黒澤明『天国と地獄』:丘の上に住む人は私と同じく人間なのか?
1963年に公開された黒澤明の『天国と地獄』は題名通り、地理空間においても、階級構造においてもわかりやすい二項対立を提示している。町を一望できる丘の上の豪邸と、それを見上げるスラム街の中の窮屈で汚い一室。幸福な家庭生活を送り、仕事に熱意と理想を持つ資本家と、生まれてから貧困に呻いてきて、憎しみを生きがいに持つ若者。
しかし一見究極な二項対立だからこそ、それだけでは決して語りきれないものをほのめかしているように私は見えた。とりわけ注目したいのは、主人公権藤自身も低い階層の出自