KMNZはどのように『ギャップ』を生み出したのか-jinmenusagiとばあちゃるの発言から-①

 
バーチャルyoutuberの活躍がすさまじい。

 2017年12月末から急激にネット上で広まったこのバーチャルyoutuber(以下、vtuberと略す)という概念は、2018年9月ですでに5000人を突破した。

 「VTuberの総数が5,000人突破、登録者数トップ10も発表」 MoguraVRより引用

 大手インターネットテレビ局AbemaTVは「にじさんじのくじじゅうじ」と、BS日テレは「キズナアイのBEATスクランブル」といった、vtuberが主体の番組なども制作され、今後さらに増えていき、それに伴う幅広い層への認知度の上昇なども見込まれる。
 こういった、いわばyoutubeの枠を飛び出して活躍しているvtuberのひとつにKMNZがある。


 KMNZ(ケモノズ)は、MCリタ・リズの二人組のVTuberユニット。MCリタは2018年5月、リズは6月にそれぞれチャンネルを開設、動画投稿を開始。

「クールなリタとキュートなリズのVTuberユニット「KMNZ」」かむなびより引用

2018年11月7日段階で、リタが約29,744人、リズが29,636人ものチャンネル登録者を抱え、人気のvtuberの一人である。
 さらに司会を務める番組もTOKYO MXにて放送中だ。
 その司会を務める番組、「VIRTUAL BUZZ TALK!」の番組公式サイトによると、

『地上波初、「VTuberのVTuberによるVTuberのための」トークバラエティ番組!バーチャルガールズユニット「KMNZ(ケモノズ)」のリタとリズがMCを担当、毎週大人気VTuberをゲストに招いて、あらゆるテーマでトークを繰り広げます』

「VIRTUAL BUZZ TALK!」TOKYO MX公式サイトの番組概要説明欄より引用

 ゲストのたびにハッシュタグが変わる、Twitterにおいて次のゲストに電話などの方式を用いてバトンパスをする様子をアップロードするなど、ネット発の番組とだけあってネットを巻き込み、多くの視聴者を獲得している。
 活躍が著しいKMNZ。だが彼女らについて語る際に絶対に外せないフレーズがある。
 それが「ラップ」である。

 Vtuberといえば、「はじめの挨拶」を持っているのが定番となっている。
 キズナアイといえば「はいどーも!」電脳少女シロといえば「こんにちは!シロです」ミライアカリでは「ハロー!ミライアカリだよ(ピロリン)」などなど。どれもつい真似したくなってしまうようなフレーズである。
 その例に漏れず、彼女たちもこういった挨拶を持っている。
 前述の彼女らが出演している「VIRTUAL BUZZ TALK!」において、番組の最初にKMNZは視聴者に向けてこのように挨拶する。

「Hey, yo,what's up!KMNZでーす!」


 この英語部分、「Hey, yo,what's up」は意訳すると「よう、調子どう?」という意味である。KMNZのふたりのポップさ、そして身近さをも感じさせる素晴らしい「挨拶」であるが、この言葉、実はラップ界隈でも多く使われる言葉なのである。 「what's up」のみでも使われることがあるが、このようなラップミュージックを聴く者なら一度は耳にしたことあるフレーズ、俗にいう「スラング」を彼女たちは挨拶の中に織り交ぜているのだ。
 (おもに実生活の会話などで使われる場合が多いが曲に入れ込む場合も多い。2006年にヒットしたラッパー、リル・スクラッピーの代表作『Bred 2 Die Born 2 Live』の中で50centが客演した曲名が「N****, What's Up」である。曲名の伏字の理由は話すと長くなるが、伏字部分はあまり人前で言えない言葉であるとだけ言っておこう)

※また、「スラング」に関して、ほかにどのようなものがあるか気になった方はバーチャルラッパーのYOSHIの【HIPHOPスラングのススメ】シリーズを見てほしい。


KMNZへと話を戻そう。


 彼女たちが8月7日にデジタルリリースした楽曲「VR」は、主な作詞をKMNZCRWが、作曲をSnail's Houseが担当。さらにライターとしても、作曲者としても、さらにvtuberである「じーえふママ」のデザイン担当などマルチな活動を行うじーえふが一部作詞を担当した。
 そのクオリティの高さなどからitunesにおけるヒップホップ/ラップカテゴリーではなんと1位を記録。大きな反響を呼んだ。

 「バーチャルYouTuberのラップソングがiTunesで一位に Snail’s House楽曲提供」 YAHOO JAPANニュースより引用

 さらにそのあとTwitterにてインストルメンタルを無料配布。作曲系vtuberであるミディ「第17話KMNZ VRをリミックス&歌ってみたの巻」というタイトルで原曲インストをアレンジしたものの上で曲を歌い直すという形でリミックスを公開。

 さらに二人組男性ユニットMonsterZ MATEの一員であり、ラッパーとして活動しているコーサカ、近年ではキャスターとしてだったり、KAI-YOUのライターとしてなど多方面な活躍を見せる虹乃まほろによるインストの上に別の歌詞を載せるというラップ界隈で特に使われる手法を用いた作品が「KMNZ - VR KO_MAHO REMIX (コーサカ&虹乃まほろ) #KMNREMIXというタイトルで公開されるなど、様々なvtuberやさらには非vtuberたちによる多種多彩なREMIXが行われた。※なお、虹乃まほろは原曲の歌詞そのままで歌っている。

 こういった「バズった楽曲」のインストを公開・配布という形で他人にREMIXをしてもらうというのはラップシーンにおいても多くみられるようになっている。
 MCバトルというラップでお互いをけなしあうことを題材にしたテレビ朝日で放送中の番組「フリースタイルダンジョン」において、崇勲 vs ONE a.k.a ELIONEの試合は特にモンスターと呼ばれる挑戦者と戦うラッパーたちが二代目になってからのベストバウト(名試合)だと上げる人も多いだろう。
 4小節から雰囲気が大きく変化し、従来のバトルビートではあまり見られないタイプのビート。難易度がかなり高いにも関わらず両者がハイレベルなスキルを見せベストバウトとなった。この試合にて使われていたのがAKLOによる2013年にリリースされ、のちにSALU、CREAMのSTAXX T、KOHH、SHINGO☆西成によるREMIXも公開され話題を呼んだ 「NEW DAYS MOVE」である。
 フリースタイルダンジョンの放送後、インストルメンタルをフリーDLとして、期間限定で公開。その際にAKLOは自身のサウンドクラウドの説明欄にこのように書いている。

NEW DAYS MOVE がフリースタイルダンジョンのバトルビートとして使われて盛り上がってるみたいで嬉しいです。
このビートでフリースタイルはかなりスキルが必要だと思うんだけど、
インストをゲットして自分もやりたいっていう強者の為に1週間限定でフリーDLでUPします。
あとAKLO×JAY’EDで新曲も出したばっかりだからそっちもチェックしてね!
AKLO

AKLO soundcloud「NEW DAYS MOVE instrumental」より引用

あと話変わるけど原曲のREMIXのライブ版は死ぬほどかっこいいので見てください

 さて、これまで述べたように、KMNZはvtuberの活動の中に「ラップの要素」を歌唱法として楽曲に取り入れるのみならず、スラングやラップ界隈におけるスタンダードな手法を取り込んでいるように見える。今後の活躍に期待が強くなる一方なのであるが、では彼女たちのvtuberとしての魅力はこうした「ラップの要素」だけなのだろうか。
 私は断じてそうではないと思っている。

 vtuberにとって、彼や彼女たちの魅力といったらなにがあたるのだろう。そういった問いに対して、私は「意外性」、さらに言い換えるとするならば「ギャップ」であると述べたい。

 木村すらいむ(木村一輝)によると、いわゆる「『四天王』と呼ばれるキズナアイ、ミライアカリ、輝夜月、電脳少女シロ、バーチャルのじゃロリ狐娘youtuberおじさん(ねこます)の5名が12月以降爆発的に登録者数を伸ばしたきっかけとして「バーチャルyoutuberの天才動画が例のアレカテゴリでランキング入りした時期と、チャンネル登録者数が増加したタイミングが一致している」ことを挙げている。

 2017年12月、バーチャルYoutuberはなぜ・どのように流行ったのか?」 文脈をつなぐより引用


 もちろん、このランキング入りの前にも彼女(彼?)たちのファンは存在していただろうし、木村氏が述べているようにねこます氏の知名度を上昇させるきっかけになったものとしてにゃるら氏の紹介ブログも忘れてはならない。

  「キミは「バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん」を知っているか!?」 根室記念館より引用

 だが、「バズ」のきっかけになったものとして、最大の要因のひとつはこのニコニコのランキング入りであることは間違いないだろう。
 では、なぜvtuberたちはこうしたバズを生み出すことに成功したのだろうか?そして、そこにある「ギャップ」とは、どのようなものなのだろうか?
 
 

 本稿ではこのバズを生み出すことになった「ギャップ」に着目し、vtuberたちの人気の理由について、これまでの経緯とともに考察する。 その中でKMNZにおける「ギャップ」はどういったものになるのか、本人たちの活動や発言、所属しているプロダクション「Ficty」の共同創業者二宮明仁氏の発言などから考察していく。
 さらにアイドル部のプロデューサーであるばあちゃる氏の発言からvtuberの魅力の要因を、KMNZが主としているラップミュージックの特徴として、Jinmenusagi氏など、実際にラップシーンにおいて活躍しているラッパーたちの発言や楽曲などにも注目し、vtuber全体としての、そして彼女たち本人が持つ「ギャップ」のメカニズムについて解明していきたいと考えている。


今後の書く内容について
 はじめに(ここ)
  vtuberと「ゲイン-ロス効果」の関係性-ばあちゃるの言う「魂の輝き」を象徴するもの
 「Twitter」と「楽曲」が別人?-LIZ裁判から見るLIZのTwitterアカウントの特異性-
  「離れた次元 つなぐのが本能」-ラップ担当のLITAが見せる「クールさ」と「かわいらしさ」
  ラップミュージックとキャラクターの親和性-Jinmenusagiの言う『価値観のプレゼン』とは?
 「バーチャルの可能性」-KMNZは今後なにを目指しているのか

いろいろ長丁場になりますがよろしくお願いいたします。