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転職の経験が活きて妻と出会えた話(16) 仲間が増えた 前編

【仲間が増えた 前編】
「なぁ、今日の夜もお見合いか?」
「いや、今日は違う。どうかした?」
恒例の昼休み、婚活談義。
「うーん、そろそろ熱燗とおでんの美味しい季節かなと思って。」
なるほど、今日は金曜日か。確かに、昨日、工程完了判定会議が無事通った。
俺としても、一杯飲みたい気分ではある。ただ、
「あー……すまん、今日は姉ちゃんと飲む予定で。」
「あれ、田尾って、姉ちゃんいたっけ。」
いるのである。
「会ったことなかったっけ。」
「うーん、、たぶん、ねぇな。」
「まぁ、年子の姉弟だけど、姉ちゃん、高校時代は部活ばっかりやっていたからなぁ。」
ガチのテニス部だった。
「なるほど。じゃあ、しゃーねーな。一人で飲んで帰るか―。」
・・・
「あれ?」
祐介がきょろきょろと周りを見渡す。
「ん?ああ、あーちゃん先輩?」
「そう。そろそろ割って入ってくる頃合いかと警戒したんだが。」
「あ、今日は出張らしい。」
祐介は、先輩の業務予定を知らないんだな。違う会社なんだし、知らないのが当たり前だけど。
あの人は色々と謎だなぁ……。
「んーー……良ければ、こっち同席するか?」
謎は脇に置いておいて、思い付きを祐介に提案してみる。
「いや、それは悪いだろう。」
「そうでもない。割と何回か、人を交ぜている。」
「どういうこっちゃ。」
「なんか、『峠の親しい人なら大概気が合うと思うので、交友広がるし、いつでも呼んどいで。』と言われている。」
おおらかといえば、おおらかな性格か。
「ほーん。そういうもんですか。」
「某自治体職員なんだけど、仕事関係だけだと、世界が狭いらしい。こないだは、あーちゃん先輩を交ぜた。」
「おぉぅ、濃いもの交ぜたなー……。化学反応はどうだった?」
「それが、殊の外、両者、意気投合してたな。」
「マジか。」
「気づけばワインが3本空いてたなー。」
思わず遠い目になる。翌日、二日酔いで大変だった。姉は平気そうだったが。
「ま、一応、聞いておくわ。」
「おぅ、よろしくー。」
そう言って、祐介はラーメンをすすり始めた。
こちらはスマホを取り出し、メッセージを打ち込む。
『今晩、友達を交ぜていい?』
送った直後に、スマホが震える。
『おk』
……返信、はえーな。
「いいってさ」
「ぶほっ、はやっ!」
むせてやんの。
「てことで、今日、19時に新橋でよろ。」
「おう、了解。」

・・・・・・
・・・

3つのジョッキが合わさり、小気味の良い音が鳴る。
「おつかれー!この一杯のために生きているっ!!」
紹介もほどほどに、杯を合わせてビールをあおる。
ワイガヤの大衆居酒屋。
「へー!あなたたち、婚活やってんだ!」
ちなみに姉も未婚である。
「実際、どうなの?首尾は?」
男女のそれに『首尾』と使うあたりが姉らしい。
「鋭意、修行中ー。」
「なんだそれ!」
景気よく笑われた。
「ま、女性との接点少なかったし、仕方ないか!」
「姉ちゃんこそ、どうなんだよ。彼氏でも出来てないのか?」
「できてないねー。これっぽっちも気配がない。」
「なんでです?おキレイなのに。職場も男女比の偏り少なそうですし。」
祐介が話に入ってきた。
「あら、お世辞でも嬉しいわ。でもねー、公務員なんてなるもんじゃないわー。」
シミジミと呟きながら、ジョッキを空ける。
「すみませーん!生1つ追加!」
勢いよく追加注文。
――はえー…。
「なんで?うちの県が好きだし、公共政策に興味もあったじゃん。大学、その専攻だし。」
「なんだけどねー……。まぁ……少なくとも私の経験してきた部署はどこもブラックね。」
――世の中、ブラックだらけだな。
色々と思い起こされて、自分の胸も痛い。
琥珀色のアルコールを飲み干し、感情を流し込む。
「すみませーん、鳳凰美田ホワイトフェニックス、2合、お猪口3つお願いしまーす!」
「お、いいね!俺も好きな銘柄。」
「私も好き。」
3人とも日本酒党なので、さっそく頼んだけど、予想通り良い反応。
「で、仕事が忙しく、色恋をする暇なんて無い、と?」
「ありていに言って、そうね。何時間、サビ残させんのよ。予算の時期とか最悪。財政課とか死ねばいいのよ。マジで。23時に内線かけてきて、『あー原課の担当、もう帰られたんですか。お金いらんですねー』とか、んなわけあるか!いるわ!!」
器用に途中でモノマネを入れながら、ヒートアップしていった。
「ちなみに、原課は事業を企画・実施する課。その予算を部で取りまとめて、財政と折衝するのがうちの課ね。」
丁寧に解説を挟んでくれるあたり、なんやかんやマイペースになれない人である。
「それに、職場で恋愛関係になんてなってみなさい。翌日には関係各所には伝わっているわ!1週間後には、人事課の裏ファイルに交際情報として記録されてるわね!」
『うわー……』
2人して、引いた。
さすがに都市伝説ですよね?
あまり聞きたくないので、それ以上、突っ込まなかった。
「私も結婚相談所、入会してみようかしら。ちょっと、詳しく教えてよ。」
吐き出して、落ち着いたのか、現実的な対応案の検討に入った模様。
「お。ありがとうございます。」
店員さんがお猪口と徳利が持ってきて、テーブルに置いてくれた。
各々に次いで、3人が一口。さらに落ち着いた模様。
「そうだねー、どこから話したものか。」

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