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8と10を繋ぐ赤尾・二重らせん 欲望と喧噪のメディア

出てない情報満載で面白過ぎる。メディアの支配者の続編というか鹿内vs日枝にフォーカスしたお家騒動記に加えて、不思議な存在感を前作でも示していた文化放送・旺文社・赤尾家にフォーカスしてテレ朝までも巻き込んだ戦後メディア叙事詩。特に関係者に対して突き付けるような暗喩的な記述が点在しており、そこら辺の真意を想像するとゾクゾクできる。

戦後財界のキーワードとなるのが児玉誉士夫氏の「児玉機関」であり、ここら辺のヒストリーはまだまだ掘りがいがありそうな面白歴史である。しれっとレギュラーメンバーの如く昭和財界ものに名前が出てくる児玉・笹川氏の系譜は本当に興味深い。大物右翼という二つ名も近年存在しない人々過ぎる。

地方局開局ラッシュに伴うキー局たちの国取り物語は免許事業という官民のせめぎ合いが面白く、物語の中では一番ドライブできる件である。そして魑魅魍魎のローカル財界人をまとめ上げ、調整的に割り振りを指揮する田中角栄の存在感はやっぱりエグかったんだなと思わせる。新潟の取り違えエピソードは昭和過ぎて笑ってしまうけど、事実なのが恐ろしい。

朝日新聞とテレ朝になるまでの歴史や、マードック孫連合のテレ朝買収の背後にあるのは地味に暗躍する赤尾氏の存在であるのを知れるのは良知識であった。オランダ絡みの節税スキームを利用した外資規制の抜け穴みたいのも面白い。結局メディアを買うという行為は何故拒絶反応をここまで引き起こしたのか?

後半はニッポン放送買収へ向けて村上ファンドやライブドアの面々が登場し、オンザエッジ時代のホリエモンと産経新聞関係者の余り知られていないちょっと怖い話も出てくる。ITバブルにはちゃんと仕掛人が存在しており、襲撃とかされてるのも含めて闇勢力が噛み続けてきてるのは平成入ってからだと嫌にリアルで生々しい。

実際の買収劇はライブドア・村上ファンドとフジテレビ・ニッポン放送の対立構造のように単純化されて見えるが、実際フジサンケイグループ内でも対立が起きてそこを見繕う村上氏のアクティビストぷりと結果が求められるファンド運用者としての焦りも描かれる。特にクーデターにより退場したと思われていた鹿内氏が再び現れ、日枝氏と共闘したりする展開は少し胸熱。実際読み進めているときは利害対立がよくわからないので勢いで誰が焦ったか喜んだかのリアクションで雰囲気察する必要がある。全員敵過ぎて構図が非常に見えづらいけど事実なので仕方ない。

なかなかライブドアの筆頭株主までのジリジリ加減が少し侵食気味に思えるかもしれないが、「市場内時間外取引」という凄まじいカードの使い方はなんか凄い技決まったみたいでジャンプ読んでるような気分になる。そして真顔で売り抜けて退場していく村上ファンドはホントカイジのパチンコ沼の遠藤みたいな凄まじいオチである。「絶頂を迎えていた」という表現をエロ小説以外で正しく活用した秀逸な記述。

特に最後の章は作者も「ここまで熱心に読む奴おらんやろ」ぐらいのテンションで事件の裏側っぽいところを記述しており、ググっても全く出てこない存在が蠢いていることを示唆する。唐突にB面サイドのお話になり、ここまで全く登場しなかった人物や企業の存在がポンポン出てきて、何か意図を感じさせる作りになっている。陰謀論っぽいメタ読みであるが、ここだけテンションが明らかに不気味である。

エピローグは基本劇中気になるあの人の最後や、前作メディアの支配者でどうなったかが気になるあの人の処遇がきちんと描かれ、物語としてちゃんとオチてるのがいい。ノンフィクションの中でオールタイムベストな読み応えであるので、みんな是非読んでくれ。そして考察交えながら打ち上げしたい。

全然関係ないあの男の父親が煙幕の如く暗躍してるのはちょっと笑った。そして阪神ファンが一番恐ろしい。

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