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唐辛子の夏

 今年の初め、僕は七味唐辛子の過摂で腹を毀した。それが辛みに対する興味の始まりとなった。
 ところで、英語では「暑い」も「からい」も同じhotという言葉で表す。辛いものを食べれば、体のなかに熱がたまるからだ。実際今は猛暑の時期。何をしていなくても汗はどんどんこぼれる。

 そういう日こそ、もっと辛いものを食べたくなる。
 この季節にな! この季節でなければ、からいものを食べる意義は半減してしまう。

 僕はすでに、いくつかのラーメン店に行き、あつあつのラーメンに七味かけて食べた。ただでさえ熱気がこもっているのに、そこに辛味をまし加えるのだから、火に油を注ぐようなもの。
 肌に出る汗で体は冷えるし、まして店には冷房が効いているのだから、この時の体感温度の異様さと言ったら、ない。

 実際からくてたまらないのだし、舌はなかば死にかけになってしまう。早くこの時間が畢ってほしいという気持ちさえ。だからこそ僕の食欲はかえってそそる。
 この苦しみがあるからこそ、目前のおいしさが輝く。作ってくださった方々に圧倒的感謝。
 すると耐えがたい辛ささえどこかでは快感となるし、むしろもっと食べたいという気持ちがわき始める。
 水? そんなものいらねえ。俺はこのからみを真正面から受け止めるんだ!
 肉! あぶらぎったこの質感を汁が覆い、柔らかい歯ごたえがうまみと溶け合ってああ、たまんねえな~!

 これがたらゐ流。あえて苦しい環境で食べることにより、食べることにかき立てられる、実に逆接的食事法だと思わないか?
 しかし、ある意味では自分で自分の命ちぢめてる、危険なやり方でもあるな……。