく見かけるのですが、鋭利かつ滑らかなシールはがしをビルドプレートと出力物の間に差し込んで、そこに丈夫なプラスチック製スクレーパーを押し込んで剥がせば、ビルドプレートにも出力物にも傷を付けずに剥がすことができます。具体的な方法は前記「出力〜後始末:後始末(成功した場合)」に書きました。
なお、ビルドプレートに接する面は硬化時間が長いため、それ以降の層と比べると収縮率が低く、どうしても反ってしまいます。収縮率の高いレジンほど反りやすいです。ただ、ドライヤーなどで50-60度ぐらいに温めてから冷たく平らな板に押し付けて冷ますと反りを補正することができます。
フィギュアなどの出力と違って、実用品を出力する場合は底が平で壁が垂直、っていうことが多くなりますが、ビルドプレート密着型は失敗の確率が格段に低くなります。
後、ビルドプレートに密着した面は硬化時間が長いためどうしても太りやすいです。30x30mmで指定したものが30.5x30.5mmになってしまいます。なので、設計の段階で底面に接するエッジはすべて1mmのフィレットで丸くしておくといいです。ビルドプレートから外す時にもシールはがしを差し込みやすく作業が楽になります。
サポートは太めで
大きさや形状にもよるのですが、CHITUBOXの「細」サポートではビルドプレートの押し付け圧力に耐えられず形が歪んでしまいますので、太いサポートを使います。
また、ビルドプレートから離れるに従って面積が急増しないような形状、あるいは向きにすることも重要です。
面積が急増するとビルドプレートに押し付ける力/ビルドプレートから剥がす力のどちらかに負けてFEPフィルムと正しく接触できず形が歪んでしまいます。
写真はサポートのすぐ上に水平な面を置いた場合です。剥がれて気泡が入ったり太ったりでボロボロです。
長いものは縦で
多くのLCD SLA方式3Dプリンタでは高さ方向が一番長いのではないでしょうか。Orange30も底面120x60、高さは180mmまで出力できます。
透明レジンに注意
透明なレジンはSLA特有の透明度の高さを発揮できますが、透明ということは紫外線を通してしまうということで、それ故の不都合もあります。
上の2枚は電子工作用もケースです。ビルドプレート側底面にトタン板上の凹みをつけてプレートから剥がしやすくしつつデザイン性を高め(当社比)ています。そして、ケースの内側には高さの違う2枚の基板を支えるための足を直方体のブロックがあります。
これは、不透明なレジンで出力すれば問題ないのですが、透明レジンだとブロックの下の波模様が消えてしまいます。なぜなら、ビルドプレート近くで波模様が生成されていても、そのあとビルドプレートが上昇して直方体ブロックを出力する際にはずっとここに紫外線が当たり続けるため、通り抜けた紫外線がビルドプレート近くまで届いて硬化させてしまうからです。
ビルドプレート上で完全に硬化してくれる分には良いのですが、中途半端に硬化したものがビルドプレートから剥がれると、レジン中に浮遊してしまいそれ以降の出力で失敗の原因になります。この場合は失敗して初めてわかる系のトラブルなので厄介です。
透明レジンは出力されるときにどのように紫外線があたっていくか、を考えつつ使う必要があります。
レジンを使い切ってはいけない
安い知らないブランドのレジンを買ってみたものの臭くて二度と買うもんか!
でももったいない。そういうレジンは何か適当な実用品を出力して使い切ってしまえばいい。
……そう思って、大きな箱の中を区切って使うための仕切りを出力してみました。長さに精度の必要のないものの長尺方向を上下方向にして出力すれば、途中でレジンが無くなっても適当な長さで使えるからいいじゃん?と。
結果は……無くなったところで残ったレジンがFEPフィルムに固着してしまい、フィルム交換することとなりました。
残った数十円分のレジンを惜しんだために起こった大惨事です。
メンテ - レジン液の交換
レジンは同じボトルのものであれば、継ぎ足して使えます。最近は品質が安定してきているので、同じ銘柄のものであれば問題ないかと思います。
ただ、まだバットに残っているけど、他の色を出力するためにレジンを変えたい、という場合には、以下の手順が必要です。
念の為ですが、以下も手袋必須です。
バットのレジンをボトルに戻す
よく洗浄して乾かした塗料カップに塗料フィルタをセットして、バットからレジンを流します。カップに入れたレジンはボトルに戻します。
バットの洗浄
使用済みのケイドライでバットをきれいに拭き取ります。最初の1-2枚でできるだけ拭き取ったら、少しIPAを流し込んですすぎながら拭き取ります。最後にIPAを完全に拭き取ってください。なお同じシリーズのレジンであれば、レジンが直接残っていない、という程度で良いかと思います。ただ、黒いレジンを使った後に白いレジンを使うような場合、均一に顔料が混じってくれれば良いのですがムラになってしまうので、IPAを50mlほど流し込んでひよこ筆できれいに洗ってから拭き取りましょう。洗い終わったらIPAをしっかり乾燥させます。すすぎに使ったIPAで前の作業で使った塗料カップや塗料フィルタも洗います。塗料カップに関してはレジンがついたまま日に当てるとカピカピに固まって剥がれるはずですが、私がやったら固着して取れなくなったので自己責任対応でお願いします。
レジンを注ぐ
あとは次のレジン液を注ぎます。注ぐ前にボトルを良く撹拌しておいて(転倒混和推奨)バットに注ぐのは前述の通りです。
メンテ - フィルムの交換
重要なこと
それは買ってきたFEPフィルムには両面に保護フィルムがついている、ということです。ちゃんと剥がしてから装着しないとダメです。一度装着したFEPフィルムは再利用できないので、1枚無駄になります。と経験者からのアドバイスです。
作業上の注意
作業台をきれいに掃除して、フィルムを傷つけるようなゴミや凸凹がないことを確認します。そこにケイドライを2-3枚敷いて、その上で作業します。
また、バットの隙間などに未硬化レジンが残っている可能性があるので、必ず手袋をして作業します。
作業が終わったら、作業に使った六角レンチなどをIPAできれいに洗っておきます。六角レンチがこの作業専用のものならば良いのですが、素手で触れる可能性のあるものにはレジンが残っている可能性を排除する方が安全です。
あとは、ネジの数が多いので、ネジを入れるトレイを用意しておきましょう。私は3個100円のステンレス灰皿を使ってます。無塗装のステンレスはジャボジャボ洗えるし静電気も起きないので、たくさん買っておくと電子工作などにも便利です。
作業
前記の通り、作業台をきれいにして、IPAタッパー、廃棄物タッパー、保護フィルムを剥がしたFEPフィルム、ネジを入れるトレイ、六角レンチ、クランプ、カッターナイフを用意し、手袋をしてからバットを作業台に置きます。
Orange30ではこういう作業は全部動画になっているのでその通りに作業します。ネジを緩めるときも締めるときも対角から少しずつというのは基本通りです。アルミ製のバットが歪まないために重要です。だいたい最初に緩めるときに「パキッ」と音がしますが、最初は半回転ぐらいで一巡、次に1回転で一巡したら、あとはもう普通に緩めていって構いません。
【追記】Orange30では、バットを締め付けているネジは2種類あります。また、バットは3つのアルミ部品と多数のネジで構成されています。下の2枚のアルミ板でフィルムを押さえてしっかりネジ止めし、その2枚とバット本体とを別の長いネジで固定しつつ下の方にフィルムを押し出してピンと貼ります。2種類のネジで役割が異なることに注意してください【追記おわり】
トレイを分解したら古いFEPフィルムを取り除いて安全に捨てます。
バット全体をIPAで洗います。バットはこの後も常に手袋をして扱うものなので、そんなに神経質に洗わなくてもいいかと思いますが、少なくともフィルムの接する面だけはキレイにしましょう。
バットでフィルムをはさみます。
【変更】Orange30では下2枚のアルミ板でFEPフィルムをしっかり挟み込んでネジで固定し、この2枚を上のバット本体にネジで抑え込む構造です。
手順もその通り、下2枚のアルミ板でフィルムをネジ止めしてから、バット本体とネジ止めします。この手順通りにすると、万力などを使わなくても、比較的楽に固定できます。
ただ、電動ドライバー+六角でないと苦戦するかもしれません。なにせ、ネジのナット部分の手前にFEPフィルムが挟まっているのでかなり強く押し付けながらドライバーを回す必要があるのですが、手回しだとちょっと難しいです。でも電動ドライバーを使えば、ただ強く押さえつけながらスイッチを押せばいいので、格段に楽です。
なお、締め込む時に電動ドライバーを使うとネジをぶち切る可能性があります(経験者・談)ので、ほどほどに。でも緩めるときは圧倒的に楽ですよ。
ネジを差し込んだらまず全体をネジが軽くまわる程度にゆるく締めます。全体が均一かつゆるく締まったら、緩めたときと同様に対角のネジを「☆」を描くような順番で締めていきます。締めるときも二段階、2巡で締めるようにしてください。その後、締め忘れているネジがないかを順番に確認します。【変更ここまで】
しっかりネジを締めたら、バットからはみ出しているフィルムをカッターナイフで切り取ります。
最後に使用した道具をIPAできれいに洗浄します。道具のプラスチックの握り部分などはIPAに弱いものもあるので、漬け込んだりしないで一つずつ拭き取るようにして掃除しましょう。最初に作業台に敷いた3枚のケイドライを使えば無駄なく作業ができます。
メンテ - LCDの交換(未経験)
LCD-SLA方式は液晶に強い紫外線を当てます。紫外線と温度上昇のせいで、液晶の寿命は数百時間程度と言われてます。私のOrange30は推定300時間程度で一部液晶が光を通さないスポットができてしまいました。はしっこに1mmぐらいの穴が空いてしまいます。きれいな円なので、回路や画素が死ぬのではなく、液晶物質自体がだめになるのでしょうね。ということで交換しなければいけないのですが、幸い端の方だけなのでそのまま使ってます。もうちょっと悪化して出力に支障が出たら変えます。その顛末はまたここに加筆します。
失敗しないデザイン
完全なオーバーハングを作らない
ビルドプレートと完全に平行な「天井」は、サポートを入れないと確実に失敗します。少し傾斜をつけるか、半径の大きなフィレットで曲面にします。
ネジ
Fusion360にはネジ山を作る機能があります。ボルトとナット、一方が出力物で他方が金属だと良いのですが、両方とも出力物だと固くて入らないこともあります。
ネジ蓋
たとえば容器のねじ込み蓋のようなものは、直径30mm以下の比較的小さいものなら、蓋と本体両方の硬化時間を揃えて比較的収縮の少ないレジンを使えばFusion360のネジでもうまくいきます。
それより大きな物を作る場合には、雄ねじと雌ねじを同じピッチで少し直径を変えると簡単につくれます。例えば、雄ねじをM54、雌ねじをM56で両方を3mmピッチにします。ネジ山での密封度は期待できませんので、ネジをいっぱいに締め込んだときに蓋と本体が密着するようにします。下の図はM54とM56の組み合わせで作ったネジ蓋です。
ただ、標準のネジでは設定に制限があります。大きなネジ蓋を作る場合にはバネの螺旋を使って断面を揃えて指定した方が使いやすいネジになります。
最後に(お買い上げに対する御礼)
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