MMTへの誤解と財政破綻論の嘘 その8

前回に引き続き、お蔵入り放出その2

MMT...の前のアレコレ


●貨幣が負債?どうして?


紀元前のいつか------

Aさんが空腹で遭難しかかっていた時、通りがかったBさんが魚を持っていました。

こんな時どうしますか?

①奪う
②道端の石ころを拾って、実はこれは価値があるのだと言って交換する詐欺を働く
③借りを作る

はい、③ですね。

貸したことを忘れないように、Aさんに貸し借りのメモ=借用書を書かせたのが、貨幣の最初です。

後日Bさんがメモを手に、魚を釣って返せとAさんに迫りました。

メモがAさんの借用書=負債なら、Aさんは魚を返す義務が当然あり、Bさんは返してもらう権利があります。

ところがAさんが「メモは負債である借用書として発行したんじゃなく、価値ある作品で資産だから、貸し借りじゃなく交換、売買だ。買ったものを返す義務は無い!」と言い張ります。

返済(償還・償ってめぐる)は必ず果たすべき責務ですが、資産と資産で売り買い(交換・交わってかえる)をするのは、必ず応じなければならない、と言うわけではなく、あくまでも両者の都合が合えばの事です。

なので、Aさんが断れば、Bさんはメモと魚を交換してもらえず、メモを持ち帰るしかないのです。
そんなメモ、ほかの誰が受け取ってくれるでしょう?

貨幣が負債でなく資産として作られると、こういう妙な事になります。※1

では、メモが借用書=負債なら?
もちろんAさんは魚を返さなければなりません。

こうしてその後も友好的に、信頼に基づく、貸し借りのメモ=借用書を介した取引関係が続けられます。

貨幣経済の萌芽です。

MMTが貨幣をIOU(I owe you  私はあなたに借りがある)というのは、こうした意味もあるのです。※2



●信用創造って何のこと?


信用創造は英語で money creation で、直訳すると貨幣創造です。

「金を作る」という言い回しの、他人のお金を自分の手元に集める意味ではなく、実際にお金を創出します。

実はお金にはグラデーションがあり、誰が発行したかで流通のし易さに差が出ます。
一番は政府と中央銀行で、次に銀行です。

国は現金と中央銀行当座預金を創り、民間は銀行預金を創ります。

この二つが創り出すお金は異なるのですが、どちらの仕組みも信用創造と呼んでいます。

無から作り出せるなら、やりたい放題!?と思いますよね。

確かに、日銀当座預金も銀行預金という準通貨も、パソコンのテンキーで顧客(日銀は政府や銀行に、銀行は企業や個人に)の預金データを書き換える事で創れます。
どこからともなく集めたお金を又貸しした記録の事ではありません。

でも、やりたい放題ではありません。

民間の信用創造では、銀行が顧客の口座に発行できる預金の額は、借り手の発行した借用書(または借り手が預け入れる政府発行の借用書=現金)の額の範囲です。※3

つまり、無から作り出されているのは、銀行の預金ではなく、借り手の発行した借用書なのです。
銀行預金はその反映に過ぎません。
信用創造のスタートは、借り手の資金需要(国の信用創造の場合は、政府の予算の必要に応じて)なのです。※4

民間の場合、借り手の発行する借用書(借り手の負債。最劣位の貨幣の亜種)を、銀行は資産として保管して、同額の銀行預金という、銀行自身にとっての負債(優位の準通貨)を発行します。

俯瞰すると、銀行と顧客は互いに自分の負債(顧客は借用書。銀行は預金)を差し出し合い、相手の負債を自身の資産(顧客は銀行預金。銀行は借用書)にする、と言う事になります。

そして顧客の保有した銀行預金は、世の中で使用される準通貨として扱われます。

これが民間に限定した場合の信用創造です。

国家の信用創造はどういう事なのかは次項で触れます。


●準備預金って何?銀行預金と何が違うの?


銀行預金は銀行が発行した負債で、個人の資産です。

準備預金は日銀が発行した負債で、銀行の資産です。※5

この二つは存在する世界が違います。

比喩で表すと、PCのディスプレイ(以下、画面)と鏡のようなものになります。

画面に表示されている数字が準備預金で、鏡に映る数字が銀行預金です。

画面に映る数字は、画面から抜け出て鏡に移動するでしょうか?
しませんね。
移るのではなく、映るのです。
ここが、よく誤解されるところです。

画面には、鏡が無くても数字が映りますが、鏡には画面に数字が映らないと現れません。

ただし、PC画面の横に、タブレットやスマホが現れる事があります。
PC画面にはタブレットの数字は映りませんが、鏡にはPCとタブレット両方の数字が映ります。

PC画面の数字が日銀の負債(銀行の資産)である準備預金とすると、タブレットの数字は企業や個人の負債、借用書の額(銀行にとって貸付金という資産)になります。

ところで、銀行預金って引き出せますよね?

鏡の世界からどうやって引き出すのか、不思議でしょう?

実は、鏡(銀行預金)から引き出してるのではないのです。

何が引き出されてるのでしょう?
画面の数字が、引き出し額分、減るのです。

鏡の数字はそれを反映して減ります。

画面から減った数字はどこに行くかというと、PCの印刷機から印刷されます。これが引き出しです。(本当は準備預金には現金も含まれ、予めATMに用意されてるのですが、そこは比喩の限界です)。

ところで、鏡に映った数字には、PC画面の数字以外に、タブレットやスマホの数字もありましたね。

タブレットの数字は引き出せるのでしょうか?

画面よりタブレットの数字が小さければ引き出せますが、大きいとそのままでは無理です。

銀行の資産には企業や個人の負債の数字、借用書がありますが、他人の借用書を引き出しても街で使えないですよね。

なので時々、他のPCから数字を借りてきたり、PCを操作して、数字を増やす事があります。

準備預金を他行や日銀から借りる事が出来るので、引き出せるようになります。

ところで、PCの画面の数字は、どこからきたのでしょう?

政府が指示し、日銀がキーボードで打ち込んで、表示されました。

政府の指示とは、財務省証券という、金額が書かれた紙です。この額は政府の負債として記録されます。

日銀はこの紙を資産として手元に置き、負債として数字を画面に表示したのです。

つまり、世の中にあるお金は、元を辿れば、政府の負債の反映なのです。

政府の行う信用創造とは、上記のような事で、民間が行う信用創造は、派生的で、不安定な事なのです。

●注釈


※1
もちろん、本人の書いた借用書と、他人である政府の書いた借用書=貨幣は、大分扱いが変わります。
後者は、発行した政府以外の民間にとっては、負債でなく資産なので、街中での売り買いで使う時は、資産(お金)と資産(商品)の交換です。売り買いを強要されることはありません。
しかし発行した政府はメモ=借用書を出されれば、償還しなければなりません。受け取りを断ることはできません。
政府の発行する貸し借りのメモが国債なら、円で償還します。
とは言え、円自体も政府(と中央銀行)の発行するものです。円という借用書を政府に突きつけた時、なにで償還されるのでしょう?
政府が国民に課した税を、労務や物納でなく、政府の発行した借用書=貨幣を突きつける事で、課税をチャラに出来ます。この課税の解除が、円という借用書への、政府の償還方法です。


※2
こうした理由もあり、政府が自身の資産として扱える硬貨の額を、超高額にして発行して予算を賄おうとするアイデアは、「貨幣=借用書=貸し借りのメモ」だからこそあったはずの償還の義務が無くなり、貨幣の信用=償還可能性が発行者まで遡る事が、不可能になる為、支持されません。また、貨幣を発行者の資産として扱う難しさ以外に、端的に、1兆円硬貨で支払われてもお釣りを出せる企業がないので、日銀に買わせるしか無く、それは国債を買わせるのとどう違うのか、という身も蓋もない理由もあります。
では、今ある1円から500円までの少額の硬貨の存在は矛盾しないのでしょうか。
実は、硬貨は補助通貨の位置付けで、使い方にも制限(例えば1円玉を20枚以上使った支払いは拒否できる法律)がありますが、発行者である政府に対する支払いだけは、制限がありません。
つまり、仕分け上は資産として計上していても、実務上は負債として、必ず課税の免除(税の支払いを、円での支払いで済んだと認める。物納する必要をなくす)という償還が果たされる仕組みになっているのです。
政府が一方的に課税する事に違和感を覚える方もおられるでしょうが、こうした政府の権力があってこそ、ある借用書が通貨として、万人に受け取られ、流通・通用する貨幣=通貨として、ある国中で成立し継続するという、租税貨幣論が唱えられます。ゆえに、MMTからは無税国家は提案されません。
MMTの土台となった学者の一人に、ミンスキーという方がいます。彼のいう「貨幣は誰でも創造できる。問題はどう受け取らせるかだ」の意味するところです。


※3
他行からの送金や、政府支出(公共工事の事業費や、年金給付等等)でも、銀行は負債である銀行預金を顧客の口座に発行できます。
何故ならば、政府の支出により、政府預金が銀行の資産に付け替えられるからです。
他行からの振り込みの場合は、他行の準備預金が、自行の資産になります。
この為、増えた資産と同額の銀行預金を、自行の顧客への負債として発行できるのです。
では、政府預金や準備預金とは何なのか、銀行預金とは違うのかと言うと、違います。ここはまた別項にて解説します。


※4
実際の実務では、借り手の信用度を測ります。
国毎にまちまちですが、事後的に一定の準備預金と呼ばれる、日銀が発行する日銀当座預金という特殊なお金を、銀行の資産として保有しなければなりません。
これは顧客からの現金の預けで手にすることもあれば、日銀や他行から借りる場合もありますが、一番は、政府の支出で手に入ります。政府の支出は、政府と中央銀行が、互いに負債(政府は財務省証券、日銀は日銀通貨)を交換した後に、支出します。
銀行の発行する負債である銀行預金の裏には、個人や企業の借り手が発行した借用書や、政府が発行する借用書(国債)、日銀が発行した借用書(日銀当座預金と日銀券。これが銀行の準備預金として扱われる)があるわけです。


※5
準備預金とは、日本銀行の管理する日銀口座にあるお金で、日銀当座預金とも言います。これには、帳簿の数字の他に、紙幣や硬貨も含みます。
口座の名義が政府の場合は政府預金といい、銀行など金融機関の場合は準備預金と言います。
政府が支出する時は、政府預金が日銀の内部で、銀行に振り替えられて、銀行の資産である、準備預金となります。
このように、準備預金は、銀行の負債である銀行預金とは別物なのです。
しかし、準備預金には政府発行の硬貨や日銀発行の紙幣が含まれており、銀行の預金の引き出し時に準備預金が使われるため、銀行の融資とは準備預金を貸し出す事であるという誤解が流布しています。

いやあ、例えで書くのって、難しいですね!
何で俺、よりにもよって鏡を持ち出したかね。
鏡とかそれ自体が混乱しやすい物なのに。
それにしても、一つの事をちゃんと書こうとすると、自分の解像度の低さが如実に現れますね。
短く断定的に書くと、産湯と一緒に赤子を流してしまうし。
nyunさんも言ってましたが、MMTのこれがわからん!というのをこそ書く方が理解の近道なんだろうね。

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