修学旅行でクロックスがゲロックスになった話
高校教員になったばかりの頃、友達から「毎日女子高生と会えるなんて最高じゃん」と言われることが多くありました。その度におっさんたちが夢見る『女子高生』とは空想上の生き物なのだ目を覚ませ!と頬を張る毎日。『女子高生』という言葉に惑わされるな!正気を取り戻せ!と泣きながら殴ったものでした。
また逆に、「高校卒業したら『女子高生』というブランドがなくなっちゃう!」という言葉も高校生からよく聞かれます。
『女子高生』という言葉だけがブランド化し、消費されていく…。『女子高生の○○』とつけば、価値が上がるような気になるこの世界に虚しさを感じながら酒をあおる毎日。
そんな『女子高生』の話です。
僕はもともとあんまり荷物を持ちたくない派。「これが必要あれが必要」ってあれこれ考えるのが面倒なんですよ。服とかもだいたい3着ほどしか持っていなくて、いつも同じような服を着ているんです。ジョブススタイルってやつですよ、タートルネックしか着ない的な。
なので、よくそれで失敗します。毎朝何も考えずに服を着るものだからスーツを着なければならない日に普通の格好で行っちゃうなんてことは日常茶飯事。教員の契約書を書くときも筆記用具忘れていったりしました。クズですね。
この年の修学旅行のことです。
せめてものシャツと肌着と財布だけあればいいやって感じで最小の荷物で向かったわけなんですが、着いて早々「お前クロックスじゃねーか!」というお叱りで何にも考えずクロックスで来てしまったことに気付きました。
まあでも、修学旅行の主役は生徒たちですからね。教員がクロックスかどうかなんて正直どうでもいい話です。なんの問題もない、無問題です。ちょっと他の靴に比べてポコポコ穴開いてるだけのことですよ。
そうして行ったUSJ。生徒たちが思いっきりはしゃげる時間です。
教員たちも例外ではなく、パトロールがてらパーク内を周り、乗り物だって乗っちゃうわけです。ハリーポッターにも乗っちゃう。眼鏡の上に3D眼鏡かけちゃう。(今はないようですね…)
ということで、ハリーポッターのアトラクションに向かったわけなんですが、乗る前の荷物を預けるロッカー前で一人の男子生徒がずっと突っ立っているんですよ。ロッカーに入れるわけでもなく、アトラクションに向かうわけでもなく、一人佇んでいる…。
聞けば、シングルライダーでUSJを満喫しまくっていたけれど、ハリーポッターエリアでロッカーに入れたカバンから紐が垂れたままになっていて、下のロッカーの人がその紐を巻きこんだままロッカーを施錠してしまったため下の人が来ないとカバンを救出できないということでした。もうかれこれ30分ほど待っていると…。
そんな悲しい事件がありますか。
彼はこのままずっとロッカーを開けてもらえる時を待っている。ポッター的に「愛しいしと」ってやつですか、なんつってなんつって。
なんて話をしてたわけなんですけど、修学旅行シーズンなんでその間も引っ切り無しに色々な高校の生徒たちがハリーポッターエリアに来ては消えていくわけです。
そこに4人組ぐらいの女子高生グループがアトラクションを終えて帰ってきました。修学旅行という長旅、タイトな日程で疲れていたのでしょう。それに加えてハリーポッターの容赦のない空間的な攻め。彼女の体は限界を超えていました。
僕の目の前で盛大に吐いてうずくまる女子高生。
犠牲になる僕のズボンとクロックス。
一緒にいたはずの他3人の女子高生はいつの間にか消えていて、うずくまる彼女一人が取り残されていました。一応、僕も教員の端くれですから女子高生に声をかけ、一緒にいた他教員と共に同じ制服の生徒たちを捕まえ先生に連絡、スタッフに連絡、スタッフと共に掃除と鮮やかな教員ぶりを発揮しましたね。褒めて欲しい。
そろそろ終わろうかという頃には、もうその当事者の生徒もいつの間にかいなくなってたんですけどね。一言お礼ぐらいあっても良かったのでは…。まあ恥ずかしい体験ではあるから一刻も早くその空間から抜け出したいものですよね。
残されたのは裾のところが汚れたズボンと、圧倒的にゲロックスへと進化した僕のクロックス。着替えることもできず、このままでハリーポッター乗ったわ。
僕の気持ちも激萎えで全然楽しめなかったのですが、帰りのバスで自分のクラスの生徒に事の顛末を話すと生徒たちはこう言ったのでした。
「超ラッキーじゃん!女子高生のゲロなんて激レアだよ!!」
と…。
『女子高生』という言葉だけがブランド化しているこの世の中、今やゲロさえも商品価値があるのかもしれません。僕のクロックスはゲロックスになってしまったけれど、『女子高生のゲロックス』。
とんでもない価値の物を手に入れてしまったのかもしれない!
と震えましたが、どう見てもゲロはゲロなので捨てました。
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