034 大金である。しかし、払えなくはない。(セネガル)

国境の川を越えて、セネガルに入国。

国境の川を越えると、ひとりの男がずっとついてくる。乗り合いタクシー乗り場に到着すると、ガイド料を要求された。しかもかなり高額だ。ガイドもなにも一本道を一緒に歩いてきただけ。誰でもわかる道だ。交渉にもならないので、もちろん払わない。久々に怒りの気持ちがわいてくる。

車で数時間走って、サンルイという街に到着。かつてフランス領の西アフリカの首都がおかれていた場所で、植民地時代の街並みが残っている。世界遺産にも登録されている街だ。

夜、街角でタイコをたたいている若者の周りに子供が集まって踊っていた。

* * *

セネガルの女性はセクシーだ。すらりとしていてスタイルがいいというのもあるけど、出てるとか出てないとか、見えるとか見えないではなく、身のこなしや、服やアクセサリーの着こなしが妖艶。どんな色の服でもよく似合う。

サンルイから首都ダカールに移動。乗ってきた乗り合いタクシーが街の中心まで行かず、困っていると、乗り合わせた現地の大学生の若者に助けてもらう。こういう親切のおかげで、現地語もフランス語も話せないまま、今のところ何とかなっている。

しかしながら、そこから乗り換えたタクシーで相場より高い金額を払ってしまい、痛い出費。西アフリカは通貨がユーロに連動しているからか、物価が高い。

チェブジェンという炊き込みご飯を食べる。セネガル料理はなかなかおいしく、かつ豪快だ。魚一匹がどんと出てきたりする。

* * *

次に向かう予定のガンビアという国のビザを取りに行く。そのあと、安い宿を探して移動した。

「おお、ジャパンから来たのか。茶でも飲もうぜ」

宿を移った直後、出入りしていた若い男に声を掛けられた。

一緒に茶を飲み、「家に遊びに来い」と言うので、行ってみることにした。すぐ着くと言いながら、車で30分くらいかかる。

彼の家に招かれ、家族に紹介される。幼い子供はかわいく、お母さんもいい人そう。まあ、信頼できそうだ。昼食もごちそうになった。海沿いの小さい町で、騒がしいダカールの街とは違い、のんびりした雰囲気。付近に住んでいる人は、みな知り合いのようだ。

その後、彼の友人の家に行って、部屋で音楽を聴いたり、茶を飲んだりする。授業をさぼっている高校生の部屋、みたいな感じ。彼らはマリファナを吸い始めるが、こちらは遠慮しておく。いつの間にか宿から一緒に来た若い男はどこかに行ってしまったが、残った若者たちと、しばしその部屋でくつろぐ。みなフレンドリーでいい人たちだった。

そろそろ帰ろうかと思って、彼らに別れを告げ、部屋を出る。広場で子供のサッカーを眺めた後、帰路に着こうとしたところ、途中でいなくなっていた最初の男に再会した。

「ごめん、別の友だちと話しこんでたんだ」

「今からビーチでジャンベを叩くから見に来いよ」

もう夕方で、いい加減帰りたかったけど、少しだけ付き合うことにした。

海岸から少し離れた茂みに囲まれた場所で、彼ともうひとり友人らしき男の2人が、ジャンベと呼ばれるタイコを叩き出す。

「これが最高なんだ」

と言って、マリファナをプカプカ。

ふと、唐突に3人組の男たちが現れた。

次の瞬間、「ポリス!」と言うや否や、彼らはあっという間に自分を含めた3人を砂浜に組み伏せ、身に着けているものすべてを取りあげた。

ドラッグの取り締まりだ。

もちろん自分は何もやっていないし、何も所持していない。が、そんな道理がすぐに通りそうな雰囲気ではない。ポリスはこちらのことも完全に犯人扱いしているようで、手荒に扱われる。マリファナを吸っていた彼らは何か抵抗しようとしてポリスの怒りを買い、さらに強く蹴られたりしている。

下手に抵抗しないほうがいい。言葉もまともに通じないし、余計なことを言えば言うほど、乱暴に扱われる。

「こいつは日本人で、何もやっていない」と、自分を誘った男はかばってくれたが、ポリスは聞き入れない。端から見ればドラッグ仲間に見えるだろう。

最悪の場合、刑務所送りかもしれないと頭をよぎる。どこかの国で無実の罪で刑務所に入れられ、何年も出られなかった人の話を思い出す。そういうことは実際に起こるのだ。

よく見ると、ポリスたちは私服を着ている。いまどきの若者っぽい服装だ。覆面というか、抜き打ちで捕まえるため、あえてそうしているのだろうか。最初に警察手帳を提示してきたので、偽者ではないと思う。一連の行動のすばやさから言っても素人ではない。

しかし警察とはいえ、チンピラにしかみえない風貌。どうやら彼らは釈放と引き換えに、金銭を要求しているようだ。

「600ユーロ」

それが払えなければ、刑務所行きだと言う。

大金である。しかし、払えなくはない。

アフリカはATMや両替屋が簡単には見つからないため、結構な額の現金を持ち歩いていた。ジャンベの彼らはそんな大金を持っているわけはなく、この場で払えるのは自分しかいない。

最初はかばってくれていたジャンベの男たちも、状況を打開する手段が金銭しかないとわかると、「頼むから出してくれ、後で返すから」と言ってくる。

躊躇していると、しびれを切らしたポリスは力ずくで連行しようとする。警察署に連れて行かれれば、ワイロでは済まなくなるかもしれないし、自分以外の2人は確実に有罪となって刑務所行きだ。自分も同様に扱われる可能性もある。

場所は茂みに囲まれていて、周りからの視界は遮られている。ジャンベの彼らはドラッグをやるために見つかりづらいところを選んだのだろうが、捕まってしまえば、ワイロを要求される格好の場所になってしまった。

現金をポリスに渡す。持っていたカメラも持って行かれそうになったが、それだけは、と目で訴えたら返してもらえた。

解放された。

「金はなんとか返す。金ができたら君のホテルまでもって行く」とジャンベの彼らは言うが、ここで別れたら、後でお金を持って来ることはないだろうと思う。それはわかっていたけど、もうお金なんてどうでもよかった。

そもそも、この男たちも完全には信用できない。この男たちと警察が通じていて、自分をワナにはめたのではないか、という疑いも浮かぶ。実際の現場の状況から考えて、その可能性は低いと思うけれど、いずれにしても、彼らともこれ以上かかわりたくなかった。

高い授業料だった。でも金を持っていなかったら、本当に刑務所送りになったかもしれないから、お金だけで済んでよかった、とも思う。一方で、本当は金で片付けるべきではなかった、という正論も自分の中にある。

ショックと、悔しさと、反省が入り混じった気分で宿に戻った。

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