北のりゆき

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(小説)異・世界革命Ⅱ 空港反対闘争で死んだ過激派は異世界で革命戦争を始める 05(完)

意外にも王宮貴族の反対は、全くなかった。  失脚後にレオンは、軍士官学校の校長を務めていたが、付属の軍大学校の学長でもあった。軍大学校は、教育機関であるとともに軍事技術の研究所でもある。優秀な教官や士官大学生を集めたレオンは、一年も前から領主軍との戦争の研究を行っていた。戦術や武器ばかりでなく、既に民衆軍の訓練や動員計画まで策定済みだ。  正規軍団に民衆軍を加え、数十倍の物量で騎兵隊を主力とする領主軍を圧倒する。これが基本戦略だ。王都の街区ごとの防火組織や村の自警団をそのま

    • (小説)異・世界革命Ⅱ 空港反対闘争で死んだ過激派は異世界で革命戦争を始める 04

       新国王は、王族救命の功でレオンを伯爵から公爵に陞爵させることをその場で宣言した。   レオンは、王宮の司法・行政と戦闘部隊⋯今は三百人しかいないが⋯を指揮する指揮監督権者に勅任された。王都パシテは、王宮の付属物とみなされる。なのでレオンは、王都の事実上の軍事独裁官だ。  しかし、よほどのことがなければレオンは独裁権を行使しようとはしない。シャルル一世に耳打ちして策を授け、勅令として発布させた。レオンの提言は、必ず採用されるのだから、国王を通した方が良い。独裁者となったレオ

      • (小説)異・世界革命Ⅱ 空港反対闘争で死んだ過激派は異世界で革命戦争を始める 03

         保守派貴族に反対されずに、スラム地区の環境改善策をどうやって通せばよいだろうか?  総理大臣に忖度する日本の官僚と同様だ。官僚貴族が国王にへつらうことを、この王女はよく知っていた。父王を説得できれば簡単だが、それでは娘王女の立場を利用して政治に口出ししたことになってしまう。王族の私室である内宮で「おねだり」するなど最悪だ。権力の私物化と見られても仕方がない。そもそも縁故政治を嫌う父王が、内宮での「おねだり」というだけで承認しないだろう。保守派貴族に警戒感を持たれるだけで終わ

        • (小説)異・世界革命Ⅱ 空港反対闘争で死んだ過激派は異世界で革命戦争を始める 02

           レオンなら、もし愚連隊が逃げなければ三日連続で出撃していただろう。しかし、王都の民衆を脅かしていた愚連隊は、文字通り消え失せた。賢明にも皆殺しになる前に、逃散してしまったのだ。  レオンの性格の特徴は、徹底性だ。逃げても手を緩めず敵を追いつめ、全滅させようとする。カムロのレポ隊と親衛隊騎士の遊撃部隊を王都に放ち、逃げ込んでいた貴族屋敷から愚連隊が出てくるのを待ち伏せさせた。都市ゲリラ戦の訓練と称し、愚連隊が姿を現すとレポ隊の通報を受けた遊撃部隊に襲わせ、貴族屋敷の門前でさら

        (小説)異・世界革命Ⅱ 空港反対闘争で死んだ過激派は異世界で革命戦争を始める 05(完)

        • (小説)異・世界革命Ⅱ 空港反対闘争で死んだ過激派は異世界で革命戦争を始める 04

        • (小説)異・世界革命Ⅱ 空港反対闘争で死んだ過激派は異世界で革命戦争を始める 03

        • (小説)異・世界革命Ⅱ 空港反対闘争で死んだ過激派は異世界で革命戦争を始める 02

          (小説)異・世界革命Ⅱ 空港反対闘争で死んだ過激派は異世界で革命戦争を始める 01

           まさか、あのジュスティーヌ第三王女殿下が、父王陛下に無断で結婚し帰国されるとは!  しーかーも~、新郎のレオン・ド・マルクスは、田舎男爵家の出身で無職の文無しなのだ。まったく贅沢はしないが、カネはあればあるだけ遣ってしまう男である。  王女の無断婚姻などという父王と母王妃以外は、だれも想像しなかった事態に、フランセワ王国の貴族界は騒然となった。とはいえ、バロバ大神殿長を筆頭に聖都ルーマ大神殿の高位神官の名がずらりと並んだ結婚証明書を見せられると、だれもなにも言えない。最初は

          (小説)異・世界革命Ⅱ 空港反対闘争で死んだ過激派は異世界で革命戦争を始める 01

          (小説)異・世界革命 空港反対闘争で死んだ過激派が女神と聖女になって 07(完)

           子供たちに引っぱられ、病人のいる場所に連れていかれた。死にかけた赤ん坊を抱いて泣いている母や、土木作業中に大怪我をして追い出された男らが大勢いた。病人の多くは、栄養失調からくるもので病気だけ治しても根本的な意味はなかった。それでも少しでも楽になるならばと、マリアは病者を癒した。  やがてマリアは、住人が逃げたか殺されたかして空き家になっていたスラム街の外れの少し大きな掘っ建て小屋を提供された。マリアは、それから殺されるまで七カ月間、ほとんどこの『癒しの小屋』から出ることなく

          (小説)異・世界革命 空港反対闘争で死んだ過激派が女神と聖女になって 07(完)

          (小説)異・世界革命 空港反対闘争で死んだ過激派が女神と聖女になって 06

           神殿の用意した数台の馬車に分乗し、『クラーニオの丘』に行くことになった。王女であるジュスティーヌは、王族用の王宮馬車に乗り、侍女たちに加えてレオン、ラヴィラント隊長、ジルベール君が直接護衛に同乗する。  フランセワ王国の一行三十人に合わせて、バロバら大神殿の神官たちも三十人ほどが同行した。忌み所であるクラーニオの丘に高位の神官や貴族らが六十人も訪れるなどということは、かつてないことだ。  一時間足らずでその丘に着いた。直径八百メートルくらいの巨大な饅頭か古墳に似ていた。高さ

          (小説)異・世界革命 空港反対闘争で死んだ過激派が女神と聖女になって 06

          (小説)異・世界革命 空港反対闘争で死んだ過激派が女神と聖女になって 05

           バロバ大神殿長たちの関心は、もちろん神使・レオンの方にあった。バロバは、率直な性格だった。悟りすました偽善な宗教屋には似合わない性質である。能力と共にこの性格が、女神セレン=新東嶺風の眼鏡にかない、大神殿長に任命される理由になった。 「失礼ですが、マルクス伯爵。『女神の光』をお持ちだとか?」  レオンは、「二十年経っても、こいつは変わらねえなあ」と思いつつ、 「ええ、持ってます。⋯⋯ええっと、私の部下たちを聖本堂に入れてやると約束しておりまして。許可して下さいませんか?」

          (小説)異・世界革命 空港反対闘争で死んだ過激派が女神と聖女になって 05

          (小説)異・世界革命 空港反対闘争で死んだ過激派が女神と聖女になって 04

           貴族用の宿の貴賓室でレオンとジュスティーヌは、対面して食事をとることになった。あえて護衛の騎士はつけない。見かけによらず度胸のあるジュスティーヌが、数人の騎士が護衛してもレオンをいらだたせるだけで意味は無いと判断したからだ。  ジュスティーヌ王女の後ろに、アリーヌ侍女とマリアンヌ侍女が控えている。二人は、恐ろしかった。女神様の奇跡を目のあたりにしたことが恐ろしかった。それ以上に、自分たちを斬り殺そうとし、それを止めて下さった姫様を、「人殺しがっ!」と面罵した男が涼しい顔をし

          (小説)異・世界革命 空港反対闘争で死んだ過激派が女神と聖女になって 04

          (小説)異・世界革命 空港反対闘争で死んだ過激派が女神と聖女になって 03

           国王ら王族と高位貴族を中心とした高官。それに参考人としてレオン・ド・マルクスを知る者を集め、明日の謁見にそなえた非公式の会議が開かれた。  王宮に女神セレンの関係者が滞在している⋯⋯。聖都ルーマですら、聖女マリアが昇天して以来二十年も経つ。フランセワ王国にこのような前例はなく、失態は絶対にゆるされない。女神の眷属顕現は、名誉なことだが頭も痛かった。  謁見の名目は、王族の命を救ったことへの褒賞である。褒賞金は、あまり安いとみっともない。王族の値段はそんなもんかと国民に笑われ

          (小説)異・世界革命 空港反対闘争で死んだ過激派が女神と聖女になって 03

          (小説)異・世界革命 空港反対闘争で死んだ過激派が女神と聖女になって 02

           野盗どもの死骸が転がっている丸焼け宿の現場にフランセワ王国の騎馬隊が到着したのは、昼過ぎだった。  ──────────────────  (緊急)状況報告 ラヴィラント王宮親衛隊騎馬隊隊長  少数の護衛のみで聖都ルーマ巡礼に発たれたジュスティーヌ王女殿下を心配された国王陛下の命により、ラヴィラント伯爵指揮の王宮親衛隊騎馬隊十五名が急遽出動した。  部隊が急行したところ、二日後の早朝、ルリア山道にて王女殿下御乗用の王室馬車を発見。車中に馭者の斬殺体を確認した。騎馬隊は戦闘体

          (小説)異・世界革命 空港反対闘争で死んだ過激派が女神と聖女になって 02

          (小説)異・世界革命 空港反対闘争で死んだ過激派が女神と聖女になって 01

           ー 一九七八年三月二五日 ー 『三里塚を闘う青年学生共闘』を担う最も尖鋭的な部分が、朝倉団結小屋に結集した。三十人ほどいただろうか。オレもその中のひとりだ。 「全員集まったな?」  今日まで三里塚現地に常駐して闘争を指導してきた現闘団の幹部が切り出した。 「最後の会議を始める」 「⋯⋯明日二六日からの開港阻止決戦は、組織の総力を挙げて取り組むことを政治局が決定した。我々が掲げる空港包囲・突入・占拠は、単なるスローガンではない。我々は断固として人民抑圧空港の開港を粉砕する!」

          (小説)異・世界革命 空港反対闘争で死んだ過激派が女神と聖女になって 01