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写真集「線路でなぞるよどこまでも I've been tracing on the railroad」ができました。

たとえば、ジリジリと日に照らされた一面の畑を貫く、グラウンドに引かれた白線のような畦道と、カタツムリのように動く赤いトラクター。

たとえば、トンネルとトンネルの一瞬の間に登場する、丸く弧を描いた海水浴場と、ずっと奥の水平線に浮かぶ、光を散らしたように白い漁船。

たとえば、サーモン色の空に浮かび上がる、五線譜のような電線と鉄塔と、その下で静かに明かりをともす誰もいないコンビニ。

たとえば、遠くから近づいてくる列車に向かって、まるでそういうルールがあるかのように、思わず手を振ってしまう散歩中の園児たち。



この車窓に愛おしさを感じてしまうのはなぜだろう。

一瞬で通り過ぎてしまう風景のほとんどすべての場所に、今後一生、実際に自分が立つことはない、かもしれない。そして、ほぼすべての人間が、自分が関わることのないそういう風景の中で毎日を送っている。車窓を眺めていると、すべてを知ろうとすることに対する諦めと、誰かにとっては大切なそういう風景が連綿と続いていることに対する愛おしさの入り混じった、どこかもどかしい気持ちになる。



駅という場所も同じだ。

この国には10,000を超える数の駅という場所が存在するらしいけれど、せいぜい一人の人間が一生で使い古すことになる駅の数は、両手で数え切れてしまうくらいだろう。これに乗り遅れれば遅刻が確定してしまうという高校生たちが、どかっと乗ってくる駅もあれば、何から何まで用意されたマニュアル通りに淡々とドアの操作がなされる駅もある。どんな駅でも、どこにある駅でも、きっと誰かにとっての最寄り駅であり、使い古された駅であり、それでも自分にはやはり馴染みのない駅であり、初めて訪れる駅であり、そういうの・・・・・の繰り返しでレールが紡がれていることがつくづく不思議だった。



プシューという機械音とともに開いたドアから侵入してくる夏の熱気。イヤホンの音漏れのように蝉の鳴く声が車内に聞こえてくる。誰も乗ってこない代わりに、駅に着くたびに蒸し暑い夏の匂いが乗り込んできた。愛おしさの正体は、これぞ「日本のローカル線!」っていう感じの懐かしさと、身体いっぱいで感じる賑やかな虚しさだったのかもしれない。


ボックス席で靴を脱いで足を延ばしていれば、もう少しで乗り換えの駅に着くという頃なのに、居心地の良さに包まれて、気だるい眠気が重くのしかかってくる。乗客ひとりひとりの旅のドラマを乗せた列車の中で、同じ車窓を共有しながら、終着駅までただただ揺られ続けられる毎日。経路をなぞれば、自然と列島のシルエットが浮かび上がってくる贅沢な夏休みの旅の記憶。



この写真集には、そんなありふれた日本のささやかな鉄道風景が詰まっています。ぜひ手に取って、路線図の線路をなぞる気持ちでページをめくってみてください。




タイトル:「線路でなぞるよどこまでも I've been tracing on the railroad」
サイズ:B5横
ページ数:146ページ
カバー:ソフトカバー
価格:税込1,650円


こだわったこと

  • 写真選びにおいては、なるべく鉄道マニアが喜ばなさそうな写真を意識しました。鉄道の旅行なのですが、そのスピード感を伝えすぎないことも気をつけました。ゆっくり旅したことで出会えた景色を大切にしたい、という想いです。

  • 各ページの右下、もしくは左下に、この旅の経路を載せています。パラパラ漫画の要領でページをパラパラすると撮影地を示す赤い点が線路をなぞるように列島の中を動き回ります。

  • 1枚1枚のキャプションを短文で説明しようかともしたのですが、情報量を増やしすぎてはごちゃごちゃしてしまうので、ありのままの鉄道風景を感じとってもらうため、撮影地の情報を最小限にし、余白を多く残すデザインとしました。




「最長片道切符」とは、日本で発行できる最も経路の長い切符です。2022年8月から約1か月間、この「最長片道切符」を使って旅行しました。その旅を通して、全国各地で撮った日本のささやかな鉄道風景や車窓をまとめた写真集です。

もしかしたら、あなたの最寄り駅や毎日利用している路線もあるかもしれません。総経路距離10,000km以上におよぶ長旅を、線路で日本列島を一筆書きをしている気持ちで、ページをめくってみてください。


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