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錆びたみなとで大声で歌おう

色褪せていく

勇気が出ない時もあり そして僕は港にいる
消えそうな綿雲の意味を考える
遠くに旅立った君の 証拠も徐々にぼやけ始めて
目を閉じてゼロから百までやり直す

写真は、Googleが撮影した、ふるさとの港だ。
私が生まれ育った町のこの港は、ごらんのとおりで、非常時のみに閉められていた鉄扉は、今はずっと閉まったままだ。

祖父も、伯父も、父も、ここに漁船を泊めていた。
祖父は本業のイカとタチウオ釣り。
伯父は祖父のおさがりで、父は伯父のおさがり。
あの当時でも、父子3隻持ちは既に珍しかった。
いや、祖父以外で「漁師」は・・・もういなかったかもしれない。

実家の私の部屋からいちばんよく見える港は、帰省のたびにセピア色になっていく。
ああ、やめてよ。あの港には、じいちゃんが、おいちゃんが、そして若い日の父がいるのに。

覚悟はとうに決まってる。だけど

「自分の親は、よその親より年寄りだ」
そんなことは7歳のときには理解できていた。
一人娘の私。本家の20歳上の従姉も一人娘で独身を通している。
「私が、この家の後始末をひとりでしなければならないんだ」
「私は、みんなより早くひとりぼっちになるんだ」
そんな覚悟は、もうずっと抱いて生きている。

なのに、父がステージⅣの胃がんと聞いたとき、そんな覚悟は瓦解した。
今すぐそばに行きたい、ケアをしたい、お父さんのそばにいたい。
だけど私はよその土地の人で、お母さんで。
父も母もそんなことはわかっていて、何も頼ってこないのも辛かった。
手術の翌日、子どもが学校に行っている間に、新幹線に飛び乗って顔を見に帰るのが精いっぱいだった。たったそれだけなのに、父も母も大喜びして、そして私の夫と子供の心配をずっとしていた。

面会をすませ、少しだけ実家に立ち寄った。
自分の部屋から見える港はもう港じゃなくなっていて、
なんだか急に父がいなくなってしまうような気がして、血が出るほど唇を噛んだ。

みんなここにいる

まさにそんなときにリリースされたのが、スピッツの新曲「みなと」だった。
カーラジオが初聴きだったが、文字どおり涙がビャッ!!!!と出てあわてて車をコンビニに停めた。

船に乗るわけじゃなく だけど僕は港にいる
知らない人だらけの隙間で立ち止まる
遠くに旅立った君に 届けたい言葉集めて
縫い合わせてできた歌ひとつ 携えて
汚れてる野良猫にも
いつしか優しくなるユニバース
黄昏にあの日二人で
眺めた謎の光思い出す
君ともう一度会うために作った歌さ
今日も歌う 錆びた港で
勇気が出ない時もあり そして僕は港にいる
消えそうな綿雲の意味を考える
遠くに旅立った君の 証拠も徐々にぼやけ始めて
目を閉じてゼロから百までやり直す
すれ違う微笑たち
己もああなれると信じてた
朝焼けがちゃちな二人を染めてた
あくびして走り出す
君ともう一度会うための大事な歌さ
今日も歌う 一人港で
汚れてる野良猫にも
いつしか優しくなるユニバース
黄昏にあの日二人で
眺めた謎の光思い出す
君ともう一度会うために作った歌さ
今日も歌う 錆びた港で

この歌の中に、私が見てきた港が残ってる。
祖父も伯父も、そして、遠からずあえなくなる日が来る父も、この歌の中にずっといる気がした。
セピア色の景色に、この歌はほんの少しだけ色をくれた。
それが嬉しくて、その日以来、この歌は私の支えだ。

君ともう一度会うための大事な歌さ

遠からぬ未来、私は、父も母も見送って、それからこの港を見る日が来る。
あのときから覚悟は決まっている。
そのときは、私も大声で歌おう。
7歳からの私ごと全部抱きしめて、一人、港で。

#私の勝負曲

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