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沖縄料理尽くしの金沢出張で、合間を見て走る

日本海沿岸を代表する都市であり、北陸新幹線の開通により観光客が激増している石川県金沢市。シルバーウィークと呼ばれる初秋の3連休初日、ちょうど正午に私は金沢駅に降り立った。コロナ禍による旅行の自粛が解消されたこともあってか、駅前の混雑具合は観光地の本場である京都と遜色ないほどに感じられた。

さて、今回私は仕事でこの地を訪れたのだが、じつは目的地は金沢ではない。金沢市のお隣に位置する野々市市で脱サラをして沖縄料理店の事業承継をしようという方の依頼で、リニューアルオープンに関する諸々のサポートをするためにやってきたのだ。

駅までクライアントに迎えに来ていただき、車で現地まで送っていただく。しかし、その前に軽くランチでも摂ろうということになり、我々は “ 元祖金沢カレー ” を売りにしているローカルチェーン店「カレーのチャンピオン」へと向かった。

野々市市内にある中でも最も味が良いという店の前に車を横付けし、店内に突入する。

店内はまさに街場の定食屋といった感じの設えと、いい感じに年季が入ったインテリアで構成されており、客層は20〜30代の若者が多い。一番人気のメニュー「Lカツカレー」を注文すると、5分も経たずにテーブルに運ばれてきた。

銀皿の上に敷いたライスが見えなくなるほどにカレールー・千切りキャベツ・カツが載せられている。カツの上にはソースが掛けられている。そんなに厚みのあるカツではないが歯応えはしっかりとしており、コクがあり後味にやや刺激の強い辛味が残るルーはカツと相性良く絡む。合間にキャベツを食べることで口内の辛味は和らぎ、カツの重さもかんわされる。計算し尽くされたバランスで構成された一皿であった。

では、腹も満たされたところで現地へ。
幹線道路沿いにある三軒長屋のような作りの建物の一番手前側の区画に、その沖縄料理屋はあった。

琉球柄の布で作られた暖簾をくぐり、店内に入ってみる。

座敷を入れても20席もない小ぢんまりとした造り。まずは客席に腰掛けて、打ち合わせを行なった。TODOリストの作成と、SNSの情報修正やリニューアル告知など。オープン日までの段取りも確認したところで、すでに日が暮れかかっていた。
近隣の競合店の視察を兼ねてディナーを取ることにした。

車で5分ほど、大学の近くという好立地にある競合店は、沖縄出身の店主による本格的な沖縄料理が売りだった。

ポーク玉子やゴーヤチャンプルー・海ぶどうなどに舌鼓を打ち、豊富に用意された泡盛を勧められるままに堪能した。
敵は強い。しかし最近まで先代が同じ場所で営業できていたのだから大丈夫だろう。希望的観測を持って解散した。

野々市市のさらにお隣にある白山市(石川県第二の人口を誇る自治体)にある客室付きスーパー銭湯に宿泊し、翌日はいよいよメニューの試作会を行なった。

まずは、沖縄風焼きそば(ケチャップ味)から。

うーんー、これはケチャップを上から掛けるのではなく、フライパンで焼いている時に混ぜ合わせて炒めるものでは? 先代のレシピを基にしているとの話だが、個人店のためあまりしっかりとした調理手順は残っていないようだ。

それなら先代に直接聞けばいいじゃないかと思うかもしれないが、実は先代は今年の頭に癌でお亡くなりになってしまったのだ。元々は常連客で、そのうちアルバイトで店を手伝いようになった彼が、このお店をどうしても続けたいとの一心で公庫からお金を借りて物件ごと買い取ったというのが事の顛末なのだ。

なんとか彼の想いには報いなければならない。たとえ彼の調理技術が心もとなくてもだ。私は強い使命感を改めて心に刻み、次の料理に立ち向かった。

「タコライスです」 彼は誇らしげに言った。確かに実際に食べるとそのような味がする。「こないだ試作した時に、もっとレタスが多い方がいいとアドバイスを受けました!」 うむ。それにしてもレタスのカットがデカすぎないか?トマトもほとんど入ってないよ。かき混ぜて食べるものだから、バランスとかサイズとか考えよう。

そして、本日のメインディッシュ。

ソーキそば。うん、味はいいよ。ただ、スープはこの倍に薄めよう。これでは3口くらいしか飲めないな。

などなど、ひとしきりレシピの改良点をまとめた後、夕方には金沢駅に送ってもらった。

駅の切符売り場に向かう。目に入ったのは数十mにわたる行列と、掲示板に書かれた「本日の新幹線指定席はほぼ売り切れました」の文字だった。

フフッ。今日は三連休の中日だ。そんなこともあろうかと想定し、今日の宿はすでに予約済みなのだ。駅から20分ほど歩き、香林坊にあるインバウンド客向けの小綺麗なカプセルホテルにチェックインした。

荷物を解き少しゆっくりした後、軽く街を走ってからディナーを摂ろうと考え、ランニングウェアに着替えて颯爽と宿を飛び出した。

「雨」
さっきまで降っていなかったのに、すでに路面もけっこう濡れている。慣れない場所で濡れた路面を走ると転倒のリスクが高くなる。出張先で病院に運ばれるような事態は避けたいところだ。走るのは明日にして、ここはディナーを摂るのみにしよう。

近江町市場のアーケードに駆け込み、飲食店を探す。ペプシみたいなロゴの海産物屋も健在のようで嬉しい。

金沢おでんと海鮮丼が売りのお店を発見し、早速入ってみる。店内はインバウンド客と日本人の若者が半々くらいの構成で、カウンター席に空席があった。

席に付いて、まずは金沢おでんを注文した。

そんなに特徴は感じられないが、美味い。石川県産の日本酒を合わせる。カウンター席に座る他の日本人客たちも一様に日本酒を飲んでいて、お客さん同士で「この酒がうまかった」などと勧め合っている。

私も調子に乗って3合ほど飲んでしまったので、明日に備えて締めのミニ海鮮丼を注文した。

休市日だからか鮮魚の割合は低い。だがお味は問題ない。美味しくいただいた。

一夜明け、天気も回復した。宿のブレックファーストを摂る前に、金沢の街を一周することにしよう。

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まずは宿を出て右に進む。

香林坊を左手に眺めて、なおも進んで行く。時刻は8時すぎ。通勤通学の人たちで、街は賑わっている。

地場の百貨店『大和』の先、交差点をさらにまっすぐ進んで行く。

緩やかな下り道が続き、足取りも快調だ。

狭くなった歩道を慎重に進むと、片町のスクランブル交差点に突き当たった。

横断歩道を渡らずに、左に折れる。

インターロッキングされた路面を踏み締めていく。この一帯はまだお店がオープンしていないので、閑散としている。

交通量の多い通りにぶつかったところで、左に進路を変える。この通りは自転車に乗った高校生の姿が目立つ。交差点を渡り、左斜め前に伸びる道に入る。この先にある鈴木大拙記念館の敷地を突っ切る算段だ。

しかしたどり着いて分かったのだが、今日月曜日は休館日であり施設の敷地には入れなくなっていた。残念… 

気を取り直して通りに戻り、しばらく道なりに進んでいく。最初の目的地が眼前に現れた。

兼六園。といっても、中に入るわけではない。周囲をぐるりと走るのだ。3年ほど前にこの一帯を夜走る機会があり、その妖艶な佇まいにすっかり魅入られてしまったのだ。なので今回もナイトランを目論んだのだが、雨のため朝ランにリスケとなったのであった。

朝は朝でまた違う趣きがあるだろうと期待して、兼六園脇の坂を上がっていく。

雨上がりということもあってか、木々の緑も土の茶色も石垣の灰色も、生き生きとした質感を持って視覚に迫ってくる。

美術館のあたりで歩道が独立し、街路樹が両側に立ち並ぶ風景に変わるった。

夜の街灯に照らされた印象とは打って変わって、一つひとつの風景の輪郭がくっきりと現れる。夜間に感じた淫靡さとは真逆の実存的な生命力がこの時間では際立っている。

坂を上りきったところで、左に入る。

路傍に掘ってある水路を横目に、進んでいく。

道は下りに入る。交通量が増えてきた。視界に金沢の街が入ってきた。

けっこう高いところを走っているのだと実感する。

坂を下りきる。このまま進めば金沢城に至るが、今日は別のルートを進んでいくことにした。

分岐を右に折れ道なりに進み、途中でまた右に入って浅野川沿いを進んでいく。

ちょっと河川敷に降りて進んでいく。

まったく人気がなく走りやすい。

川を通り過ぎた風が涼やかで肌に気持ち良い。橋のたもとで道に戻り、橋を渡りひがし茶屋街に入る。

かつて「小京都」と呼ばれた金沢を代表する観光地だ。重要伝統的建造物群保存地区で、保存地区内の建築物140のうち約3分の2が伝統的建造物となっている。

山に向かって真っすぐに伸びている道を進んで行く。まだ眠っている街を邪魔者もなく走るのは爽快だ。

続いて角を左に入り少し進むと、茶屋街の中心地に出た。

建物は彩りを増し、柳の枝がアクセントになっている。空は晴れ、午前中の低い角度からの日差しが差して、視界は眩い。

建物は歴史があるが現在でも使われており、生活感がにじみ出ている。

路地をかいくぐり、中心地に戻っていく。

角に新しめの建物が建っているが、街並みになじむようにデザインがなされている。

ひがし茶屋街を抜け、来た道を戻り先ほどの橋に戻る。

このあたりにも歴史ある建造物が散見される。

橋まで戻り、川沿いにさらに進んで行く。

「主計町料理料亭街」。

” かつて旦那衆が人目を避けて茶屋街に通ったとされる、昼間でも薄暗い石段が続く「暗がり坂」や、(中略)「あかり坂」は、趣のある風景に出会える場所として多くの観光客が訪れます。夕暮れ時になると、芸妓が奏でる三味線と太鼓の音が聞こえてきて情緒溢れる雰囲気に包まれます。夜の街灯の明かりと、格子戸から漏れる光に浮かぶ街並みはどこか魅惑的。”

金沢旅物語

格子戸が特徴的な二階建ての建物が川沿いに並んでいる。

街灯は明治時代っぽさが感じられるガス灯チックなスタイル。そう、金沢の町並みはけっこうハイカラなのである。江戸時代以前というよりは開国後の雰囲気が残されている。かつて金沢は小京都の代表的な存在であったが、自主的に『全国京都会議』を脱退したのだった。

そろそろ腹が減ってきた。宿に戻ろう。近江町市場を突っ切って、帰路を急いだ。

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無事にブレックファーストを摂り、宿をチェックアウトした。これから金沢駅に戻って、北陸新幹線で東京に戻るのだ。

水路沿いに歩いていると、珍しい光景を見つけた。

水路沿いに建物が建っている。そこまでは気にならないのだが、入口が水路に向かって設置されており、水路に橋を架けて対岸の道路から出入りをするかたちになっている。

このスタイルは大阪の久宝寺でも見たことがあるが、水路の幅や深さはこちらの方が大きい。

水路を離れ、駅に向かって舵を切る。金沢を訪れるのは5回目だが、毎回新たな発見がある。折に触れ、再訪したい地だ。

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金沢駅で新幹線の待ち時間を使って、ランチを摂ることにした。

周囲の客(主に観光客)が海鮮丼をこぞって注文している中、私は日替わり煮魚定食をチョイスした。こちらの方が安くて内容も充実しているのだ。


東京に戻ってすぐ、地元で人気の沖縄料理店に向かった。

沖縄風焼きそばはソースベースだったが、麺とよく絡まっていて美味だった。

続いて、ゴーヤチャンプルーを注文した。

具材のバランスと色合いが絶妙で、食欲をそそるのであった。

野々市のお店でもこれくらいのクオリティの料理を提供して、前店主を心残りなく成仏させてあげたい。


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