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駄菓子屋をはじめることにした|みんなで営むパブリック

はじめまして。こんにちは。
一般社団法人たのしいまちのつくりかた 代表理事の村上てんゆうと申します。

約1年半前に、東京都最西端の奥多摩町へと移住してきました。豊かな自然と温かい人間関係とに囲まれたこのまちでの生活がとても気に入り、もっとまちをたのしい場所にすることに尽力したいと法人を設立しました。

奥多摩町では近所の川原でボートに乗れる

さて、法人の事業として最初に取り組むことにしたのが駄菓子屋の運営です。店舗用物件として奥多摩駅徒歩5分の一戸建てを借り、10月頭のオープンに向けて開店準備を進めています。

「駄菓子屋をはじめるって聞いたけど大丈夫?」

噂を聞いて、心配の声をかけてくださる方もいます。

実際に統計を見ると、1972年に約13万軒あった菓子小売業は2016年には約1万軒まで減少しています。社会全体として子どもの数も減少している中で新たに駄菓子屋を開業するのは、合理的とは言えません。

本記事では、そうした中で奥多摩町に駄菓子屋をはじめることを決めた理由について、書いていきます。



ほしい公共空間は自分でつくる

「マイパブリック」にわくわくする

皆さんは「マイパブリック」という考え方をご存知でしょうか。

これは「私的な力で公共をつくってしまおう」というもの。公共と聞くと、行政の持つ空間が一般的だと思いますが、そうでないものもあるんです。

この数年間、僕は「自身の公共性を高める」ことを意識して生活してきました。具体的には、地域の情報を発信したり、地域性の高い私物を身に付けたり、ときには焚き火会やリバークリーン、コーヒーイベントを開催するなど。なぜそんなことに積極的かというと、たのしいからに他なりません。

ある日、奥多摩町は白丸にある「しろまるカフェ」を訪れて店主と雑談していた際、「これ、好きかもしれませんよ」と貸していただいたのが「マイパブリックとグランドレベル ─今日からはじめるまちづくり」(田中元子)という本でした。

この本の中で著者は「欲しい『公共』は、マイパブリックの精神で自分でつくっちゃおう。」と、自宅で無料のBARを開催したり、まちなかに無料のコーヒースタンド屋台を出したり、私設公民館としてランドリー併設のカフェを出店したことについて書かれています。

規模こそ違えど、著者の言動や行動に親近感を覚えました。
そして、僕だったらどんな「マイパブリック」をつくるだろうと考えはじめたら、わくわくが止まらなくなりました。


「関わりしろ」がほしい

「どんなパブリックがほしいだろう…。」

自身の移住生活を振り返ると、最初に思いついたのはもっと「関わりしろ」がほしかったということ。「関わりしろ」というのは、個人が地域とに関わることのできる余白を指します。

移住前後、「もっとまちのことを知りたい」「地域に関わってみたい」と、積極的に町内のイベントやお店を回っていましたが、結局誰とも交流の糸口を見つけられず、不発に終わるようなことが多々ありました。

一方で、奥多摩町には週末になると町外から遊びに来て、地域を盛り立ててくださる関係人口の方がたくさんいらっしゃいます。こうした方々は、独自に地域との「関わりしろ」を見つけることで、地域を十二分に満喫しているように感じます。

実際に、僕自身も「関わりしろ」として、焚き火会なるイベントを開催してきましたが、これをきっかけに奥多摩まで遊びに来てくれて、「奥多摩っていいところだね」と感想をくれた友人もいました。

「関わりしろ」の有無は、町外にまちのファンをつくることにも直結するようです。人口減少が進む地域だからこそ必要な要素ともいえるでしょう。

これからつくる「マイパブリック」では、そんな「関わりしろ」を積極的につくっていきたいと思います。


「やわらかい公共」がほしい

「地域を盛り上げたい」
「地域で何かに挑戦したい」

そう思って何かしらの活動をはじめようとするとき、行政とのやりとりでつまずくことが度々あります。

実際に僕自身が地域活動をするにあたって、行政との調整で苦悶した例を挙げてみましょう。

  • イベント開催時に公共施設は利用できるが、収益を出すのはNG

  • イベント開催時に公共施設のキッチンは使用してよいが、不特定多数の方への飲食物提供はNG

  • 駅前に空間はあるものの、特定の個人の出店・イベント開催はNG

  • アルコールを扱わないイベントであっても、未成年の酒類提供飲食店への立ち入りはNG

  • 地域活動を金銭的に支援する制度はあるが、個人での申請はNG

行政は規則や公益性、リスク回避などを重んじるため、なかなか住民の想いに柔軟な対応を示してはくれません。

結局僕は、奥多摩に移住して1年間で町の特産品開発・販売、地域の魅力を生かしたワークショップの設計・開催などをしましたが、これは人脈を頼りに商品を置かせてもらったり、会場を借りたりして実現したものでした。

本当は公共のスペースで商品販売やワークショップ開催ができたらスムーズでしたが、思うように利用できる公共空間はありませんでした。

今後も「地域で何かしてみたい」と考えるひとは現れると思います。そうしたひとが、僕同様に人脈形成から取り組むのは、骨が折れるかもしれません。

だったら、僕が「マイパブリック」の精神で、チャレンジを応援する「やわらかい公共」をつくればいいんだと閃きました。


地域の子どもと接する中で感じたこと

まちなかにワクワクできる居場所はあるのか

奥多摩町内には2つの小学校があり、両校合わせて約140人の児童がいます。僕は小学生の放課後支援に携わっていることから、地域の子どもたちと遊んだり、雑談をしたりする機会がよくあります。

日常の何気ない会話で

「週末は何をするの?」

と尋ねると、

「家族で青梅の焼肉に行く!」
「車であきる野のイオンに行く!」

などなど、
彼・彼女らはよく、家族と町外に遊びにいくことを嬉しそうに話してくれます。

実際問題、子どもの移動手段は親の車に依存していることが多く、町内にも子どものお小遣いで利用できるような商店・飲食店はほとんどありません。かと言って、大自然は子どもだけで遊ぶには危険が多いため、自然あそびに興じることもできません。

彼・彼女らにとって、日々の居場所は家と学校くらいしかないように見て取れます。


地域の子どもの意見表明権に対する危機感

また、町内の子どもの置かれる状況に関して、別視点でも気になることがありました。

令和5年4月から施行されている「こども基本法」の基本理念では、子どもの意見表明・社会的活動への参画に関する記述があります。

③全てのこどもについて、年齢及び発達の程度に応じ、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会・多様な社会的活動に参画する機会が確保されること

こども基本法

世の中的にも子どもの意見表明というものに関心が高まるなか、令和6年の町議会の一般質問内で「町内での子ども議会の再開は難しい」というやりとりがされていました。
もう少し詳しく述べると、平成21年から平成30年まで開催されていた子ども議会(子どもたちが町に意見を届ける機会)が、コロナ等を理由に一時中止となり、今後も学校や役場職員の負担を理由に止む無く再開できないという話でした。

その代わりとして、町長や教育長が学校現場を訪問し、児童・生徒と給食時間などを使って対話する機会を設けていくのだとか。

これを知ったとき、奥多摩町の子どもの意見表明権に危機感を覚えました。どれだけの子どもが、自分の日々感じているモヤモヤした疑問や悩みを、ちょっとした会話の中で丁寧に言語化できるのでしょうか。

実際問題、子どもたちに理想のまちについて聞いてみると、ひとっとびに「スタバがほしい」などと表現することがあります。よくよく噛み砕いて聞いてみると、これは「地域に安心できる居場所がほしい」「自習できる空間がほしい」というような想いであることがわかります。

僕自身、とある自治体で子どもの意見表明や社会的活動を半年間かけて支援するプログラムに参画していますが、子どもが自らの意見を言語化するためには、大人たちの手助けが必要です。

だからこそ、昨今ではこうしたプロセスにちゃんと予算を付け、ファシリテーターをいれて、子どもの意見を政策に反映しようという自治体が増えています。学校や町の職員が多忙でも、予算を付ければできないことではありません。

子どもたちの権利を守るためにも、この状況を静観するわけにいかないと想うようになりました。


まずは「サード・プレイス」づくりから

大人にとっては自宅と職場、子どもにとっては自宅と学校。
このいずれでもない「第三の場(サード・プレイス)」の存在が、人生の幸福感には重要という話は周知の事実だと思います。

「サード・プレイス」での交流を通じて様々な価値観に触れたり、自身を理解してもらったり、新しい体験をしたり、未来の可能性が広がっていくからなのでしょう。

実際に内閣府が実施した調査では「サード・プレイス」の数が多いほど、幸福感や自己肯定感が高まるだけでなく、チャレンジ精神や将来への希望までも高まることが明らかになっています。

内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査」 (令和4年度)

子どもの意見表明には、自らが「地域(社会)を変えたい」というチャレンジ精神が重要となってきます。また、地域の活性化に直結するからこそ、大人の皆さん(町民・関係人口ともに)にもどんどんチャレンジをたのしんでもらいたいです。

だからこそ、まずは「サード・プレイス」づくりから始めるべきだと感じました。

大人の「サード・プレイス」としてはカフェやBARなどの飲食店が一般的ですが、子どもは金銭的にもそうした場への出入りが難しい立場にあります。

安価で安心してこられるシンボル性こそが、子ども~大人までみんなが来られる場づくりには必要ではないでしょうか。


コンセプトは「みんなで営むパブリック」

要点を整理すると、以下のようにまとめられます。

  1. 欲しい公共は自分でつくる(マイパブリックの精神)

  2. 地域との接点づくり(関わりしろ)

  3. チャレンジできる場づくり(やわらかい公共)

  4. 子ども~大人まで、みんなが来られる居場所づくり(サード・プレイス)

この4つを丹念に混ぜ、どろどろに溶かして、再構築したのが、10月にオープン予定の「ニュー駄菓子屋 サンマ」というお店です。

お店のコンセプトは「みんなで営むパブリック」と定めました。

…ここまでとても長くなりましたが、現状はこうした堅苦しい能書きはさて置き、キャッチーな部分だけを抽出して「駄菓子屋をはじめる」と各種SNSでPRすることにしています。

興味を持っていただけたら、ぜひフォローよろしくお願いいたします。(instaやFacebookもあります)



さて、コンセプトの説明だけで、4,000字のボリュームになってしまいました。本当はまだまだ言いたりないこともありますが、一旦このあたりで。

「みんなで営むパブリック」がコンセプトって、一体何をするお店なの?
と疑問をお持ちの方もいらっしゃると思いますので、次回は「ニュー駄菓子屋 サンマ」というお店の構想について紹介したいと思います。

開店したら、ぜひ遊びに来てください!!

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