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「近所 Vol.3」一首選<1>

 2024年3月14日。
 文学フリマ東京37で発行した「近所 Vol.3」(近所3)の中で、自分以外の作者ごとに1首ずつ選んで語ろうという回。
 その時に選ばれた歌と選んだメンバーのコメントを、作者別に2名ずつ紹介するのに加え、ゲストの回を設けて、計5回に分けて紹介します。

 2回目は、黒澤沙都子さん、大住花歩さんの歌です。

 (1回目は一つ前の記事、ゲストの御糸さちさんを紹介していますのでそちらも是非読んでくださいね!)


黒澤沙都子

東京をあやすかのごと百日紅さるすべりは街道に咲き花びら揺れる

「近所 Vol.3」 P.2(いちごつみ)
  • 「あやすかのごと」の一句で、満開に百日紅が咲き乱れる景色が脳裏に浮かんだ。抱えるほど沢山あり、風にゆれている様子がその一句からありありと伝わってきた。(新原)


下積みを十年したら売れるとか決まっていたらひりつかねぇな

「近所 Vol.3」 P.5(題詠「数字」)
  • 去年は、自分が短歌を始めて十年目だったので、「ですよね!!」という共感がすごかったです。(本条)


〈カツカレー、ガリガリ君のソーダ味〉夢じゃないのか明日の給食

「近所 Vol.3」 P.28(自由詠)
  • 現実と分かりつつもファンタジー感があって好き。献立表を見ながら面白がっている母もイメージされていいなと思う。(宮原)


腰骨の上の厚みはたっぷりと吾子の涙を吸い込んだから

「近所 Vol.3」 P.29(自由詠)
  • すべてをひろくおおらかに受け止めるような包容力のある一首。三句目の「たっぷりと」が、母として過ごしてきた年月の重みと、子どもへの愛情の深さを感じさせる。(花江)


寒風が夜を静かに整えて空は薄墨、木の葉は漆黒

「近所 Vol.3」 P.29(自由詠)
  • 表現したかった好きな情景を詠んでくれた!と言う歌です。空と木々の表現の仕方が素敵。黒澤さんの言葉と相まってかっこいい。(散田)

  • 描写の的確さと抒情が美しい一首。上句も完璧で下句も完璧。完璧な描写同士が喧嘩することなく調和しているのは、作者の美意識のなせる技だろう。(小林)


酔いそうな香り滲ます料理屋の灯りはオレンジ 風冴ゆる夜

「近所 Vol.3」 P.29(自由詠)
  • 風冴ゆる、という寒さを感じる表現とオレンジの灯りという対比が素敵。ふらふらと呑み屋に立ち寄りたくなる1首。(大住)


これまでに死んだすべての生き物を含んでいるのか遠近の土

「近所 Vol.3」 P.29(自由詠)
  • ただただかっこいい!!死んだすべての、遠近、など、私には詠めない言葉たち。(阿部)


大住花歩

サイレント映画のような悲喜があるガラス向こうのプール教室

「近所 Vol.3」 P.30(自由詠)
  • まるで映画を見ているように視点が移動する一首。「サイレント映画」→「ガラス向こうのプール教室」と最後はすべてを引きで見ているような神の視点に誘われる。言葉の並びに奥行がある一首。(小林)

  • 「サイレント映画のような」という比喩がとても効果的で、下の句「ガラス向こうのプール教室」まで読んだときに突然すべての音がシャットアウトされる感覚がある。(花江)


「ただいま」の声に出でん母の顔 自分が二人いるようなのだ

「近所 Vol.3」 P.31(自由詠)
  • 違う読みでしたが、自分と母親が似てきたことを受け入れて面白がっているような感じがいいなと思った。(宮原)


俯いて「何でもないよ」と言う夫のカップの鹿に見つめられてる

「近所 Vol.3」 P.31(自由詠)
  • 夫ではなくカップの鹿と見つめあうしかない時間を切り取った感性が素敵。(黒澤)

  • 言いたいことがあることがすごくよく伝わる、そしてそれに気づいてしまう自分という構図が面白い。(阿部)

  • カップの鹿に見られているだけで、何でもないわけがない夫を表現できていて、ドラマのワンシーンのよう。大人の男女の空気を感じます。(散田)

  • 「責められている」まではいかない沈黙と、「言ってよ」とは言わないこちらの沈黙、そのちょっと重い空気の感じが印象的です。(本条)

  • 「何でもない」といいつつ、とても何か言いたげな様子、夫婦の間にただよう特有の間を感じた。二人の空気感が歌を詠んだ後も自分の周りに漂っている‥。(新原)


<2>へ続く

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