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C-KDI-7/桑沢講義デジュメ2015年版/ 「巴里モードを25年見続けて来て、」   巴里モードとは? その歴史と現状まで、−1;

文責/平川武治;
初稿;2015年

インデックス;
1)「巴里モードとは?」 その歴史とビジネスの根幹は?;
 1>「文化を武器」とした完全なる利権ビジネスである。
 2> モードとはいつも変わらず、“WRAPPING PAPER"である。
   3> 現代と言う時代には“誰をラッピングすれば良いのか?”
 4>新たな可能性は“利権ビジネス”の統合ディレクション化である。

1)「巴里モードとは?」 その歴史とビジネスの根幹は?;
 1>「文化を武器」とした完全なる利権ビジネスである。
 フランス-モードとは?これはフランスモードを守る唯一の手段であり、
この世界を『オートクチュール』の世界として存続させ、
モードの世界のプライオリティを取り続ける極めて明快な手法でもあり、
解り易い”利権ビジネス”である。
彼らたちはオートクチュールがある以上即ち、此の国が栄えた18世紀からの宮廷ロマン主義を特化し産業化する。
 そして、各時代に現われる新-市民階級者(ヌーボー・ブルジョアジィ)を顧客としたこのクチュールのスタンダードが存続する以上、
モードのプライオリティがイメージとビジネスに継続するというまでの
利権意識の上に立ったビジネス構造。
 この構造が継続する限り此の国は当時の文化環境をそのバックグラウンドとして、モードの世界の『キャピタル』であり続けられ
それらを売りに出来る唯一の利権ビジネスシステムである。
 この現実が彼らたちが築き上げた”モードのスタンダード”を守り、
このフレームの中で彼らたちのボキャブラリィーで競う合う事が
今後も、モードに必須である「ビジネスとイメー ジ-プライオリティ」が
世界レベルで継続出来るという構造を熟知している。

 このフランスモードを守る唯一の手段を現在まで伝承継続し、
ディレクションしてきたのが、「サンディカ」と呼ばれている、
「高級衣装店組合」である。
 このサンディカはパリの高級衣装店組合(ラ・シャンブル・サンディカル・ド・ラ・クチュール・パリジェンヌ / La Chambre Syndicate de la Couture Parisienne)の略称であり、1868年、シャルル・フレ ドリック・ウォルト(Charles Frederick Worth)により創立され、現在はパリオートクチュール・コレクションとパリプレタポルテ・コレクションを取り仕切るほか、
服飾関係の専門学校も開設している。
 C・F・ウォルトは、ロンドンからパリへ移り、1857年に独立し、
新しい方式の衣装店を設立した。従来の衣裳店は顧客の注文に応じて
服をデザインして製作するという受動的な製作方法を採用していたが、
ウォルトはあらかじめ創作的な衣服を作り出し、それを顧客に見せて注文をとるという能動的な方式を生み出したのである。
 より詳細にいえば、まず注文をとっていくつかのサンプルを用意し、
その中から顧客は気に入ったものを抽出し、その上で素材を指定する。
そして、 採寸をした後に、数度のフィッティングを経て完成と言う工程。
 従って、顧客は上流階級に限られるが、 市場範囲に限定はない。
これにより、従来の仕立屋と異なる大規模な経営が可能となったのである。
 そして、1868年にサンディカが創立、1884年には同業者組合として
認定され、19世紀の終わり頃までには、規模の大きい衣裳店が250店にも
達していたとされている。また、1910年頃には、”パリ コレクション"が
定期的に開催され始めた。 
 以上ように、創立当初は特に資格を要求することもなく、
多くのクチュリエをメンバーとして迎え入れていたが、
それがために、創作のないコピーだけの安売り仕立て店もサンディカの
メンバーとして多く存在するようになってしまったのである。
 そこで、1911年にサンディカを再発足し、オートクチュールと銘打つ為の厳格な規約を定め、その規約に沿ったクチュリエのみを正式メンバーとして登録させることにした。
 これにより、 オートクチュール自体に付加価値が付く格好となり、
サンディカ並びにオートクチュールがファッション業界の最高峰として君臨することとなる。

 かのモードの帝王イヴ・サンローランはオートクチュールに関して、
「芸術的衝動を服飾というスタイルで実験したいと思った時、その贅沢な
素材と高度な裁断、縫製技術をもつオートクチュールのアトリエこそが、
その実現を可能にしてくれる場だ。」と語ったそうだ。

 確かに、規約の様々な要件を満たしたメゾンは設備・技術ともに
世界最高峰であるのは疑いようがない。また、規模を拡大し、付加価値を
与えて価格を上げることでより多くの利潤をあげることを実現する
”利権ビジネス”としてのシステムとしては、完成されたものである。
 参照/オートクチュール組合;

 2>モードとはいつも変わらず、“WRAPPING PAPER"である。
 パリを軸とした「モードの歴史」におけるファッションとは、
何時の時代も、その時代に生き生きと生きる先端の女たちをラッピングして来た。
 ①18世紀後半、君主専制政治から引き継がれた階級社会の人々の
「奢侈生活」の一部としてのモード。―『美ある生活』/男尊女卑の視線。
 ②19世紀になり、その価値観と構造を残し、「オートクチュール」が、
当時の階級者たちの新たな産業構造になる。
―『オートクチュール組合』(サンディカ)の結成。
 ③19世紀末~20世紀初頭、「近代」の誕生とともに、新興ブルジョワジィの為のオートクチュールへより、その門を世界へ広げる。
―『グラン-ツーリズム/自動車/テニス/自転車等、アウトドアー&バカンス』
 ④”ベルエポック”と呼ばれた時代/モードの愉しみの広がり。
―“奢侈生活の拡大化と女性たちのアクティブな生活の始まり。
そして「Femme objects/見られたい女性」たちの登場。
 ⑤ユダヤ民族の人たちが主人公となり始めた’30年代からの
オートクチュ―ル産業。“フランス文化を武器”にした彼らたちが
ファッションビジネスの世界を支配し始める。
―’29年世界恐慌、’33年強制収容所以後、産業経済の主軸はUSAへ。
『ハリウッド/N.Y.ブルジョア/Moga』
 ⑥第二次世界大戦以後の変化。
戦前のクチュールメゾンを救ったのがアメリカユダヤ人系の香水化粧品産業―C.シャネルほか、各オートクチュールメゾンの復活。
 ’46年~’60年代はあらたな世界観と時代性の元、“自由と平等”を謳歌する新-市民階級者の愉しみの為のより、大衆的ファッションビジネスの誕生。 ―オートクチュールのディフィージョン化。
 ⑦ 1968年以降、新しい既製服としての 『プレタポルテ』が誕生。
―女性の高学歴化へ、女性がより自由な生き方を新しい社会へ求める、
”男女平等の視線”の社会の誕生。YSLの”リヴ ゴーシュ”の登場。
 ⑧ ’70年以降、クチュールのセカンドラインである”プレタポルテ”の
『ライセンスビジネス』が世界レベルで発展する。
 日本人デザイナーのパリコレ参加が始り、日本のデパートと各クチュー ルメゾンのプレタポルテライセンス展開が始る。
ー“ウーマンリブ運動”、”女性たちの社会化”と”男女平等の社会”の登場。
S.リキエルの登場と多くの女性デザイナーの誕生。
 日本では“マンションメーカー”と称された個人ブランドの誕生。
 ⑨ ’80年代以降、”生活の豊かさ”が広がり始める。
ー“働く女性たち”が思想を持ち始める。“フェミニズム”の台頭。
“黒の旋風”/YOHJI+CdGの巴里上陸。J.P.ゴルチェやM.シットボンの登場。
 ’80年代半ばからは、”プレタポルテファッションビジネス”を軸にして、
スポーツ/カジュアルウェアの世界もファッションビジネス化し始める。 ―”イタリアン-カジュアル”の登場。ロックとファッション。
―デニム産業のファッション化。”ファッションジーンズ”の登場。
―テニス、ゴルフなどスポールウエアーのファッション化と
ライセンスビジネス化。
 モードの世界では、J.P.ゴルチェが超人気デザイナーに、“Homme Object" 見られたい男たちが登場し始めた。
 そして、堰を切るように、”モードの世界”が完全に地上へ降り始め、
”ストリート-ファッション”の影響を受け始める。
ーM.M.マルジェラ/“ジェンダー論”が広がり、性差そのものを無くそうと
言うまでの発想と創造。
 ⑩ ’90年代半ば、”身体の解体と再構築化”がモードのコンセプトに。
―新世代がモードの世界へ参入。作り手も受け手もあらたな世代が登場
―モードの逆流化。”古着”と言うリアリティは総てのオリジナル。
―MTVがファッションメディアとなり、
「音楽+古着」=”ファッションDJ”の誕生。
女性の斬新的な生き方が見えなくなり、M.M.マルジェラ/“ジェンダー論”が迷宮化し始める。
造る側のコンセプトが強くなり、着る女性のことを考えるより、
デザイナーの自我が前に出始める。
―Antwerp-6とその後のAntwerp派の登場。
―”贅沢風を嗜好する女たち”の再登場。
ハイ・ブランドとしてのラグジュアリーブランドが新たな流れを作る。
 ⑪21世紀に入ると”グローバリズムの台頭”とともに
プレタポルテファッションビジネスに新たな参入者が出現。
ファッションの生産基地と構造に変化が現われその結果、
“ファストファッション”が登場し、“流行”の価格破壊化が始り、
プレタポルテビジネスの衰退化を促す。
世界では、新たな消費者として大都市に於けるイミグレータたちの新世代がファッション顧客に成長。
ーZALA,H&M,MANGO,UNIQLO,FOREVER,などなどの”製品買小売業”/
SPA型ファッションビジネスが拡大化。
―新しい消費者層が誕生。
―メデァの高度な発達でイメージの大量化とリアリティの豊かさを生む。
―文化が変質し始め、“文化は武器”のコンテンツが、「消費文化が武器」と修正され始める。
ー”リアルカルチュア”“ストリートカルチュア”“お宅カルチュア”等へ。
―L.ガガなどにより、MTV,ハリウッドの虚像をハイパ―イメージする。
ーケイタイ、インスタというパーソナル・メディアの登場。
―“子育て支援”/子供をプッシュカーに乗せて働く女たち。
S.マカートニーがウケるが、”フアストファッションでいい。”

 3>現代と言う時代には“誰をラッピングすれば良いのか?”
 ここでファッションビジネスも、一巡したと言えるだろう。
オートクチュールから端を発し,そのディフュージョンラインとしての
プレタポルテを誕生させ、それぞれの時代の先頭を生きて来た女性たちを
ブランドネーム&ロゴ入りで”ラッピングペーパー”よろしく、時の女性たちをラッピングして来たのがこの世界である。
 従って、各時代の先端的な生き方をして来た女性たちを、
「僕たちはあなたたちの味方ですよ」と、 自分たちのロゴ入りの世界観で
もってファッションをデザインし”時代の大衆化”へ一役を買って 来た。
 戦後、60年間が過ぎ、新たな経済力と生活力を持ち始めた、
「戦後の新しいブルジョアジー」としての大衆消費者たちが
イミグレーターを引き込み新たなファッション顧客へ進化し た事実。

 4>新たな可能性は“利権ビジネス”の統合ディレクション化である。
 
消費社会の主役となった「戦後の新しいブルジョアジー」たちの台頭に
よって、このファッションの世界は完全に変貌してしまった。
 まずは、”白人”たちから”アジア人たち”へというビジネスの流れが落ち着くと今度は、“白人”から”イミグレーター”へと言うベクトル転換を仕掛け始める。
 この動きは”アフリカンキャピタリズム”によって、まだ『オートクチュール神話』がもう一巡、彼らへ語り部たちを変えて行く事で通用する世界観の継続が根幹である ”利権ビジネス”の新しいタームであり、ミッションである。
 もう一つは、誰を、どのような女性たちを自分たちはラッピングすればそれがイメージと言う”付加価値”が生まれそこからビジネスが継続出来るか? 今までのように、”イメージ願望”ではなく、リアルな生き方、”新-当たり前風景”の中から“ファッション-ミューズ”を見つけ出さなければならなくなったのが現在の閉塞感溢れる巴里のモードの現状だ。
 そこで新たな活路とは、自分たちのブランド-ロゴを自分たちのファッションデザイナーたちに”時代のラッピングペーパー”としてのファッションをデザインさせ、そのいつも煌めいている金メッキなブランドロゴの元で、
確実に利権ビジネスへ更なる直進すること。
 そのためのデザイナーやファッションディレクターの起用であり、
それぞれのCEOが変わるたびに新しいブランドビジネスの責任者としてのCEOは自分の業績を上げるために新しいデザイナーやディレクターたちを
起用してゆく。
 これが世界のファッションビジネスとデザイナーたちとの関係であり、
現実である。一度、ハイ・イメージを構築すれば、その後は、”粗利”が取りやすい、見栄えのよう商品として、香水、コスメ、時計,ジュエリィ―そして、サングラスへと、 限りなく”意匠登録”が出来るものを囲い始める。
 この構造をバックアップしている機関が、『コルベール委員会』である。フランス式奢侈産業のため、1954年に組織され、現存する政府が全く関与しない組織で、『コルベール委員会』が取り仕切るフランス発の贅沢産業の
一つとして、”モードの世界”もこのグループに属し、此の国のモード産業の中心軸であり、このグループそのものが世界に君臨出来る迄の利権ビジネスの構造を既に設立している。
 現在の企業、LVHM社はベタでこの路線を拡張拡大しているだけである。

 参考-1/<コルベール委員会とは、>
 コルベール委員会は、オート・クチュール、香水、宝飾をはじめとして、皮革、クリスタル、銀細工、陶磁器、インテリア・ファブリック、
またシャンパン、ワイン、 コニャック、そしてフランス料理、ホテルなどのフランスの高級ブランド75社によって構成されている組織です。
質と創造力のフランス伝統の中から、最良のものを保存し、より多くの人々にその喜びを伝えるという理念のもと、香水のゲラン社創始者ジャン・J・
ゲランによって1954年に発足した。メンバーは信任投票で決定され、
毎年メンバー間で互選をし、75%以上の支持で再選出されます。会員数は
75に制限されています。
 コルベール委員会の活動目的は、各ブランドの品質とイメージの保持、
伝統技術の保護と育成を通じて、フランスの誇る「生活美学」(アール・ド・ヴィーヴル)を世界に広めていくことです。即ち、ブランド価値の維持、発展を担える人材育成。知的財産権の侵害に対する取り組み。そして、文化/生活美学(アールドゥヴィーヴル)の伝承、伝道であり、このために次のような活動を行っています。
・若い才能を発掘するために、‘学生デザインコンクール’を開催。
・フランス国内では、より若い世代に向けて職人の仕事を理解し興味を抱かせるために、中学校などの教育機関と協力して‘職業クラス’といった、
メンバーのアトリエで実際の仕事をさせるカリキュラムを実施。
・コルベールメンバー企業の経営者たちによる、高等教育機関<ENA(政治
学院)、パリ高等商業学院、コロンビア大学ビジネススクール、ニューヨーク のパーソンズデザインスクールなど>での授業。
・世界各国での偽造品防止対策活動。
・消費・市場調査。
・世界各地での展覧会、及びフェスティバル、シンポジウム等の広報活動と開催。
『 巴里モードとは? その歴史と現状まで、−1』完。;
文責/平川武治;
初稿;2015年

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