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サタデー・ナイト・フィーバー〜空前のディスコブームの裏にはトラボルタの哀しみがあった

『サタデー・ナイト・フィーバー』(Saturday Night Fever/1977年)

それは、雑誌に掲載された1本の短編記事から始まった。

1976年6月、ニューヨーク・マガジンに発表された『新しい土曜の夜の部族儀式』は、作家のニック・コーンが街中のディスコを渡り歩いて、そこに集まる若者たちの生態を紹介したものだった。

これに目をつけたのがロバート・スティグウッド。1960年代にマネージメント会社を設立して、あのクリームを世に送り出し、その後ミュージカル『ヘアー』『ジーザス・クライスト・スーパースター』の興行や映画『トミー』などを仕掛けて、ショービジネス界で成功を手にしていたプロデューサー。

スティグウッドはさらに、1973年に自身のレコード会社RSOを設立。エリック・クラプトンやビー・ジーズのアルバムを制作し、1976年には映画製作にも本格的に進出しようとしていた。

『新しい土曜の夜の部族儀式』は、スティグウッドを通じてすぐに脚本化。主にブルックリンをロケに、9週間の撮影で完成させたのが『サタデー・ナイト・フィーバー』(Saturday Night Fever/1977年)だ。

日本公開時の映画チラシ

映画は、アメリカで年末公開されるとたちまち評判を呼び、世界中で大ヒットを連鎖する。

リアリティ番組でダンス大会が行われたり、コント番組ではパロディが相次ぎ、日本では本作をきっかけに空前のディスコブームが起こったりもした。今では1970年代を代表する良質な青春映画として、多くの人々の心に記憶されている。

主演は当時23歳のジョン・トラボルタ。この映画のために10kgの減量とシェイプアップで役作りをした。TVドラマで既にアイドル的存在だったトラボルタは、撮影中はどこへ行ってもファンが押し寄せて歓声を上げたので、ワンシーンを撮るのに苦労の連続だったという。

もしこの仕事がなかったら、僕は気が狂っていたかもしれない。(ジョン・トラボルタ)

『サタデー・ナイト・フィーバー』DVD特典映像、パンフレットより

だが、トラボルタは深い哀しみに暮れていた。撮影中に、婚約していた19歳年上の女優が癌で息を引き取ったのだ。

映画全編に漂うどこか切ないムードや眼差しは、トラボルタの心の風景を現していたのだろう。乗り越えた彼は大スターの仲間入りをして、『グリース』や『アーバン・カウボーイ』と主演作を積み重ねていく。

『サタデー・ナイト・フィーバー』は、ダンスやファッションも注目された。白いスーツに襟の大きな黒いシャツを着て、ディスコのダンスフロアで様々なステップ(バス・ストップ、ドルフィン・ロール、タンゴ・ハッスル、シザース、フリークなど)を踏むトラボルタの姿は、観る者を完全に魅了した。

マンハッタンでは『スタジオ54』に代表される、有名人が集う大箱ディスコが脚光を浴びていたが、映画ではブルックリンの『2001オデッセイ』というディスコを舞台にしたことが、よりリアルな熱気を醸し出した。

そして音楽はビー・ジーズ。ブルックリンの通りをトラボルタが闊歩する伝説的なオープニングで流れる「Stayin' Alive」、ディスコで響くどこまでもセクシーな「Night Fever」、愛のテーマとして幾つかのシーンを優しく包む「How Deep Is Your Love」は、立て続けにナンバーワンを獲得。

最先端のディスコサウンドを収録したサウンドトラック盤は、ビルボードのアルバムチャートで24週連続1位という大記録を樹立して、世界で4000万枚以上をセールス。スティグウッドの「レコードを売るための映画作り」は、見事に的中した。

少し面白いエピソードがある。実はビー・ジーズの3人は、映画のタイトルも知らず、作品もまったく見ずに新曲を作ったというのだ。しかも録音した場所はニューヨークではなく、フランスの田舎のスタジオだったそうだ。

また、自分たちが出演する別の映画の撮影現場でのランチ中に、ラジオから『サタデー・ナイト・フィーバー』が流れ始めた時、それに合わせて周りのスタッフたちが急に踊り出したのを見て、“もの凄いことになるかもしれない”手応えを感じたらしい。

ストーリーは、ブルックリンの塗料店で働くイタリア系のトニー(ジョン・トラボルタ)の心の成長を描く。

決して裕福ではない家庭に育ち、時給の低い仕事を続けるトニーの唯一の生き甲斐は、土曜の夜にディスコで踊ること。部屋にはアル・パチーノ、ロッキー(シルヴェスター・スタローン)、ブルース・リー、ファラ・フォーセットのポスターが貼ってある今時の若者。

ダンスの王者として知られるトニーにはチンピラ仲間がいるが、ある夜行きつけのディスコでステファニーという雰囲気の違う女の子に一目惚れ。意気揚々と近づくが、長い橋の向こう側にあるマンハッタンの会社に勤める洗練された彼女は、まるで別世界の人間のようで、トニーの現実を厳しく指摘する。

ダンスコンテストで優勝しても、何か特別なことが起こるわけでもない。次第にこのままではいけないと変化していくトニーだった……。

文/中野充浩

参考/『サタデー・ナイト・フィーバー』DVD特典映像、パンフレット

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