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ボードゲームを海外で印刷して個人輸入する方法


こんにちは。タンサンというゲームの製作会社の代表で、ゲームを作っているタンサン朝戸です。
この記事は「Board Game Design Advent Calendar 2020」の16日目の記事です。

「海外でボードゲームを印刷してなるべく費用を抑えたい!」

そんな方のために、今回は「ボードゲームを海外で印刷して個人輸入する方法」と題して、ボードゲームを海外で印刷し、それを通関(税関に許可を得て出輸入すること)させるための手順について説明します。

「海外で印刷してみたいけど、通関の手続きがわからない」「たくさんのボードゲームを個人輸入してみたい」という皆さん(主に前者の方)、ぜひ参考にしてみてください。

ちなみに、僕は通関について何らかの資格を持っているわけではなく、あくまで自分の個人通関の経験に基づいてこれを書いています。2020年12月まで、大阪税関にて通関を行ってきた僕の「覚書」くらいの感じでみていただければと思います。

海外からボードゲームを輸入する3つの方法

まず前提として、海外でボードゲームを印刷した場合、おおよそ3パターンの輸入方法があります。

1.手荷物で運ぶ
2.国際宅急便で送る
3.一般貨物として船便 or 航空便を利用し「個人輸入」する


1は、直接印刷所まで取りに行き、自分の荷物として日本に持って帰る方法です。ついでに観光もできるので、コロナが落ち着いたら有りかもしれませんね。

2の国際宅急便は、いわゆるドアツードアですね。FedEx、DHLなどの宅急便屋さんが家の前まで届けてくれる楽々サービスです。通関の手続きは不要。税関が「追加で関税をこれだけ払ってください」と請求してくるくらいです。

しかし、ボードゲームなど、大量の荷物を海外から輸入するとき、国際宅急便を利用すると送料がとても高くなる場合があります。そんなとき、僕は3の「個人輸入」をよく利用しています。

3の個人輸入は、通関作業を自分で行う必要があります。通関作業をしたことがない人のために、「通関業者」という業者も存在します。お金を払って依頼すれば、自分の代わりにもろもろの作業をやってくれる楽々サービスです。

しかし、通関作業は割と簡単で、慣れれば午前中に貨物を引き上げることができます。今までタンサン(ぼくの会社)で作ったゲームは、基本的に個人通関。僕が実際に税関に行って申告し、車で倉庫から荷物を運び出す方法をとっています。

税関への輸入申告は、自分の輸入物であれば誰でも行うことができます。法人でも、業者を通さなければ個人通関となります。

今回はこの個人通関について、一般的な船便を例にして説明しましょう。最近は価格がまちまちですが、基本的に船便が安くて良いので。


海外でボードゲームを印刷する

まず、海外の印刷所を探します。印刷所によって、価格や入稿方法はさまざまです。僕は中国や台湾の印刷会社を使うことが多いです。ゲムマに海外の印刷業者さんが来ている場合もありますね。

支払いは、楽天銀行の海外送金サービスがネットで完結できて便利だと思います。送金手数料もけっこう安いです。

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印刷所に入稿データを送って支払いも済ませたら、あとは作ったボードゲームを日本に届けてもらうだけですね。

この時、最初から国際宅急便で送ってくれる印刷所も多いかもしれません。船便を使いたい場合は、あらかじめ伝えておくのが良いでしょう。


船便を使う場合、いくつか料金のバリエーションが存在します。

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黒いゲージが「あなたが印刷所に支払う金額」、オレンジのゲージが「あなたが船会社に支払う送料」です。

黒いゲージは、印刷所が運賃を支払い、印刷費に含めて請求してくれます。すなわち、どの方法をとっても負担額はだいたい同じ。

しかし、税関で申告するときにどの方法で輸入したかを記入しなければならないので、把握しておくといいでしょう。また、印刷所に見積もりを依頼する際にも、あらかじめどれを選ぶか伝えておくといいと思います。

CFRとCIFの違いは、海上保険があるかどうかです。ほかにも、それぞれの方法には「危険負担」など細かい規則が存在するので、詳しく知りたい方はご自分で調べてみてくださいね。

アジア圏からの船便ならだいたい1週間くらいで日本に届きます。


通関の事前準備 書類編

さてここからが本題、「通関」のお話です。

船便・航空便どちらでも、日本へやってきて倉庫に保管されているボードゲームを運び出すには、保管されている保税地域を管轄する税関に輸入申告を行う必要があります。輸入申告を行ったら、必要な税を納めます。消費税を支払うのもこのとき。そして搬出許可が降りれば、運び出します。これが通関作業です。

とても面倒そうな作業ですね。しかし僕は、通関は「事前準備が8割」だと思っています。事前準備さえしておけば、当日はそんなに大変ではありません。

まず、通関前に揃えておくべき書類について。

「INVOICE」「PACKING LIST」「Bill of Lading(B/L)」の3つは、荷物が到着するまでに印刷所からもらえるはずなので、必ず用意しておきましょう。

INVOICE(インボイス)は、明細書、請求書、納品書を合体させたような書類です。印刷所に払ったお金などが記載されてます。

PACKING LIST(パッキングリスト)は、発送物の梱包について説明する書類です。全体の重さや、何個セットかなどの物量が記載されています。

Bill of Lading(B/L)は、船会社が印刷所のボードゲームを受け取ったときに発行する書類です。いわゆる貨物の引換券ですね。窓口ではビーエルと呼ばれています。ボーイズラブではありません。B/Lは船会社に渡した時に発行されるものなので、印刷所からはおそらく最後に送られてきます。航空貨物の場合は「AIR WAYBILL(AWB)」となります。

また、船会社からメールまたは郵送で送られてくる書類「Arrival Notice」「Delivery Order(D/O)」も必要です。あらかじめ、どの船会社に依頼したのか印刷所に聞いておくといいでしょう。

Arrival Notice(アライバルノーティス)は、日本への到着案内です。実際に船で運んだときの海上運賃はここに記載されています。海上運賃は結構変わるので、事前に確認しておきましょう。サーチャージが色々あります。

Delivery Order(D/O)は、輸入したボードゲームが保管されている倉庫に渡す書類です。貨物の引き渡しについて、船会社からの指示が書かれています。D/Oのみ原本が必要で、それ以外の書類は印刷で構いません。しかし、最近は「D/O less」といって、原本のD/Oが必要無い場合がほとんどだと思います。事前に船会社に、D/Oが必要か、D/O lessかを確認しておくとよいでしょう。

そのほか海上での紛失に備えて海上保険をかけている場合、それら保険明細書も用意しておきます。保険をかけたい場合、印刷所に予めその趣旨を伝えておくのが良いと思います。

荷物が倉庫にあることを証明する「運搬確認書(貨物情報:ICG)」が必要になる場合もありますが、倉庫ごとに違うので、倉庫に問い合わせてみるといいでしょう。ただ、僕は今まで必要だったことは無いですね。

これらの書類を、通関前に揃えておきます。

通関の事前準備 そのほか

書類のほかにも、通関の準備はまだまだあります。

まず、船会社にいつ日本に到着して、いつデバンニング(貨物をコンテナから取り出す作業)が終わるのかを聞いておきましょう。また、どこの倉庫に保管されているのかも必ず聞いておきましょう。

保管されている倉庫がわかったら、その倉庫に「◯日にこれを引き出したい」などを事前に伝えておきます。倉庫ごとに貨物を引き出すために必要な手続きがあるからです。前日までにFAX等で搬出の連絡をしておかなければいけない場合もあるので、気をつけてくださいね。僕はFAXはコンビニから送っています。

税関では、「どんなものを輸入しようとしているのか」を聞かれるかもしれないので、当日までに自分のボードゲームがどんなものなのか説明できる用意をしておくとスムーズに手続きができると思います。僕は、データやモックを見せることが多いです。

そして、税金の支払いも必要なので、その分のお金も用意しておきます。最近、大阪税関では税金の支払い時にお釣りがでなくなっているので(ぴったり払わないといけない)、僕は電子納付をしています。ペイジー対応の銀行口座があればサクッと支払いすることができます。

念の為、身分証と印鑑も用意しておきます(僕は使ったことないです)。会社で個人通関する場合は、会社に所属していることを示すもの(社員証とか名刺)も用意します。個人の場合はマイナンバー、法人の場合は法人番号が必要です。出せる用意をしておきましょう。

また、海外の印刷会社の住所と名前を記入しなければならないので、確認しておきましょう。だいたいINVOICEに書いてあります。

国によって特恵関税(関税が安くなったりする)を受けるために原産地証明を出す場合がありますが、最近中国は特恵から卒業しました(https://www.customs.go.jp/shiryo/tokkeikanzei/graduate.htm)。卒業なんですね。なので、そんなに原産地証明の出番は少ないかも。

搬出の事前準備

通関作業の準備はここまででおしまい。しかし、まだ気を抜いてはいけません! 税関から許可をもらったら、次は倉庫。倉庫から荷物を搬出するためには、必要な道具がたくさんあります。

当日は、倉庫からパレットに乗ったボードゲームを車で運び出す必要があるので、パレットに乗ったボードゲームをドンと乗せられる車を用意しておきましょう。普通の乗用車では普通に乗らない可能性が高いです。僕はトラックなどをレンタルしていますよ。

ボードゲームを持ち帰るとき、グラグラしないよう固定用のゴムバンドなんかも必要です。特に軽トラックのように荷台がむき出しの場合は、雨対策として全体を包むためのブルーシートなども持っていっておいたほうがいいでしょう。

また、倉庫で搬出作業をする場合、服装を注意されることがあります。ちゃんとした靴(サンダルではない)とヘルメット、軍手を念の為用意しておくのも忘れないようにしましょう。

倉庫ごとに搬出時のルールがあるので、事前に電話で聞いておくと楽ですね。

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通関時にすること

さて、ボードゲームが日本の倉庫へ到着しました。倉庫に置いている期間は保管料がどんどん増えていくので、早めに取りに行きましょう。

いよいよ通関当日、 荷物を運び出せる乗り物に乗って出発です。

ちなみに、大抵の場合通関できる(税関の営業日)のは平日のみ。また、12時〜13時は税関も倉庫もお昼休みの時間なので、気をつけましょう。

上記の必要書類等を税関へ持っていき、個人通関の部署を探します。税関設備のPCでNACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)を使い、直接輸入者が必要な情報を入力すると、輸入申告をすることができます。

NACCSの使用申請書に記入して窓口に提出したら、PCを使って輸入申告です。わからないことがあったら通関の方に聞いてみましょう。丁寧に教えてくれるはずです。


輸入申告で入力する項目

さて、NACCSに必要事項を入力していきます。

Arrival Noticeにある搬入確認番号をNACCSに入力すると、自分の貨物の申告画面が出ています。すでにいくつか情報が入力されているはずです。

画面はこんな感じ。一応、情報は消しています。

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①輸入が大額なのか少額なのかについてです。201,000円を超える取引は大額になるのでだいたい大額だと思います。

②輸入者の情報を英語で入力します。

③倉庫の名前を入力します。

④印刷所の情報を英語で記入します。住所が必要なので事前に準備しておきましょう。

⑤B/L番号です。B/Lに記載があります。

⑥すでに貨物の名前が入力されているはずです。細かい部分は税関の人に聞くのが良いでしょう。

⑦最後に仕入れの形態と価格を記入します。
 画面には写っていませんが、この下に税金の納付方法を選択するところがあります。電子納付したいなら選んでおきます。

また、申告の画面には「共通部」「繰返部」の2つのタブ(⑧)があります。

繰返部には税率をきめるための「品目番号」「原産地」「数量」を入力します。数量は、個数と重量のことです。品目によって、若干単位が変わってきます。

品目番号と税率はここから調べることができます。
https://www.customs.go.jp/tariff/2020_10/deta/j_95.htm

NACCSの詳しい使い方が気になったらこちらで調べてみてください。
https://bbs.naccscenter.com/naccs/dfw/web/system/ref/sea/


品目と税率

ボードゲームは

第95類
がん具、遊戯用具及び運動用具並びにこれらの部分品及び附属品

に分類されます。


ここで、大きな問題があります。ボードゲームは、大きく「カードゲーム」と「ボードゲーム」に分けられますが、この2つ、税率が違うんです!

だいたいの印刷は中国か台湾で行うと思いますが、それらの国はWTO協定があるので

950440000  遊戯用カード  WTO協定税率 3.2%
950490010      その他のもの 2 チェスその他のテーブルゲーム用具並びにその部分品及び附属品 WTO協定税率 無税
https://www.customs.go.jp/tariff/2020_10/deta/j_95.htmより)

不思議なことに、カードゲームとボードゲームで関税が変わってくるんです。困った話です。

税関で支払う税金は関税と消費税(内国消費税と地方消費税)。印刷費+運賃(諸チャージを除く)+保険料に対してかかります。

カードゲームの場合:13.2%
ボードゲームの場合:10%

を税金として払います。

ボードゲームとカードゲームの線引については税関での判断となります。カードオンリーの場合はおそらく遊戯用カードに分類されると思いますが、厚紙やコマは含まれるゲームなら、たとえカードが入っていたとしてもボードゲームに分類できるかもしれません。カードの他にコマや厚紙などが入っているなら、「これはボードゲームです」と交渉してみるのも手だと思います。

ちなみにカードゲームの場合の数量の単位はST、ボードゲームの場合の単位はNOです。

これらをすべて入力した上で個人通関の窓口に必要書類を提出すれば、申告は終了です!

何事もなければ先ほどの税金を支払い、搬出許可がでて出庫許可書(出庫指図書)を貰えます。あとは、出庫許可書D/O(あれば)を持って倉庫へ行きましょう。


搬出

さあ搬出です。

倉庫についたら、倉庫の事務所に書類を持って向かいます。

このとき、事前に車のナンバープレートの番号を押さえておきましょう。倉庫では識別のために車種とナンバープレートの番号を提出することがあるからです。

事務所で搬出用の情報を記入したら、倉庫保管料を支払います。

その後、倉庫からどのようにして搬出をするのかの指示がもらえます。倉庫によって違いますが、だいたい車で順番待ちをすることになります。

大きなトラックに挟まれて待つことになるので結構いたたまれない気持ちになるかもしれないですが、搬出は軽トラでも問題ないので安心してください。

倉庫の人が、フォークリフトを使って荷物を車に積んでくれます。

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荷物はかなりでかいです。

このとき、税関で検査をするためにもう一度税関に戻らないといけない場合があります。検査する場合は、倉庫の梱包状態を維持したまま税関に持ち込まないといけないので、荷物を開封しないようくれぐれも気をつけてください。

検査方法は色々あるようです。いくつか無差別に箱を開けさせて確認したり、箱すべてをX線検査機にかける大変な検査もありました。車ごとX線にかける検査もあるそうです。

検査を経て、問題なければ搬出許可がおります。このとき、ボードゲームに不備があった場合は搬出許可が降りません(自分は降りなかったことはないです)。なにかあるかもしれないので、通関作業は早めの時間に税関に向かっておくのがおすすめです。

あとは、そのまま持って帰るだけです。お疲れさまでした!

個人ではきっと重すぎてトラックから降ろせないと思うので、トラック内でバラして保管場所に運び込むのがいいでしょう。パレットは産業廃棄物で捨てます。業者に電話すれば、数千円程度で捨ててくれます。

あ、もちろん輸入した大量のボードゲームを保管する場所の確保も必要です。普通に壁が埋まりますね。


さいごに

最後に、通関についての失敗話をひとつ。僕は学生のとき、中国で印刷したヒットマンガ(キャラメル箱だった時のもの)に「made in China」と書き忘れた上、大阪港じゃなくて東京港に送ってしまうというダブルミスをしたことがあります。

このときは泣く泣く、京都から東京まで大学の友達を引き連れ、車を飛ばし、made in Chinaのシールを貼りに保管倉庫に行ったことがあります。輸入した2000個(+予備)すべての商品にシールを貼りました。限られた時間に追われながら(涙) あれは大変だった……。

その失敗があったので、自分への戒めも込めて、仕事が立て込んでなければ個人通関をするようにしています。それによって節約できるお金は通関業者への支払いとトラックの手配料だけなのでそんなに大きいわけではありませんが(それでもちょっとした金額ではありますが)、経験としても面白いので、一度は挑戦してみても良いと思います。勉強になって面白いですよ。

僕は通関ついでにIKEAに寄って帰ったりしています。ホットドックが安くて好き。

あくまで個人の経験を元に書いておりますので、もし何か間違った記述がありましたら修正します、お教えいただければと思います。

ちなみに今回は印刷物を取り上げましたが、海外からのゲームの仕入れも同じような感じだと思います。

それでは皆さま、素敵な個人輸入ライフをお送りください!

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我が家のマスコット、税関のゆるきゃら「カスタム君」のぬいぐるみ。癒し。

詳しいことは税関のサイトでご確認ください。
https://www.customs.go.jp/index.htm

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