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再び風の中(エピローグ)
もう一度この場所に来た。
風はいつでも吹いていて、木々は揺れ、草原もさわさわと揺れている。
頬に感じる優しい風は少しだけ甘い草の香りを含んでいて爽やかで心を優しくさせてくれる。
ここに来るのはいつぶりだろう?
もう随分長い間ここにいる。
今度ここで暮らす誰かと入れ替わるまでここは僕だけの世界だ。
風がここに来いっていうから今日はここにやって来た。
だからここで誰かが来るのを待っている
鏡の向こう側のあなた
鏡の向こうにあの人を見つけたのがいつだったのかもうわからなくなっている。
毎日会っているはずなのに心が通っているのかいないのかわからないあの人。
鏡の中のあの人は私が出会った頃のままのあの人なのだった。
今はもう会うことのないずっとずっと前のあの人。
私の主人。
でももう今はいない人。
いるけれどいない人。
消えてしまった人。
優しくて繊細でちょっと頼りなかったあの人が年月とともに
風の中(プロローグ)
「迎えに来たよ!」
「え?」
僕は初めて出会ったその子に手を引かれていきなり走り出すことになってしまった。
ほんとにいきなりでいきなりすぎてどうしようもなくて一緒に走るしかなかった。
ビュンビュンと風が吹く河川敷の横の道を僕はその子にぎゅっと手を握られてすごい速さで走ることになってしまった。
「ねぇちょっと待ってよ!」
はぁはぁと息を吐きながら僕はその子に向かって言った。
その子はそんな