C型肝炎ウイルス検査に関して
外来で研修医の先生と話していた際に、「C型肝炎ウイルス抗体(以下HCV抗体)の偽陽性や偽陰性ってあるんですか?」という質問されました。
恥ずかしながらこれまでに気にしたことはなく、興味深い疑問だと思いました。実際にどれくらいの割合なのか、調べてみました。
スクリーニングの意義
C型肝炎はウイルス性肝炎の一つです。
肝硬変や肝細胞癌の発症につながり、未治療のままでは致死的な状態となることがあります。例えばCDCは、C型肝炎が米国で14,200人以上の死亡に寄与したと報告しています(CDC Vital Sign. Too Few People Treated for Hepatitis C. Updated Sept. 21, 2022.)。
近年の治療の進歩によりC型肝炎の治療成績は向上しています。早期に発見し治癒を目指すことが可能になっています。
ただし、肝臓は沈黙の細胞といわれるように、自覚症状に乏しく感染から数年~数十年経過して発覚することもあります。
そのため早期に発見するためには、スクリーニングが必要と考えられています。CDCはC型肝炎有病率の低い地域を除き、18歳以上の成人に対してHCVスクリーニングを推奨しています(MMWR Recomm Rep. 2020;69(2):1.)。
また病院施設の取り決めによって入院時などに肝炎ウイルス検査を行うことが多いです。
HCV抗体の偽陽性・偽陰性
HCV抗体陽性=C型肝炎にはなりません。陽性の場合にはHCV-RNA検査を行い診断を確定していきます。
HCV抗体陽性であっても、HCV-RNA陰性の場合があります。
このときには2つの可能性があります。
①HCV抗体陽性が誤り HCV抗体が偽陽性であり健常な方
②HCVに感染したことがあるが、自然に治癒した方(=既感染)
③HCV-RNA陰性が誤り 実はC型肝炎の可能性がある
③の場合を否定するために、実際にはHCV-RNA検査を再度行います。
実際の割合に関してはいくつか報告があります。
例えば米国の報告では、HCV抗体陽性であったと対象者のうち22%でHCV-RNA検査陰性であり、その後の検査でHCV抗体偽陽性がそのうちの半分ほどとされています(J Clin Virol.2017 Apr:89:1-4. )。
ほかには市販のHCV抗体ウイルス(2種類)とHCV-RNAの検査を献血者、透析患者、HIV患者の3つのグループで見た報告があります。
偽陰性率は献血者で3.5・8.1%、透析患者で17.1・25.1%、HIV患者で5.6・16.7%でした(Saudi J Kidney Dis Transpl. 2007 Nov;18(4):523-31.)。
自分の想定よりもHCV抗体検査の偽陽性率、偽陰性率が高いと感じました。実際の試薬や検査機器の違いがあるので日本の実情とそぐわない可能性がありますが、一定の参考になると思います。
特に透析患者やHIV患者ではHCV抗体の偽陰性が多い可能性があり、
注意が必要です。
終わりに
今回は実際の質問をもとにHCV抗体に関して調べてみました。
テーマと少しそれますが、検査は完全なものはなくエラーも含めて適切な説明が必要であると改めて思いました。
また検査結果を説明する際には、患者のプライバシーにも配慮する必要があります。
こうした疑問は一人で勉強していても気づきにくいので、これからも積極的にほかの先生方とコミュニケーションを取っていきたいと思いました。
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