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シールとスクレーパーの午後

午後の仕事は、単純なはずのシール剥がし。しかし、その作業は意外なドラマを生み出す。苛立ちと皮肉が交錯する中、私はガラス越しに自分を見つめ直す。


「では、午後の打ち合わせを終わりにします。あっ、それから社長の指示です。表のガラスに貼ってある案内のシールを剥がしておいてください。鈴木さんと田中さん、二人で一緒にやるようにとのことです。では、午後からもよろしくお願いします。」とリーダーの佐藤さんが締める。

そして、チラリと私の顔を見る。「いいですか、二人でやらせてくださいね、夕力ハシさん」と目が語る。どうせ手伝わないと終わらないけど、と心の中で反論する私。

鈴木さんと田中さんの反応は微妙だった。鈴木さんはすぐに本来の仕事に戻り、田中さんも特に協力しようとしない。午後の始業のベルが鳴り、鈴木さんが脚立を持ち出してガラスの前に向かう。それを見た佐藤さんが声をかける。

「鈴木さん、二人でやってくださいと言いましたよね。田中さんはどうしたの?」

「田中さんは戻りましたよ。本来の仕事に」と、鈴木さんは語気を強めて反論する。

「社長の指示なんですよ、二人でやるようにって!」と佐藤さんも譲らない。

そんなやり取りを遠巻きに見ながら、私はため息をつく。「まためんどくさいことになったな。」結局、スクレーパーを手にして鈴木さんのもとへ向かう。

ガラス面に向かい、鈴木さんがガリガリとスクレーパーを走らせている。その段取りの悪さに私は腹を立て始める。まず、脚立が低すぎる。一番上のシールを剥がすには脚立の頂点まで登らなければならないし、それは安全上の問題だ。さらに、剥がしたシールを無造作に地面に落とす鈴木さん。歩道に面した場所で、これは後で掃除が面倒になる。

(やれやれ、こんなバディを与えてくれた神に感謝しないわけにはいかないな。)私は皮肉を込めて考えながら、事務所に戻り大きな脚立とビニール袋を持ってきた。

鈴木さんの脚立を片付け、大きい脚立をセットすると、彼が再び作業を始める。ガリガリ、ガリガリとスクレーパーを走らせる手元に私は苛立ちを隠せない。効率が悪く、見ているだけでストレスが溜まる。

長年風雨にさらされたシールは頑固だ。鈴木さんの手元を見つめながら、私は苛立ちを抱え続ける。彼が無駄に力を入れている姿に、私の中で冷たい怒りが募る。やがて我慢が限界に達し、彼を脚立から下ろした。

さて、脚立の上の人となった私はポケットからスクレーパーを取り出し、ガリガリと剥がし始める。私の頭の中は、どうやったら効率よく綺麗に剥がせるかでいっぱいだ。

1/4ほど終わらせると、再び鈴木さんが脚立に登った。私はため息をつきながら、彼の作業を見守る。

そして全体の水拭きとから拭きが終わった。時計の針は14時30分を指そうとしている。ちょうど田中さんから電話が入り、二人掛かりで扱わないといけない製品が工場からできあがったと連絡が入った。

それを潮に鈴木・夕力ハシ組は解散となる。鈴木さんを本来の仕事に向かわせ、歩道で佇む脚立をたたみ事務所へ戻った。

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