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急増する需要と消えゆくロバたち 〜アフリカと中国における阿膠産業の影響〜

 ロバ・・ドンキーは、日本ではあまり見かけなくなった動物だと思います。しかし、昭和の昔は『ロバのパン屋』といってロバの馬車にパンを載せて、移動販売していたらしく、ロバのパン屋という童謡も出来ました。

 つまり、日本でもかつては割と身近にいたロバですが、動物園で見る限り、大人しくてかわいい動物だと思います。

 そんなロバ、英語ではassとかdonkeyと呼びますが、辞書によると前者は野生のロバを意味し、後者はその家畜化したものを指すのだといいます。

 雄のロバはその身体に比べて長大な一物を持つことで知られ、親子の見境なく交尾することから「畜生」と見なされる一方、馬と比べて頑固で、従順ではなく、融通が利かないことから「愚か者」と揶揄されてきました。

 米国・民主党のシンボルはロバ(donkey)ですが、後に第7代大統領となった当時(1828~29年)大統領候補であったアンドリュー・ジャクソン(Andrew Jackson)が、敵対する共和党から“Jackass”(馬鹿のジャクソン)と呼ばれたのを逆手に取って、ロバを民主党のシンボルとしたと言われています。

 動物福祉団体の専門家によると、中国でロバの皮は「阿膠(あきょう)」と呼ばれる漢方薬に使われているそうで、この薬に対する需要が中国で年々増加しており、毎年数百万頭ものロバが殺される事態になっているというニュースが流れました。数年前から一部では問題視されてきていたようです。

 ロバの皮から抽出したゼラチンを使って作られる阿膠は、中国で食品や美容製品に欠かせない成分で、増血作用や免疫システムの改善、病気の予防に役立つと多くの中国人消費者に信じられているそうです。

 ロイター通信はアフリカの地域社会を、阿膠の需要増加がどのように揺さぶっているか、またアフリカ諸国の一部における規制にもかかわらず、ロバ皮の取引がどのように活況を呈しているのかを調査したそうです。
 
 昔から阿膠は高級品で、清朝期(1644-1912年)に上流階級の間で人気となりました。2011年に中国で放映が始まったテレビドラマ「宮廷の諍い女」中に取り上げられたこともあり、近年人気が急上昇しているそうです。中国における中産階級や高齢者の増加も、需要増に拍車をかけているとしています。
中国国営メディアによると、価格は過去10年で、500グラム当たり100元から2986元(約64000円)へと約30倍に跳ね上がったようです。

 ロバの愛護を目的とする英慈善団体「ドンキー・サンクチュアリ」が2月に発表した報告書によると、阿膠産業は1年に推定590万頭分のロバ皮を必要とし、世界中の個体数をかつてないほどに最も圧迫しているという事です。

 中国におけるロバの頭数は1992年の1100万頭から80%以上減少し、200万頭弱になり、そのため、海外からロバを調達する必要性が高まりました。
そうした中で、アフリカはロバの生息数が世界で最も多いため、ロバ皮の重要な供給地となっています。

 ロバはアフリカ大陸の広範囲で交通手段などとして使われ、貧困の緩和にも貢献した動物です。ロバの導入は、多くの女性や女児を大変な肉体労働や家事から解放しました。中国で急増する皮の需要は、アフリカの多くの農村で重要な役割を担ってきたロバを直撃しているという事が問題視されてます。

 ナイジェリア1カ国だけでも、年間数万頭のロバが皮を得るために殺されているそうです。同国政府は2019年にロバの輸出を禁止したものの、屠殺はいまだ認められています。

 通常、ロバは市場が開催される日に北に隣接するニジェールから連れてこられ、売られてトラックでナイジェリア南部に運ばれ、そこで殺されて皮は中国へと輸出されるという事です。

 55の国と地域が加盟するアフリカ連合(AU)は2月、大陸全土で皮を生産するためにロバを殺すことを禁止したと発表しました。

 一連の動きは、アフリカのロバ保護に向けた重要な出来事として、動物愛護団体や環境保護活動家に広く支持されていますが、施行には困難が伴い、違法取引が続けられるリスクも大きいとする見方が多いようです。

 タンザニアでは2022年、10年間ロバのと殺を禁止する法律を施行しました・・・が、各国がロバ皮取引の禁止や規制に踏み出しているものの、ロバの売買や違法な殺処理は後を絶たないのが現状のようです。

 もう一つの懸念は、ロバが人畜共通感染症病(動物から人間へうつり得る病気)を広める可能性があることで、剥がされたロバの皮は、天日干しにされます。乾燥と塩漬けは、中国に出荷する前にロバの皮を加工するために行われるもので、一部の病原菌は生き残ってしまうと獣医師や保護団体は指摘しています。

 阿膠の製造工程は、ロバの皮を煮てゼラチンを抽出し、ろ過し、カットし、乾燥させ、洗浄するという多数の手順を踏む。最終的にはフェイスクリームや酒、ケーキやキャンディーなど、さまざまな製品に加工されるそうです。

 中国での旺盛な需要により、皮を煮るための大型タンクを備えた近代的な工場で、多くの皮が大量に加工されるようになったものの、その根本的な工程は、中国で何世紀にもわたって使われてきた伝統的な手法と変わりません。

 かつては大金持ちの珍味として有名だった阿膠は、現代中国のスーパーフードとして広く知られ、高麗人参や高価なお茶に匹敵する贈答品と考えられています。

 多くの阿膠製品は、アマゾンやタオバオなどの一般的なオンラインサイトで簡単に入手でき、山東クルミ阿膠ケーキや阿膠黒ゴマ団子といった商品が売られています。

 ロバは今でも、アフリカの多くの農村地域で、物資や人を運ぶ最も手ごろな手段のひとつで、過酷な条件下でも、重い荷物を積んで長距離を移動することができます。

 「アフリカの貧困層がロバを機械化された乗り物に置き換えられるのはまだだいぶ先だろうが、それよりも前に中国の阿膠需要でロバがいなくなってしまえば、アフリカの人々は貧困から脱却できないだけでなく、特に女性たちが貧困状態に戻ってしまう可能性がある」ということで、「阿膠産業が中国にロバ皮を輸入することをやめ、実験室で培養したコラーゲンなど持続可能な代替品に投資するようになることを願っている」という事です。

 長い間人間と寄り添ってきた家畜が皮を剥ぐためだけに殺されるというのは、自分もなんともやるせない気持ちになってしまいます。

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