やさいのおはなし
ここは冷蔵庫の野菜室の中です。
今日ママがスーパーマーケットに買い出しに行ったから沢山の野菜たちがぎゅうぎゅう詰めになっています。
「ねぇねぇ、あなたどこから来たの?」
大きなキャベツが聞いています。横にドスンといる大根が、
「遠く遠くの畑から来たんだよ」って言いました。
「そんなのみんな同じだよ」
袋に入ったレンコンがつぶやくように言いました。
袋がきゅっとしていてちょっと苦しそうです。
「ちょっと小さな僕だけど、袋にぎゅうぎゅう詰めにして買いやすいお値段で真ん中の棚に置かれていたらすぐにママに買ってもらえた。うれしかったなぁ」レンコンは真っ白な体の内に買われたことがほんとに嬉しかったらしくてニコニコとしています。
降れた空気やばい菌に負けないようにするためにからだに入っているものがからだを黒くする前に買われて美味しく食べられたい。そう思っていたからです。
たくさん水の入った田んぼで泥の中から掘り出された時自分が真っ白なからだであることを知って本当に嬉しかった。だからどうしても白くてきれいなからだのうちに食卓に上がりたい。そういうふうに思ったのです。
そうして人のからだの中でいいものを作って元気なその人と一緒に生きること、それが僕のお仕事だから頑張りたいと思ったのです。
「すごいね、君。優等生だね」
そう言ったのは真っ赤なトマト。
トマトの赤も人のからだで元気を創る優等生です。
だけどトマトは反抗期。
若くて青い時に収穫されて赤くなるちょっと手前で箱に入れられここに来ました。
「怖いんだ。まだ僕はよくわからないんだ。食べられてどうなるの?なくなるの?消えちゃうの?」
ちょっと震えているのを見ると勇気が出ないみたいです。
「誰にも食べてもらえなくても死ぬんだよ。腐ったりしおれたりして。だってもう茎も葉も根っこも土もないんだからね。だけど誰かに食べてもらえばその人のからだの中でなにかになってその人のいのちの中で生きることができるようになるんだよ。別の形で生きられるんだ」
そう言ったのは玉ねぎでした。
玉ねぎは日落ちがするから今話していたみんながここに来る前から野菜室にいたのです。
前にここにいたカボチャのおばあさんからその話を聞いたのだそうです。
カボチャのおばあさんは自分を収穫して倉庫に並べてくれたおばさんからその話を聞かされてから大きな車に乗せられて市場に行って、お店に並んでその後ここへ来たのだそうです。
ミンナノカラダノイチブニナル
人のからだは食べたものでできていて動くのだと。
そのために野菜を育てて食べるのだと。
野菜たちは多くの栄養を人に与えてくれるから大切にされているのだということ。
野菜室の中の野菜たちはみんなこのお話を聞いていました。
しおれたり腐ったりしてしまうよりも、美味しいうちに食べられてみんなのいのちを支えたほうがいい。
そういう思いをすることで野菜たちの心は優しくなりました。
くうくうくう、、、
眠ってしまった野菜がいます。
ナスでした。
今朝切り取られて袋に入れてそのままスーパーに置かれたナスははじめはぴきぴきに緊張していたのですが、緊張しすぎて疲れてしまって眠り込んで目が覚めません。
そのナスをねぎが優しく見つめています。
「おつかれさま」
ねぎは明日の朝たぶんお味噌汁の中に入る予定なのだろうと思いながらきっと自分と一緒に入るナスのことを思って少ししんみりとしました。
でも、シャキンとした体のままで、とんとんと小気味いい音をたてて刻まれて美味しいと言われたら嬉しいような気もします。
ピリリと絡みのある時にぐつぐつと煮込まれて美味しい美味しいって言われたら嬉しいような気もするのでした。
ジャガイモと人参はカレーに入る夢を見てコトコトと煮込まれて美味しいって言われている夢を見てやっぱりウトウト眠っています。
目を覚ます時はまだ来ないような感じです。
野菜たちは野菜室でお話したり、眠ったり、優しい夢を見たりして静かに夜を過ごしています。
ありがとうございます。 嬉しいです。 みなさまにもいいことがたくさんたくさんありますように。