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減圧症(DCS:Decompression sickness)


はじめに

偶然テレビで某探偵の映画を見ていたところ、主人公が「これは減圧症だ」と言っていました。毎度のことながら知識の広さに驚かされます(本当に高校生なのか…)。
当地域ではあまりなじみがありませんが、潜水に関わる業務以外にも大きなインフラ整備(リニア開発など)でも減圧症は起こりえるとされます。また深海の資源が近年注目されてきており、今後症例が増えていく可能性があります。
今回は減圧症に関してまとめていきます。

減圧症の定義・病態

日本救急医学会のHPでは、減圧症は「潜函作業や潜水作業などの高気圧環境から常圧環境へ戻る際に,血液中に窒素ガスの気泡が生じ,気泡塞栓や組織圧迫によって起きる障害」と定義されています。(日本救急医学会HPより:https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0116.html
潜水作業や深い地下などの高気圧の環境に進んでいくと吸入する空気の窒素分圧が上昇します。それに伴い窒素が血液や組織に取り込まれていきます。
作業が終わり浮上する=気圧が下がっていくと、組織内の窒素ガスが過飽和となり気泡となって出てきます。
気泡による物理的な障害を一次障害、一時障害に伴い周囲の組織で引き起こされた炎症による障害を二次障害といいます。1-2時間後に二次障害は発生するとされており、迅速な治療が必要となります。

減圧症の症状

減圧症の症状は全身の至る部位でみられ多彩です。
症状は早期に訴えることが多く、減圧症の患者の9割は3時間以内に初発症状がある。減圧症において特異的な診断法はなく、高圧下にいた病歴と以下の症状、身体所見から疑うしかありません。
1960年代から皮膚、四肢の関節でのみ症状を呈するⅠ型と、それ以外のⅡがたに分類されます。

改定第6版 救急診療指針を参照

皮膚型:
掻痒感を伴うことが多いです。軽度の発赤では再圧療法は不要とされています。
進行すると大理石斑と言われる暗赤色の地図上の皮疹をきたす場合があります。広範な大理石斑では血圧低下する事例もあるため、再圧療法を考慮します。

筋骨格型:
局所の関節痛はⅠ型とされています。関節は狭い陰圧の空間であり、ガス賛成による症状をきたしやすいと言われます。
肩や殿部を含む体幹部の疼痛はⅡ型に分類されます。内蔵や脊髄の障害である可能性があります。特に腰部の疼痛は膀胱直腸障害の予兆であるかもしれないので注意します。

神経型:
筋力低下、麻痺以外に人格変化や異常行動、めまい、振戦など多彩な症状をきたします。

肺型:
静脈ガス塞栓症により、二次的に肺水腫を伴い致死的となる可能性があるため、迅速な再圧療法が必要です。胸骨部の痛みや深呼吸での違和感、頻呼吸等がある場合には肺型の減圧症を疑います。潜水業務では浸漬性肺水腫と鑑別する必要があります

リスク因子

以下の要因や既往症がある場合には減圧症となる可能性が高まります。

改定第6版 救急診療指針を参照

ヘンプルマンの曝露指数 Q値で簡易的な評価が可能です。200を超える場合には減圧症となる可能性が高まるとされています。
・Q値=最大潜水深度(m)✕√滞底時間(分)

減圧症の治療戦略

減圧症を疑った場合には高濃度酸素を投与します。これにより気泡の再吸収が促進されます。そのほか、経口摂取可能であれば飲水も可能です(糖分が入ったものは避ける必要があります)。
軽症例(掻痒感や倦怠感のみ)では酸素投与で十分なことが多いですが、それ以上の症状を呈する場合には再圧療法の適応があります。
最寄りの再圧療法可能な施設に送る必要があります。空路の場合には内部圧を維持できる航空機が良いとされます。

参考文献

・改訂第6版 救急診療指針
・UpToDate:Complications of SCUBA diving

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