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【9人目】誰でも好きになれる(22歳)

 高野さんと別れてから、すぐにマッチングアプリを始めた。シルバーアクセサリーを着けるような、お洒落な人が良かった。色々アプリを使ったけど、結局ティンダーが一番フランクな繋がりを持てて使いやすい。


 広告代理店の営業マン。中目黒で待ち合わせして、回らない寿司に連れて行かれ、チョコレート屋でお茶して、カラオケに行く。歩いて10分ぐらいの距離を全てタクシー移動した。つまらなかった。

 表参道のセレクトショップ店員。私の最寄りで待ち合わせして、飲みに出た。終電がないと言って私の家に来た。廊下の床で寝かせた。

 下北沢の珈琲店のバリスタ。彼の行きつけをはしごした。どこも個人店だった。23時30分、まだ一緒に居たいと言われたが、朝が早いからと断った。君はめんこいと言ってきたが、可愛いという言葉を使わずに態々めんこいと言う辺りが好きになれなかった

 テレビ局のプロデューサー。グルメ番組を担当しているだけあって、美味しいお店をたくさん知っていた。でも次に進むには何かが足りなくてフェードアウトした。

 東大出身クリエイティブ系のSE。自分の事を沼だと言っていた。全然タイプの顔じゃ無いし私は絶対に沼らないと思ったし、実際にそうだった。でも、永遠の友人にしたくなるぐらい表現や知識が多様で面白かった。


 結構前にもマッチングアプリを入れていたことがあった。その時に連絡先を交換したけど、結局会わなかった人が何人かいる。
 そのうちのムライさんは、偶に酔っ払って深夜2時ごろに私に電話をかけてきた。いつも無視してたけど、その日だけは電話に出た。初めての電話だったけど、話しやすかったらしく、会いたいと言われた。

 初めて会った日、なんか冴えない人だなって思った。けど、居酒屋に入ってマスクを外すと、正に生きた彫刻だった。透き通るような肌、手入れの行き届いた眉、筋の通った鼻。完璧だった。
 国立大学卒業後、某有名化粧品メーカーで研究員をしているらしい。仕事も完璧だ。

 結局、私が終電を逃してしまい、ムライさんの家に泊まることになった。ムライさんの部屋に入ると、綺麗に畳まれた部屋着がソファの上に置かれていた。きっと女性が一度着たものだろう。
 電気を消してベットに入った。ムライさんは私にキスしてきた。「キスだけでこんなに興奮したのは初めて。おかしくなりそう」と言ってそのまま続けた。その後ベットから降りて、水を飲んでいたら「付き合おっか」と言われた。


 ムライさんはお酒が好きだった。帰り道は必ず電話をかけてきた。そのうちムーちゃんと呼ぶようになった。
 クリスマスは一緒にローストビーフを作って、プレゼント交換をした。夜は友達と予定があると言った。私も着いて行ったらダメ?という問いにはノーと返してきた。その日から返事が返ってこなくなった。毎晩1人でお酒を飲むようになった。

 年が明けて、1週間ほどして振られた。私より年下の金髪の大学生に一目惚れしてしまったと言っていた。悔しかった。


 それから暫くして、またティンダーを始めた。何となくスワイプして、マッチした人とその日だけ話した。そのうちのリョウが私の家の最寄りに居るとの事で、会うことになった。

 ロン毛のリョウは、表参道の広告関係の仕事をしていた。丸メガネをかけ、前身イッセイミヤケをまとった見た目は、如何にもクリエイティブですとアピールしている様だった。お酒を飲み、シーシャを吸った。
 タクシーで家まで送ってくれると言った。タクシーの中で手を繋いだ。1人でタクシーを降りた。
 家までの途中、リョウに電話した。
「あなたの事素敵だと思ったから、家に来てとは言えなかった」
『かわいいね。今ならまだ間に合うよ』
 リョウは私と別れた所へ戻ってきた。


 その後も何度か会い、付き合うことになった。
 ある日のこと。
「もし機会があれば復縁してもいいかなって元彼いる?」と聞かれた。

『その時その時で終わらせてきてるから、そういうのは無いかな。リョウはいるの?』

「前に付き合ってた子かな。4年付き合ったんだけど、元カノが地方に行くって言って、交わる事ないから別れたんだよね。」

写真を見せてもらったが、とても綺麗な子であった。


 リョウからだんだん連絡が返ってこなくなった。毎朝ティンダーを確認した。私とリョウの距離は9kmの日もあれば、25Kmの日もあった。

 久しぶりに会おうと連絡すると、旅行に出かけてるとのこと。ティンダーを開くと私とリョウの距離は425kmだった。

 また別の日に連絡すると、出張とのこと。私とリョウの距離は425kmだった。もう会うことないんだろうなと思った。


 1人で飲んでたら、ムライさんから連絡が来た。俺も飲みたい気分だからそっちに行くよと言ってすぐに来た。お互いの恋愛に触れずにムライさんの方から1時間経過したが、今彼氏いるの?と聞いてきた。リョウと別れた気ではあったが「うん、居るんだよね」と言った。『俺もいるんだよね。でも結婚に焦ってるらしくてさ。』とムライさんは彼女の話を続けた。

 終電間際に別れて別々の電車に乗った。ムライさんが出てきて、こっちにおいでよと手を引っ張った。ムライさんの家で夜を過ごした。彼氏とどっちがいいか、なんて下手なことを聞いてきた。


 東京で仕事をこなして、偶にマッチングアプリで知り合った素敵な男子と遊んで、友達とショッピングして。そんな20代前半を過ごせれば満足だなって思った。

 私は、東京の素敵な男の子と交際出来る程器用じゃない。

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