新型コロナ:4月に比べて重症者・死者の少ないことに関する考察(7月28日時点)

6月中旬ごろから始まった感染者数の再増加。これに伴い感染状況は今後どのような経緯を辿るのか、ずっと考えています。
もちろん私は感染症専門家でも医療関係者でもなく、しがない町場のコンサルタントに過ぎないので、オープンデータを元にした考察が若干出来る程度です。ですが、仮説を立てることは自由ですし、こうやって書いておけば後々検証することも出来ます。

6月以降の第2波(便宜上こう呼びます)は、特徴として「第1波と比べ死者・重症者がかなり少ない」ことが挙げられます。
今日の検証対象である東京都に限ってみると、4月1ヶ月間の死亡者は105名に上ります。一方、7月は28日時点で3名です。圧倒的に少ない。
この事象に対して、さまざまな憶測が飛び交っていますが、私は6月末くらいの時点で以下の4仮説を考えていました。

1) 若者達が年寄りに余り接触していない
2) 皆マスクをして距離を取っているのでウイルス伝播量が少なく、感染しても比較的軽症で済んでいる
3) COVID_19ウイルスが弱毒化している
4) 重症化しやすい人への医療体制が確立され、治療が進んでいる

COVID_19関連で日本で最も信頼がおける医師の一人である、国立国際医療研究センターの忽那賢志先生が、7月26日投稿のYahoo!の記事内で、上記3)の弱毒化に関しては明確に否定しています。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200726-00189953/

一方上記4)はその通りであるという見解で、私としては自分の仮説があながち間違っていなかったことを再確認できたのですが、「ハイリスク患者が重症化するのはこれから」という主張はどうも腑に落ちないままでした。いつまで経っても重症者・死亡者が増えてこない状況だからです。

先述したとおり、7月の東京都死者は3名です。一方で新規感染者は2日に100名を初めて超え、その後200名超・300名超という日がザラに続く状態になっています。27日までの累計感染者数は5,120名。正直、デカい数字に悪い意味で慣れてきている感じです。
で、7月の感染者死亡率は0.06%です。4月は2.8%ですから、その差は実に47倍となります。
これも散々言われてきていることですが、現在は検査能力が大幅に拡充されて無症状者にも積極的に検査を行なっているので、感染者絶対数が増えるのは当然です。「今は重症者は少ないが、これから中高年層にも徐々に広がっていくのは避けられない」と専門家達は口を揃えて言います。

確かにその通りでしょう。ですが、だとしたら実際のところ中高年にはどの程度拡がっているのか?その人達はどの程度重症化し始めているのか?
そこを説明してくれる人があんまりいないのです。

この辺を検証するために、東京都が公開している感染者全データ・および重症者数推移(人工呼吸器・ECMO装着数)を元にして数値検証を試みました。抽出した数値は以下の通りです。
・東京都内・60歳以上の感染者数(年代別)
・重症者数を元に「重症化率」という数値を仮設定しました。公式にはない数字ですが、重症化する人がほぼ60歳以上であること、さらには感染確認から平均6日~10日で重症化することを踏まえ、念のため感染確認日から3週間以内には重症化するとし、以下の数式で算出しました。

日別総重症者数/過去3週間(21日)の60歳以上感染者合計

上記は対象者の何人が重症化したかを正確に反映していませんし、日別に算出するのも本来は正確ではありません(日別の新規重症者で計算していないので)。また、感染者下降局面では数値が大きくなりすぎ、上昇局面でしか使えない…と、不備の多いものとなっています。
ですが、相対比較として使えなくもない。移動平均に近いものとして捉えてもらえば良いと思います。

以上の内容をグラフ化したものが下記となります。赤線が「重症化率」です。
※重症者数・新規感染者数が急減し始めた5月以降は数字が暴れるので、重症化率はカットしてあります。また7月も14日までは急下降、14日以降上昇という傾向です。あくまで「上昇局面」にのみ使えると考えています。

言えそうなことは以下の通りです。
・60代以上の感染者数は、確かに3月末~4月上旬に近い数値になりつつあり、今後急激に増える可能性もある。
・年代別の構成比も、4月頭と7月で大きな差はない。
・一方で4月の重症化率は7月よりずっと高かった。4月2日頃には最大で15%に達しており、中央値は大体11%~12%である。一方で7月は(数値が再上昇を始めた14日以降)今のところ6%を上限に推移している。

すなわち「7月の60代以上の感染者増加数は、4月上旬と余り変わらない水準だが、重症化率は4月と比べ半分程度である」というのが暫定的な結論となります。だから死亡者も少ないのですね。
もちろん、検査数が増えていることで「無症状の中高年感染者」が一定数捕捉されており、その結果重症率が下がっていることは想定されますが、20代~40代に比べればその数は格段に少ないはずです。
忽那先生の言うとおりウイルスの弱毒化が確認されないのであれば、上記4仮説のうち
 2)皆マスクをして距離を取っているので、感染しても比較的軽症で済んでいる
 4)重症化しやすい人への医療体制が確立され、治療が進んでいる
の2つが複合的に効いている…と考えられないでしょうか?
であれば、今後感染者が増加しても、ハイリスク者への感染および重症化をある程度抑え続けることは可能、と言う話になります。

ついでに、日々マスコミが大騒ぎしている感染者数についても触れておきましょう。
何度も言及されているとおり、現在は検査数が4月の4~10倍近くになっているので、数値の単純比較は全く意味がありません。私は個人的には「感染者数における高齢者(60歳以上)の割合」が、高齢者感染の絶対数と共に重要だと考えています。せっかくなのでそっちもグラフにしてみました。

紫色の線が「日別高齢者比率の移動平均」です。ややこしいですが。
これ見ると、6月24日に一回ドーンと下がってますね。おそらく1週間前の6月17日頃から検査数が増え始めたのだと思います。
また、4月中旬は30%近かった高齢者比率が、7月は7~10%となっています。こちらも検査数増加によるものであることは明白です。
但し、7月14日あたりからこの移動平均がじりじり上がっていることがブキミです。一週間後の7月21日以降、重症者が増え始めています。感染者総数が増えれば当然重症者は増えるので、全く油断は出来ません。確率が低いと言っても、一定数の重症者は出てしまうのです。

それにしても、全部オープンデータを元にした簡単な計算でこれ位のことが見えて、ある程度の相関も解り仮説も立案できるのに、マスコミは何で感染者数ばっかり取り上げるんですかねえ?
我々コンサルタントは「量と比率を同時に見よ」と常に叩き込まれてきました。一般の人は比率を見るのが苦手ですし、量のインパクトは報道関係者としては抗しがたい魅力があるのでしょう。ですが、感染者数単独の数字は繰り返し述べているようにほぼ意味がありません。

さて、長々と書いてきましたが、現在の状況は(専門家会議や政府が言うとおり)4月上旬のような緊迫した情勢ではありません。但し、だからと言って油断して良い状況でも全くありません。

これを何とか維持~低下方向に持って行くためには
自分がうつらない(3密徹底回避・手洗い徹底)
・年寄りにうつさない(接触回避・マスク徹底)

を引き続き行なうことが重要であるという、これまで散々言われてきた結論の繰り返しになります。ですが、これ以外に個人の出来ることはないんですよ。政府に文句言っててもしょうがないんです。
上記を守りながら、自粛一辺倒ではなく適切な行動で経済を回していくことが、国民一人一人に引き続き求められていると思います。

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