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春。されど衣更着―― 如月とも書くそれは、陰暦二月の異称だ。春は例年通り暦の上だけで、更に着込むような寒さが続いていた。 そんな折、父が電話をかけてきた。曰く、大事な話があるとのこと。要するに、実家へ来てほしいという趣旨だった。混み合わない午後七時以降であっても、車で片道四十分ほどかかる。 「それなら明日の夜ね」 「あ、すまん。明後日にしてくれ」 「ええ?」 「陽平も来るんだ。二人に言っておく必要がある」 「あのね、私忙しいの」 「おう、それは分かっているぞ。仕事も毎
「澄田くん、ちょっといいかな?」 唐突に呼び出された僕は、その原因に頭を巡らせた。全く心当たりはなかったが、丸々とした課長の沈んだ面持ちから不吉な予感を覚えた。 まさか冬のボーナスが減らされるのか? それくらいの覚悟を持ち、手狭い会議室で相対すると、課長は伏し目がちに「プライベートなことに立ち入るようで申し訳ないのだが」と前置きをした。僕はごくっと唾を飲み、小さく頷いた。 「澄田くんは今、彼女と同棲しているんだってね」 どこから漏れたのか。僕は思わず眉間に皺を寄せ