【3分で読める】「残響散歌/Aimer」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【歌詞解釈】
池袋行きの電車に乗り込む。駅まで走ってきたので、息切れを抑えることが出来ない。ハンカチで汗を拭いながら、ギターケースを背負い直す。
もしこの一本を逃したとしても、別に数分待てば次の電車が来ただろう。しかし、なるべく早くバイト先に到着しておきたかったのだ。
電車に乗り、偶然空いていた座席に座る。そして時間を確認するために、スマホをポケットから取り出した。
目に飛び込んできたのは、一件のLINEの通知だった。
「安倍莉央が写真を送信しました。」
通知をタップすると、画面いっぱいに写真が表示される。友人の莉央が、花火大会に参加できなかった私のために写真を送ってくれたのだ。彼女の楽しそうな笑顔と、サークルのメンバーも一緒に写っている。
画面に収まりきらないほどの大きな花火がそこにあった。
音まで聞こえてきそうなほどの迫力。
きっと現物で見たら、もっと凄いんだろうな。
例年開催される隅田川の花火大会は、日本でも有数の大型行事である。毎年ニュースで取り上げられるような規模の花火大会で、前日から場所取りにいそしむのがうちのサークルの恒例行事になりつつある。
桜の木の下で、お酒を飲みながら、語り合うらしい。
まぁ、私は一度も参加したことがないけれど。
電車が到着し、そのままバイト先へと向かう。駅近の音楽教室なので、急がずともあっという間についてしまった。
「あらっ、はやいわね」
「お疲れ様です。室長」
「今日もAスタジオ空けてあるよ」
「いつも助かります」
室長はいつもこの時間だけ、私の為にスタジオの一室をとっておいてくれる。
「そういえば今日、隅田川の花火大会だって!知ってた?」
「えぇ、一応」
「そのせいで大学生のバイトの子らは皆シフト入ってくれなくて困ってたの。飯塚さんは行かなくてよかったの?」
「はい。私は別にいいかなって。あ、それじゃあ30分スタジオ借ります」
「はーいっ!」
スタジオに入って扉を閉めると、一気に無音になる。防音室なので、自分が発する音以外に何も聞こえない。私はこの空間が案外嫌いじゃない。
室長、本当はね。
私も花火見てみたいんだ。
アンプにシールドをぶっ刺して、ゲインとボリュームをいつもより少し大きく設定する。もちろんエフェクターもセッティング済み。
簡単なコードを一つ鳴らしてみると、そこは先ほどまでの無音な部屋では無くなった。
花火なんて、興味ないし。
いや、興味がないふりをしてるだけじゃないの?
忙しいふりをして、カッコつけてるだけ。
本気でプロになりたいなら、練習の時間の方が大事に決まってるでしょ?
でも莉央、楽しそうだったよ?
人は人、私は私。
いじっぱり。
意志が強いの。
努力したって、報われるかわからないのに。
努力もしないで、報われるわけないでしょう。
私の意味のない葛藤は、コードに乗って放たれる。
後悔や嫉妬の感情は、全て音にしてしまえ。
何のために?
誰のために?
そんな大義は必要ない。
私は、自分の選択を全部愛おしく、抱きしめていたいだけなのである。
ただかき鳴らして、残響。
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