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マダニ咬傷のTips


はじめに

私がいる地域では今の時期からマダニに刺されるかたが増えてきます。
山間部や河川の草むら、農作業や園芸作業などで気づかずに刺されてしまいます。蚊のようにかゆみがすぐに出てこないことや、鼠径など気づきにくいところを刺されていることが原因です。ダニ自体も小さく(吸血すると大きくなります)、数日後に気づかれる場合もあります。
今回はマダニ咬傷の診療のポイントをまとめていきます。

マダニ咬傷の疫学

マダニ咬傷は日本では春から秋にかけて増えるとされています。
またマダニに関連した感染症の報告は年々増えてきています。(J Infect Chemother.2018 Jul;24(7):499-504.)
ダニ媒介感染症のひとつである、ライム病は1999年から2018年までの20年間で231例が報告されています。北海道や東日本の標高が高い地域(900-1200m以上)に分布しています。
一方、重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)は2024年までに939症例が報告されています。症例の多くは西日本ですが、原因であるSFTSウイルスは北海道でも確認されています。
SFTSの致死率は6.3〜30%であり、しばしば死亡例が報道されています。特異的な標準治療は存在せず、噛まれないことと早期の発見が重要です。

咬傷に気づいたら

マダニにかまれてもすぐに気づくことはあまりありません。マダニ自体が小さく、痛みや痒みがないためです。帰宅した際や入浴時に気づかれることが多いです。
無理に自身でとることはおすすめしません。刺し口が残ってしまったり、虫体の体液が皮膚に入ったりする可能性があります。
医療機関を受診し切除してもらいましょう
個人的にはマダニツイスター(Tick Twister)があると便利です。ほかには局所麻酔後に小切開をいれて取り除く方法もあります。

予防的抗菌薬の是非

ライム病はマダニを媒介とするスピロヘータという微生物によって発症します。刺されてすぐではなく数日たってから発症します。
ライム病の予防のために抗菌薬を処方される場合があります。処方する基準に関して明確なものはありませんが、事前確率の観点から以下を満たす場合には妥当性があると考えられます。
・36時間以上吸血していた
・流行地域である
・マダニが吸血して大きくなっていた
処方する場合には、ドキシサイクリン200mg単回投与が第一選択です。注意すべき点としては8歳未満の小児では投与が勧められないこと、副作用(嘔気が多い)が一定の確率で起こることです。不要な処方は害となるため避けるべきです。
帰宅させる際には、数日後に皮疹や発熱、倦怠感などの感冒に似た症状を呈する場合にはライム病が疑われること、その際には再受診をしてほしいことを説明しましょう。

ダニ媒介感染症と診断したら

ダニ媒介感染症の多くは感染症法に基づいて届け出る必要があります。
ライム病やSFTS、ツツガムシ病などは第4類感染症であるため、直ちに最寄りの保健所に届け出る必要があります。
マダニ咬傷の多い地域では事前に届け出の流れを共有しておくとよいです。
疑問に思った場合には厚生労働省HPに記載がありますので参照してください。

予防が重要

マダニ咬傷はこれまで触れてきた通りダニ媒介感染症の原因となり高率ではありませんが、死に至る可能性があります。予防が重要です。
衣服の隙間や露出した部分で噛まれてしまうことがほとんどです。長袖のものを選び、袖口は中にいれるようにします。
忌避剤も予防策の一つです。用法用量を守り使用しましょう。
上記でも触れましたが噛まれていても気づきにくいことが多いため、特に入浴時には噛まれていないか確認しましょう。

終わりに

夏から秋にかけて山間部での作業をする方が増えると思います。
近年ではキャンプやグランピングが流行しています。
適切な予防策を講じ、万が一咬傷に気づいた場合には速やかに受診をしましょう。

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