見出し画像

【素描取材#01】 荒島旅舎・桑原圭さん

昨年の夏、大野で荒島旅舎というホステルを共同経営する桑原圭さんから「荒島旅舎の絵を描いてほしい」とお話がありました。
今まではご本人からテーマをいただいていましたが、今回「桑原さんを取材して、荒島旅舎を描くために素の姿、素(もと)を知りたい」と思いました。 

【素描取材】の目的

●取材対象の人物そのままの素の姿を書き、輪郭を捉えること

●人物の素(もと)を明らかにすること
※素描とは、木炭・鉛筆などを使ってモチーフを線で描くことです。

ーよろしくお願いします。まず、これまでの経歴をお願いします。

はい。千葉の大学で建築を学んでいました。最初の就職がカーテンウォールの会社で、コンクリートの外壁設計の現場管理を1年半。元々デザインがやりたかったし建築は細かくて僕には向かなくて責任持てないなと思いました。やっぱりデザイナーかっこいいなと思って辞めたの。

そっから2年くらいは広告代理店でバイトしながら土日は図書館行ってデザインのトレースとかで勉強して、26歳のときに制作会社に入りました。大学案内と就職採用をやる会社で学生の入口と出口に関わるのが面白くて、原稿書きつつデザインしながら7年くらい経って32歳で大野に戻ってきた。その頃は福井市のイベント会社で働いてて40歳のときに独立しました。

ー大学は建築学科ということで少し意外でした。

昔からモノを作るのがわりと好きだったのかな。高校生のときにオブジェを作ったんです。大親友に彼女をとられたことがあって(笑)もう、なんとも言えない気持ちになって。この気持ちの矛先どうしよう!となったときに小さな缶間と針金でお花をワ〜ッと作った。それがけっこう良くて。後に彼は多摩美に行ったんだけど「けっこういいね」と褒めてくれて。「いいでしょ。お前のアレで作ったんだよ」って。

ー(笑)

(表現力が)爆発するときはそういう時かもしれんなあと(笑)彼と彼女はすぐ別れたんだけど、高校のとき一番仲良かったですね。大学行っても、多摩美の辺りで遊んだりして。

ーそういうことがあっても遊べるってすごいですね。

彼の価値観が面白かったから。やっぱり美術系行くって、デザインに近かったりとか。やってることがカッコいいなって思ってたし。卒制とか見てもすごいなあって。こういう世界で働きたいなって思ってたので。影響はかなり強い。今福井にいるみたいだけど全然連絡とってない。たぶん『県内某メーカー』にいて。名前で検索してみたら中国の支店にいて。このテキスタイルのデザインやってるのかなって思ったり。久々に会いたいですけどね。

ー人からの影響は大きいですか。高校から就職に至るまで。

そうですね。僕は自分から何かするっていうよりは人から。囲まれてるものから影響受けて何かするようなタイプ。初代のiMacを買ったのはスチャダラパーがきっかけで。あんまり自分の軸がないですね。自分の好きな軸で物事を選んでる。良くも悪くも自分がない。デザインするときも、自分を無くす訳じゃないけど相手の中に答えがある……うーん違うかもしれないけど。一回それで自分を出さなさすぎてすごい怒られたことがあって。

ーデザイナーだと自分を出すよりはクライアントに合わせるタイプの方が多いような気がします。

それが一番面白いですけどね。デザインは元々困り事を解決するものだって思ってるので、やりたいことをやるっていうのはまたちょっと違うのかなって。

ー桑原さんはクライアントに合わせるタイプということですね。

そうそう。楽なんでしょうねそっちの方が。あと基本的に人から嫌われたくないっていうのがありますね。あ、唯一これを書いたときは自分でしたね。

(『Neverland Diner―二度と行けないあの店で/都築響一』を本棚から取り出す)

ーええーっ都築さんの本に!すごい!なんで教えてくれなかったんですか(笑)

みんな知ってると思ってた(笑)元々都築さんが好きでメルマガも読んでて、「二度と行けないあの店で」の連載がすごい好きだったんですよ。そしたら、日下慶太さん(電通コピーライター・写真家・UFOを呼ぶ人。『迷子のコピーライター』『隙のある風景』著)が「圭くん都築さんの原稿書けへん?」って。

画像1
思い出し笑いをする桑原さん

ー突然(笑)

「えっ!マジすかーー」ってテンション上がって。で書かせてもらって。これはすっごいおもしろかったし、もう一生モンやなと。これもそうなんですけどnoteとか文章を書くようになって、初めて他者がいないかもしれないですね。自分のための表現。荒島旅舎もそうかも。旅舎の考え方っていうか、いろんな人から影響は受けてるけどちゃんと自分の考え方がある気がします。

ーそうなんですね。私も圭さんの文章めちゃくちゃ好きです。嫉妬するくらい。

ムラはありますよ。ムラムラ!

ー文章の間に挟みこまれる写真もすごくいいですよね。やっぱり文章も写真もいいと、相乗効果でより伝わる力が強くなりますね。

昔からそうなんですけど、もっとうまいなと思う人がいると悔しくなるというかね。やんなっちゃうよね。もっとうまく撮りてぇな〜とかさ。すげぇな〜とか思うとさ、まぁ比較してもしょうがないけどうまくなりたいですね。

ー続けていただきたいです!いちファンとしては。

写真もっとうまくなりたいし原稿ももっと書きたい。僕はプロではないし、noteでしか書いてないから1年間ほったらかしでルーティーンになかなかならなくて。雑感をビャーッと書いたストックはあるんですよ。それがだいたいマイナスなんですよね。違和感を感じたときに書く。負から書くことが多いんだと思います。

わりと去年はゆったりしてたんです。今の現状にそんなに疑問を持ってなくて。そのまま行けばいいと思ってると書かないのかな。コロナとかがあると、待てよそんな人が動かなくていいわけないだろって思って書いたり。去年は旅舎周辺がいい回り方をしたんだと思う。

ーマイナスなものをどうにかいいものにしようと思いますよね。なにかあると。

そうそう。吐き出すとスッキリする。昔の自分の文章読むとおもしろいなっていうのもありますね。(物事に)キレてんなぁみたいな(笑)

ー圭さんの過去のnoteでは尖った回もありましたね!
ここからはnoteのお話をしていきます。私自身は荒島旅舎がOPENに至るまでを追体験するような感覚で読ませていただきました。

ー2020年12月に生活藝人 田中さんからのご紹介で台湾のデザイン建築チームArtqpie(アキュパイ)のAJさんが来られて、大野の空き家・店舗巡りをしたそうですが、AJさんから「ここは元々なんだったの?」「どういう人が使っていたの?」という問いがあったんですよね。

そう、それが衝撃で。場所ありきなんですね台湾の考え方は。建物とか歴史とか暮らす人の存在をちゃんと考えていて、空き家を使ってもう一回人と文化を寄り戻すようなことをやってるんだと。まったく違いましたね。これまで自分が大野でやってきたことは近所の人のことなんて考えてなかった。旅舎は建物や歴史を受け継いでいるわけではないけど、昔の古いものを使ってゼロから作っている。だからアキュパイすごいなぁと。目から鱗だった。
(荒島旅舎を共同経営する建築士の川端慎哉さんが、荒島旅舎とそのお隣のモモンガコーヒーを設計されています!)

画像2
「ボールを持ってるポーズでしょ?」と桑原さん

ーよその方が、中の方に気づきをもたらすっておもしろいなと思います。

そこからこの看板も持ってきているので。商店街のものを飾るという。街のアーカイブですね。

ー初めてお話ししたときも「この棚を街のもので埋めつくしたい」とおっしゃってましたね。

それも今できてないからね、焦らずに少しずつですね。

画像4
これからも荒島旅舎のご縁にまつわるものが棚にアーカイブされていく

ーここからは微遍路についてお聞きしていきます。復路編では大野がゴール地点になりましたが、荒島旅舎を作るときも台湾と大野をつないだプロデューサーの生活藝人 田中さんを取り巻く壮大な盆踊りでした。

コラージュアーティストの大村阿呆さんがデザインを手掛けた微遍路展もこちらで開催され、ローカルラッパーTSUJIくんがテーマ曲を作り歌った微遍路音頭も話題になりました。あらためて振り返って気づいたことをお願いします。
(↓田中さんの微遍路はふーぽさんでも紹介されています)

画像9
往復約900km福井県を徒歩で縦断した”微遍路”
ゴールの大野ではたくさんの人が田中さんを出迎えた
画像7
微遍路展のパネルでは微遍路で出会った方々とのご縁を視覚化

そうそう、田中くんの微遍路のおかげでガラッと人の流れが変わってあれからいっぱい若い人も大野市外から来てくれるようになった。田中くんは以前から日本だけじゃなくアジアでも活躍していてすごいとは思ってたけど、こんなにもつながりを生むことができるのはやっぱりすごいな!と。

画像9
大野のアーティスト・わかやまもえさんの個展

わかやまもえさんのイラスト個展のときはパーソナルな部分が強くていっぱいワーッと来てくれた。子どもから大人までが楽しんでる感じはもえさんの人柄が滲み出てて良かったな……。

ゆいちゃんのときは濃い人が来てくれて、全体的に滞在時間が長かったんだけど話していると人となりがわかる。絵だけじゃなくてTSUJIくんの音楽って要素を入れているから、こちらも参加しやすい展示だったのが良かった。僕のCDを持ってきて、それにお客さんも興味を持ってくれたのがおもしろくて。音楽好きの子も来てくれたけどその後につながると良かったのかな。

ーアフターパーティーとかあると良かったかもしれないですね。

僕がCDを貸した人もね、また次に来てくれる機会があるといいよね。

ーアラレコでは私は作品を出した側なので、周りの方がどういうふうに感じてらっしゃったのかが気になっていました。

やっぱりアラレコガールの絵が良かった。大きくバーンと目を引くし、展示が終わってからもしばらく置いておいたし。旅舎の使い方としても新しい感じはありました。

画像5
1枚1枚の絵に音楽がついている視覚と聴覚の企画展『アラレコ』(荒島レコーズ)

ーうれしいです!アラレコ展示前の7月に圭さんと棚のパネルビジュアルを仮で貼ってみた日がありましたが、正直イマイチだったことが逆に良かったです(笑)

あれはあれで良かったんだけどね。それに派生して来場者の人がパネルに記念にメッセージとか書けるといいねっていうことで真っ白がいいかなと言ってて、そこからバーンと削ぎ落としたよね。旅舎に入ってきたらすぐ作品の女の子と目が合うっていうのがいいね。

画像6
とても暑い日でした

ー最初女の子が斜めを向いていたじゃないですか。あれが私にはスカしてるように見えちゃって、パッと見て単純に良くなかったので。圭さんが「隙があるといいよね」と言ってくれたので、ぜんぶ捨てて次作ることができました。

おもしろいね……おもしろい!

ーおもしろい!って書いとこう(笑)

去年12月末にもYoshijima Mizuhoさんの個展があって、あれもおもしろかった。同窓会みたいになって。年末だから同級生も帰ってきてて「久しぶり!」って言い合っていたのがすごく良かったです。毎年そういうのがいいなって。ここ貸すから同窓会しちゃえば?って。それで泊まる人もいればいいし。ふだんは東京にいて、地方に帰ってきたらそれを発表してみんなでワーッと飲んだり。

大野出身のアーティスト・Yoshijima Mizuhoさんの個展『四半世紀記念』
グラフィカルでカッコいい!桑原さん撮影の写真もカッコいい!

ーいつもはアートを見ることがない方に作品を見ていただける場になっていくとおもしろいし、目的なく立ち寄ったときも「おかえり」って言いあうような関係があるって豊かですよね。ありがとうございました!

また遊びに来てね。ありがとうございました!

 桑原さんの素(もと)
●あるものに気づく観察眼
●マイナスも受け入れる、許す、面白がる
●人間愛

今回お話を聞いて、今までなんとなく感じていた桑原さんの素がわかってきました。これをもとに『荒島旅舎の絵』の制作に取りかかります。この取材が絵にどんな効果を与えるのか私自身も楽しみです!

桑原さんは、「誰もがいられる穏やかな場所をつくりたい。最後は大野の盆踊りの大きな輪になるように」と言います。ホステルの清掃・ベッドメイキングから1日がはじまり、日中は近所の仲間や市外の人がふらっと立ち寄る。夕方はその日の宿泊者を迎え、おすすめのお店や銭湯を案内する。荒島旅舎の風景です。

いつも旅舎には”やりたい人たち”が集まってきて、やりたいことを叶える、表現する場として賑わっています。それは現在の桑原さんの在り方や人へのまなざしと、ぎゅっとつながるような気がします。荒島旅舎で集ったみんなで大きな輪になって盆踊りを踊るように楽しむ。ちょっとシャイな私でも「また来ます!」と言える荒島旅舎は、多くの人にとっても大らかで愛のある場所になりつつあります。

画像3
また来ます!
プロフィール

桑原 圭 Kuwabara  Kei
1979年 福井県大野市生まれ
2020年 東京・福井で制作会社などのデザイナーを経て荒島旅舎の共同経営者に。現在ホステル業務を行いつつデザイナー・フォトグラファーとして活躍。先日開催された微住サミットでは荒島旅舎のパネリストとして参加。

◎荒島旅舎web https://arashima-hostel.com
◎note 
https://note.com/arashima_
◎Instagram 
https://www.instagram.com/arashima_hostel/
◎Facebook https://www.facebook.com/kei.kuwabara

★隙のあるポートレイトが魅力的な桑原さんのInstagramもぜひチェックしてみてください!
https://www.instagram.com/szkuwa/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?