【追悼】安倍晋三氏の功績を振り返る

安倍元総理が、突然の凶弾に斃れてから4日。
やっとこのような文章を書く気力が戻ってきました。およそ7ヶ月ぶりのエントリーですが、今私が考えていることを振り返っておきたいと思います。

私は安倍元総理が大好きでした。愛していた、と言っても良いと思います。2020年の総理退陣会見では泣きましたし、今回の件では正に茫然自失となってしまい、まともに生活するのも丸1日くらい辛い感じでした。
2012年、安倍元総理が政権を奪還し総理総裁に返り咲いてからの8年間の任期というのは、まさしく日本の歴史を根本から作り替えたものだと考えています。経済・外交・安全保障など、安倍さんが成した功績は本当に偉大で、おそらく私が生きている間にこれだけの人物を再び見ることはないでしょう。
一方で、政権運営においては不十分だったところもあります。その辺りを率直に綴っておきましょう。

1.「アベノミクス」を中心とした経済政策

2012年、第二次安倍政権の業績はその直前の民主党政権と比較されることが大変多いです。客観的データを元にすれば、この期間に多くの経済指標が改善していることは疑うべくもありません。
山本一博さんの連ツイが非常に参考になるので貼っておきます。

私もアベノミクスについては過去に記事を書いたことがあります(2013年ですから相当古いですが)。量的緩和によって市中に円を増やし、その結果株高→雇用回復に繋げたと言うストーリーが実に新鮮でした。

今、若い世代が安倍元総理を支持しているのは、やはりこの10年間経済が基本的には回復基調にあったことが関係していると思います。直近3年間はコロナの影響で停滞していましたが、それ以前までは景気に対する大きな不満は国民の中に存在しませんでした(だからこそモリカケ桜などという愚にもつかない言いがかりが蔓延してしまった…とも言えるのですが)。
後ほどまた触れますが、民主党政権下で決まっていた消費税増税を2回延期したのも地味にファインプレーでした。安倍元総理は緊縮財政路線では景気回復にならない、ということを理解していたのだと思います。

2.外交・安全保障

外交において安倍政権の果たした役割は極めて大きく、その最大のものは「日米安保・対欧州のみならずインド・オーストラリアを含めた汎太平洋安全保障体制」を構想し、実現させたことです。
これは世界に類を見ない構想で、その骨格は麻生太郎元総理が立案した「自由と繁栄の弧」にありました。中国の一帯一路構想に対するカウンターとして機能するものです。
扶桑委員会さんの連ツイが大変参考になります。

全地球的な外交構想を描き、それを実現に移したこと。何より中国といかに対峙するかを考えた上で、最終的にはQUADや現在のNATO拡大にも繋がる道筋を作ったこと。
これらは世界史に残る偉業レベルであり、今回の安倍さんの逝去に際し各国が最大限の弔意(アメリカに至っては5日間の半旗掲揚です)を表していることには、ちゃんと理由があるのです。
残念ながら、プーチンの蛮行により世界秩序がこれまでにないレベルで脅かされていますが、逆に言えばQUADやその他の仕組みが間に合っていた…とも言えるわけです。
この「世界を見据えた戦略眼」を持っている(持っていた)政治家は、世界中を見ても殆どいません。例えば習近平のそれはあくまで中華思想に則ったもので、世界全体の安定に資するものではありません。その意味でも、安倍元総理の戦略眼は(自民党内部で恐らく培われてきたものでしょうが)空前絶後であった…と言えます。

3.新型コロナへの対応


結果的に安倍政権の終焉を早めてしまった新型コロナ禍ですが、その対応は実に的確なものでした。
クドクドと書きませんが
有識者会議のトップに尾身茂氏を据えて、ほぼ全権を委任したこと(その有識者会議は、いち早く「三密」の概念を打ち出すなど世界トップクラスの功績を誇っています)。
・mRNAワクチンの早期確保に向け、2020年の中盤頃からアクションを取っていたこと
・(一見世評の悪い)「アベノマスク」により、不織布マスクを転売から守り、医療関係者に早期に行き渡らせたこと
・各種補償を惜しむことなく行い、機動的な財政支出を行ったこと(赤字国債を躊躇わなかったこと)
どれもこれも、先を読んで行動する…と言う点はピカイチでした。ワクチン対応の素早さはその後の菅内閣にも確実に受け継がれ、デルタ禍において多くの国民を救った…と言えます。

4.とは言え残念だったこと

さて、私が愛してやまない安倍元総理ですが、何もかも無批判で受け入れるつもりはありません。彼が出来なかったこと・やってくれず残念だったこともいくつかあります。そのうち最も大きい二つは
「アベノミクスの不徹底(財政出動・成長戦略の不発)」
「エネルギー政策を誤ったこと」

です。

アベノミクスですが、実際には3本の矢のうち1本目の金融緩和はある程度徹底されたものの、その後の財政出動などは明らかに不徹底でした。特にインフラ整備・国土強靱化の遅れが目立ちます。ここ数年の自然災害の多さ、さらには電力不足の顕在化などを見るにつけ、こういったところへの財政出動・拡大が出来なかったことが悔やまれます。成長戦略…についても、具体的な成果はまだ余り見られていません。
やはり、安倍元総理といえども財務省並びに(自民党内の大半を占める)緊縮財政派には勝てなかった…と言うことでしょうか。前述の通り消費増税は2回延期しましたが、それが限界でした。
上記は、国民の大半がまだ緊縮財政=正義と思っているところに根本要因があると考えています。マスコミは未だに赤字国債発行を「将来世代にツケを回す」と言い、多くの国民がそれを信じていたり(実際には将来世代は国から利子付きで国債償還して貰えるから、むしろプラスになるんですが)、ただいま躍進中・日本維新の会の党是は「身を切る改革=ケチケチ運動」だったりするわけです。そういった中、さらには積極財政の天敵とも言える財務省が立ち塞がる中で、積極財政執行には限界があったのでしょう。

それから電力政策です。ここについては安倍政権の期間中ずっと不満でした。原発再稼働が全然進まない・効率の悪い再エネに多くの予算がつぎ込まれる・さらには(2022年以降顕在化した)電力逼迫の元凶とも言える電力自由化の野放図な推進です。電力政策における数々の錯誤は、安倍政権最大の負の遺産と考えています。
これもまた、原発再稼働を忌避する・あるいは再エネを表向き歓迎する国民の意向(世界的なカーボンニュートラルの動きも当然関係しています)、さらには河野太郎氏を筆頭とする再エネ議連の侮りがたい力…などが作用したのかなあと考えています。
安倍氏が亡くなってしまった今、これらの事象の真実は永久に語られずじまいとなりました。その点も含めて、残念です。

5.安倍晋三氏は、何故ここまで愛されたのか?

つらつらと書いてきましたが、安倍元総理は
「世界全体を見据えた戦略眼を持って行動できると同時に、ドブ板選挙でその辺のオッサンとすぐ仲良くなってしまうことも出来る
という希有な政治家でした。
これが両方できる人って、本当にいないと思います。基本的に安倍さんというのは「人たらし」でした。周りが「安倍さんのためなら」とどんどん動いてしまう、そういう人でした(小池百合子都知事・あるいは河野太郎氏などと決定的に異なる点だと思います)
現職の総理大臣としては異例の高頻度でテレビに出演していたこともそうですね。政治番組だけでなくバラエティにもバンバン出演する。関西ローカルにも行ってしまう。こういうフットワークの軽さというのは、実に異色だった。

また(亡くなった方に失礼であることを承知で書けば)安倍さんの
「あまり切れ者に見えない・のほほんとした雰囲気」
は大変重要なポイントだったと思います。
若い頃は結構イケメンでしたが、総理になってからはセントバーナードを思わせるような柔和な風貌となりました。笑顔も可愛い。ついでに言うと滑舌がかなり悪く、喋るのも余り上手くない。
そこが良かったんですよ。国民の多くは安倍元総理のことを親戚のオッチャンくらいに思っていたのではないでしょうか。そういう親しみやすさが安倍氏の真骨頂であり、逆に(今回の悲劇を招いたように)よろしくない人を近づけてしまうところもあったのではないか…と思います。

…こう書いていても、安倍晋三さんを失った空しさ・悲しさは全くなくなりません。
せめてこうやって書き残すことで、安倍さんに対する自分なりの供養としたいと思います。

安倍さん、ほんとうにありがとうございました。

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