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コーチ物語 クライアント21「夢を語る男」その7

「それではこれから支援会を開催します。まずは実行委員長の島原さん、ご挨拶をお願いします」
 いよいよスタートしたドリプラの支援会。今回集まったプレゼンター、そして彼らの支援者。さらに私やヒロキさんの呼びかけて集まった仲間たち。仕事のことでここに集まった彼らには迷惑はかけられない。今は目の前のドリプラをいかに成功させるか。そのことだけに力を注ごう。その決意で挨拶をさせてもらった。
「このドリプラは単なるイベントではありません。このドリプラから新たな事業が生まれ、それがさらに街を活性化させる。そして多くの人に夢を描いて進むことのすばらしさを伝える。これこそが究極の姿なのです」
 ちょっと自分の言葉に酔ってしまったかな。けれど、その思いは決して飾ったものではない。心の奥から出てきた言葉なのだ。さらに私の言葉は続く。
「まずはここに集まった方々と一緒に、このドリプラを成功させること。ドリプラは決して一人ではできません。相互に支えあい、知恵を出し合い、お互いを励まし合い。それが成功することで、この地域を支えるリーダーが生まれてきます。そう、ドリプラとはそういう大きな役割も必要とされているのです」
 みんな真剣に私の目を見てくれている。それを感じた途端、私の言葉にはさらに力が入った。
「みんなと一緒に、このドリプラを必ず成功させましょう。そして、この地から伝説を作っていこうじゃありませんか!」
 ここで大きな拍手が湧いた。うん、手応えありだ。
 ここからはヒロキさんの誘導で、一回目の支援会がスタートした。まずはプレゼンターが今思い描いている未来の姿。これを「未来トーク」という手法を使ってさらにリアルに描いていく。私も以前羽賀さんのセミナーでこの未来トークを体験したことがあるが。これはとても楽しい上に、自分が思わなかった未来を見ることができる。不思議な体験ができるものだった。
 案の定、プレゼンターのみんなは自分が思いもしなかった未来像を描くことができ、大満足で終わった。だが私から見ればその未来像はまだまだスケールが小さい。もっと大きなことを彼らにはチャレンジしてもらわなければ。そういう思いも湧いてきた。
「ヒロキさん、とりあえず成功しましたがまだまだプレゼンターには社会性が高い大きなものを描いて欲しいんですよね」
「大丈夫ですよ。次はさらにリアルに、そして徐々に高い理想を描いていけるようにプログラムしていますから」
 さすが、羽賀さんが推薦してくれたヒロキさんだけある。今は彼の言葉を信じてみよう。私は私ができる事を進めていく。ただそれだけだ。
 こうしてスタートしたドリプラ支援会。しかしその裏では事業の方も心配だ。例の会社の取引停止問題。これはまだ解決には至っていない。工場長を支援会に引きこむことはできた。だがこれからどうすればいいのか。
 そして二回目の支援会。ここで思わぬことが起きた。
「ここかね。君が見せたいというのは」
 なんと、工場長とともに現れたのは、あの親会社の担当部長の幹さん。さらにはその上の役員の内山さんまでいるではないか。これにはさすがに驚いた。
「島原さん、なにやらあなたが関わっているというイベント。これを彼が見せたいというからやってきたのだが。一体これは何かな?」
 支援会の進行はヒロキさんに任せて、私はこの来客たちの対応をすることにした。しかし、担当部長の幹さんだけでなく役員まで来るとは。この役員の内山さん、私は会うのは二回目。以前は名刺交換程度しか行なっていないのだが。
「島原さん、でしたね。なにやら面白いことをやっていると工場長から聞いたものだからね。ぜひ見学させてもらうよ」
 担当部長とは違い、この内山さんはにこやかな顔でその場を見つめている。そんな中、ヒロキさんの誘導で支援会がスタート。今回は前回見た各自の夢に支援者がダメ出しをするという、ちょっと変わった内容だ。
 ダメ出し、というのはこういうことらしい。
「そんなことじゃ多くの人が喜びませんよ。それって自己満足だけじゃないですか?」
 こんな感じで、プレゼンターの夢をさらに大きく膨らまそうというのだ。確かに前回の支援会の時に聞いた彼らの夢は、社会性と言うよりも自己満足に近いところが大きかった印象がある。それを今回は根本から打ち崩そうというのだ。一体どうなるのだろうか?
 支援会はヒロキさんの誘導で着々と進んでいく。このダメ出し、一回では終わらない。時間の許す限り、メンバーを変えて何度も行なっていくらしい。その一回目が終わった所で、内山さんがこんなことを言い出した。
「私もあの中に混じってもいいのかな?」
「え、えぇもちろんです」
 その言葉にはちょっと驚いた。だが内山さんは嬉々としてダメ出しを行う組の中に入っていくではないか。工場長も一回目は一緒に見ていたが、二回目からは輪の中に入る。
「部長、私もあの中に入ってもよろしいですか?」
「ふん、好きにするといい」
 幹さんは未だにクールな目線で場を見ている。それとは逆に内山さんは他の支援者と一緒になって場を盛り上げてくれている。さらには笑顔ながらも鋭いダメ出しを行う。女性のプレゼンターの一人は、そのダメ出しで涙を流している。だがその涙は、自分の甘さを認識し、新たな殻を破るものであることは間違いない。
 さらに三回目を行い、プレゼンターの語る夢は徐々に大きなものとなっていった。ここで私は手応えを感じた。間違いなく彼らはさらに大きな存在となってくれるはずだ。この地域のリーダーとなり、そして多くの人の幸せに貢献してくれるであろう。さすがはヒロキさんのコーチングが冴えるな。
 そして支援会は終了。最後に一人ずつ感想を述べてもらう事になった。
 感想はプレゼンターだけでなく、集まった支援者も一言ずつ述べていく。最後に内山さんがコメントすることになった。
「いやぁ、今回飛び入りで参加させてもらったが。こんなに素晴らしい人達が集まっているとは思いもしなかったよ。久々にワクワクさせてもらったね。皆さん、ありがとう」
 内山さんは大会社の役員という肩書きを捨て、みんなと同じ目線で接してくれた。その心意気に感謝だ。
 さらにその内山さんから信じられない言葉が飛び出した。
「このドリプラ、うちの会社で全面的に支援させてもらいますよ。ここに集まった方たちがリーダーになってくれれば、この地域だけじゃなく日本中が活性化することは間違いない。島原さん、こんな楽しいイベントを企画してくれてありがとう」
 ここで会場から大きな拍手が湧いた。それと同時に、私の中でも大きな何かが生まれてきた感じがする。その大きなものとは揺るぎない自信。うん、私は間違ったことはやっていない。みんなのため、そして社会のため。さらには自分のため。もっと多くの人にこのことを伝えたい。その気持でいっぱいになっていた。
「島原さん、取引の件はもう少し検討させてもらうよ」
 帰り際、内山さんはそう私に伝えて去っていった。
「よしっ!」
 私は思わず、大きな声で夜空に向かって叫んでいた。

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