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【3分で読める】「あの夜を覚えてる/Creepy Nuts×Ayase×幾田りら」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【歌詞解釈】

急いでいるつもりはないのだけれど、次第に歩調も早まる。坂の下の方に向かって伸びる私の影が、私の落ち込んだ心情を表すように、ぐにゃぐにゃと曲がっている。

嫌なことがあった時、私はわかりやすく表情に出てしまうタイプらしい。今日もバイト先の店長にそれを見抜かれて、なんとなく一日中居心地の悪さを感じていた。ボーッとしていたせいでコーヒーをこぼし、制服のシャツに染みを作ってしまった。

たかが男に振られたくらいで、ここまで心が沈む女だとは自分でも思わなかった。いや、たかがで済ませるには、あまりに一緒に過ごした時間が長すぎた。三年も付き合ってきた彼との別れは、思いがけず、唐突に訪れたのである。

自宅の玄関口に到着した頃には、既に日が暮れ始めていた。
すぐさまベットに飛び込み、部屋着に着替えることもしないまま、ただ天井をぼんやりと眺める。今はまだこのベッドから感じる彼の匂いも、そのうち消えてしまうのだろう。

机の上の貯金箱。「いつかペットを飼えるように」と少しずつ小銭を溜めていた。それなりにずっしりしてきたのだけれど、今後はもう重さを増すことはないだろう。

彼を失い、心にぽっかりと空いた穴。それを他の何かで埋め合わせることなんて、きっと出来ないのだろう。わかっていても、何か別のことで気を紛らわせたい。

今不幸な分、いつか幸せが訪れるはず。
そんなわけないなんて、わかっていても、そう思わずにはいられないのだった。

私はその貯金箱の中身を全て取り出す。
沢山の小銭がジャラジャラと流れだした。

このお金で、どこか遠くへ旅行へでも行こう。
静岡へ海鮮丼を食べに行きたいな。
それとも都会のバーにでも行って、新しい出会いでも探しに出かけようか。
行ってみたかった吉祥寺のオシャレなカフェに行くのも良いかも。

忘れてしまえ。
もっともっと楽しいことが、きっとどこかにあるはずだから。
私はそのお金をまるっと財布にしまって、再び布団にくるまった。
明日になったら、きっと、全てがどうでもよくなっているはずだ。そしてきっと、「あんな日もあったな」と、この夜を思い出すのである。

たみな涼介


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