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富山県初のオルタナティブスクール「自由学舎 EUREKA」のこれまでとこれから。

「オルタナティブスクールが、もっと当たり前な選択肢になってほしい」

そう語るのは、2023年4月に開校した富山県で初のオルタナティブスクール「自由学舎EUREKA(エウレカ)」代表の永谷真弓さん。子どもたちに自分らしく生きていってほしいという思いから、子どもが主役の場をつくってきました。

2021年5月に学校設立を目指したプロジェクトを立ち上げた後、約2年後には学校設立を達成。どんな思いで、どんなプロセスを踏んでEUREKAをつくってこられたのでしょうか。永谷さんに話を聞きました。

理想の小学校がないなら、自分でつくる

—— はじめに、学校をつくろうと思った経緯を教えてください。

思い返してみると、両親が教育関係者だったことは関係しているなと思います。父は教員で、母は教員免許を持っていて支援級での補助経験があったり自宅でも学習塾や英会話教室を開いていたりしたんです。

父は包み隠さず仕事の話をするような人だったので、小さい頃から知らず知らずのうちに教育に対して問題意識を持つようになりました。でも、父から教育現場のネガティブな話も聞いていたので、「先生にだけは絶対なりたくない」と思っていたんです。それで、20代は教育とは関係のない業界にいました。

でも、30代になって一人目の子どもを妊娠したことをきっかけに学校をつくりたいと思うように。「自分の子どもがこれからどういう道を歩んでいくんだろう」と考えたときに、私が子どもの頃と教育の問題がそれほど変わっていないように感じたんです。むしろいろんな管理がされるようになって、昔以上にがんじがらめな状態になっているんじゃないかと思いました。

ただ、一人目の子どもだったこともあって、「いま学校づくりを始めると、自分の子どもが間違いなく寂しい思いをする」と思って。それで、学校をつくりたい思いはあったものの、その夢は一旦諦めたんです。でも、その後いろんな出来事が重なってその思いが再燃することに。

ひとつは、娘と同じ森のようちえんに通う保護者の方が「こういう小学校があれば良いのに」とお話しされているのを聞いたこと。富山県は割と未就学の子どもたちの学び場は選択肢が豊富なんですが、小中学校の選択肢が公立か国立の附属か1校の私立しかない状態だったんですよね。

さらに、一人目の子どもを産んだ後に始めた英会話教室で、ある子が「学校っておもしろくないよね」と言っていたこと。周りの子も「そんなの当たり前でしょ」と話をしていたんです。その言葉に結構ショックを受けたんですよね。

加えて、コロナ禍がやって来て、子どもたちが楽しいと感じる給食の時間も黙食になったり、休み時間も短くなったり。「娘が幼稚園を卒園した後、このまま公立でいいの?この状況をなんとかしたい!」と思いました。

当時は、二人目の子どもを妊娠中だった頃。保護者の声と子どもたちの声とコロナ禍と、いろんな出来事が数年でどんどん重なって起爆剤になって、学校をつくりたい思いが再燃したんです。それで、学校をつくることに決めました。

立ち上げで大切にしたのは、みんなでつくること

—— 学校をつくろうと決めてから、具体的にどのように動いていったのですか?

まず、起業している友人に相談したんです。「学校をつくりたいと思うんだけど、どう思う?」って。そうしたら彼が「面白いんじゃない?」と言ってくれたんです。その一言がすごく背中を押してくれて。

教育関係者でも保護者でもない、全く違う業界で活動する彼が「面白い」と言ってくれたことで、まずは学校をつくりたいと思っていることを発信してみようと思いました。

それで、2021年5月に小学校設立を目標にした「Toyama Happy School Project」を立ち上げました。目指したのは、子どももスタッフも家族も地域の方も「みんながハッピーを感じることのできる学校」をつくること

Toyama Happy School Projectを立ち上げるにあたって、最初にどういう学校をつくりたいかをまとめた企画書をつくりました。そして、自分の思いやプロジェクトの概要を話すオンライン説明会をまずは開いたんです。ありがたいことに、この説明会でたくさんの方々につながっていただきました。

同時に、新たに会員制度も立ち上げて、月1000円で学校づくりに参加できたり無料でメルマガを読めたりする仕組みをつくっていきました。多いときは毎日のように会員さまと集まってどういう学校にしたら良いか話し合っていました。EUREKAという名前も会員のみなさまと候補を出し合って決めて。今も40名ほどの会員さまが、私たちの活動を寄付で応援してくださっています。

加えて、学校法人化に向けても動いていきました。富山は地方なこともあり、まだまだ閉鎖的なところがあって、学校法人でないと家族から信頼を得にくい面もあるんです。毎日EUREKAに通ってくれていても、民間運営だと「結局学校には行ってないんでしょう」と思われる方もいらっしゃるだろうな、と。

それで、かなり初期の段階で、県庁の担当課に学校法人化への申請について問い合わせました。門前払いではなくむしろ協力的に担当者の方も動いてくださって、「申請には財団法人になってもらった方が良い」と言われました。それで、2021年9月に「一般財団法人とやまハッピースクール設立準備財団」を設立しました。現在は民間の立場でEUREKAを運営していますが、今も学校法人化を見据えて活動を続けています

学校法人化に向けた動きの他にも、学校をつくるためには大人のマインドセットを変えることが不可欠というところから、プロジェクト立ち上げ当初から積極的に大人向けの会を開いていました。大人の学び場として、教育ドキュメンタリー映画の上映会を開催して、お互いの思いを話し合う時間をつくったり、識者の方を招いて子どもとの関わり方や言葉かけを考える講演会を開催したり。

取材はたまたまハロウィンイベントの日。スタッフも子どもたちも、みんなで仮装

また、学校立ち上げまでに、子どもたちを対象にしたイベントも行いました。テーマにしたのは、衣食住やお金、性など、生きていくうえで大切なこと。例えば、「毎日食べているご飯はどうやってできているか?」というところから、全8回で種まきから田植え・肥料まき、脱穀をして食べるところまでを体験してもらうプログラムを届けました。

並行して、学校の場所探しも行いました。最初は賃貸で良い物件があったのですが、途中で契約内容の変更を求められたこともあり、子どもたちのことを考えて最終的には物件を購入することに。融資も使いつつ、開校直前の2023年3月いっぱいまでクラウドファンディングに挑戦。最終的に、350万以上の資金を集めることができました。

加えて、地域の方の理解を得るために、住民説明会も開きました。でも、「民間運営の学校を選んで来る子はとんでもない子なのでは…」というマイナスのイメージが強かったようで、地元の方の理解を得ることが本当に難しくて、「正直うちの近くに来てほしくない」と言われたことも。

日々の挨拶であったりやりとりを重ねて、最近は「子どもの声が聞こえるのがいいわ」と言ってくださる方も出てきて、すごく嬉しいですね。そんないろんな準備を経て、2023年4月に富山県初のオルタナティブスクール「自由学舎 EUREKA」を開校することができました。

校舎である家の裏には広い庭があり、稲や野菜、果樹なども育っている

—— 児童や職員はどのように募集されたのですか?

会員さんに告知をするところから始めました。SNSでも児童募集の発信をしたり、イベントのチラシに学校開校のお知らせを載せたり。市役所の中に無料で各学校にチラシを出せる棚があるのですが、市や教育委員会の後援を得ると使用することができるため、それを活用しました。富山市と近郊の市の幼保こども園と小学生全員にチラシが行き渡るようにしました。

職員はSNSやホームページで募集しています。幼稚園や保育園で働いていた職員もいれば、公立の小学校で働いていたものの「何かが違う」と疑問を抱き、退職して来てくださった方、高校で働きながら来てくださっている方もいます。また、「我が子には公立の小学校は合っていないのでは」「別の選択肢はないのだろうか」という思いを持っていた方も職員として関わってくれています。

子どもが「主役」の学びを

—— EUREKAではどのような教育を実践されていますか?

子どもたちには自分で考えて未来を切り開き、自分らしく生きる力を身につけてほしいと思っています。それで、子どもたちが主役の教育を大切にしています。

主に行っているのは、アートプログラムやプロジェクト、テーマ学習、基礎学習です。数値評価は行わず、異年齢学級で対話を大切にした授業をしています。アートの授業では音楽やダンス、創作活動や身体活動などに触れられる時間をつくっています。アートは子どもたちの感性を育み、子どもたちの人生に大きな影響を与えるものなので、すごく重要だと思っています。感性は子どもたちがこれからの時代を進んでいくときの鍵になるだろうな、と。

ハロウィンで、「天井におばけがいるよ!」と遊ぶ子どもたち

プロジェクトは自分の興味関心を深堀りしていく時間です。自ら興味を持って学習を進めていくことで、生きた知識やスキルを身につけてほしいと思っています。テーマ学習は、防災やお祭りなど決められたテーマをチームで探究し、まとめたり発表したりする時間です。本やインターネットを活用するだけではなく、できるだけ本物に触れられる機会をつくっています。

基礎学習では、自由進度学習とみんなで学ぶ時間を組み合わせたハイブリッド学習をしています。学問本来の面白さや楽しさに触れられるように授業をつくっています。「せかいのことば」という授業では、国際交流を交えながら、子どもたちがさまざまな国の言語や文化に触れられる機会をつくっています。いろんな国の歌を歌ったり映像を見たり。将来子どもたちには世界中の人とのコミュニケーションを楽しめるようになってほしいなと思っています。

他にも、食にこだわっており、給食は厳選した食材や無添加の調味料などを用いて調理スタッフがつくっています。子どもたちが、季節のものを使った温かい料理を食べられるようにしていますし、一緒に調理することもあります。

—— EUREKAにはどんな子どもたちが通っているのですか?

「我が子にEUREKAの教育を受けさせたい」と言ってくださった方もいますし、元々不登校だった子や発達障がいのある子もいます。「富山にはないから、県外に行ってでも特別な教育をしてくれる学校を探したい」と思っていたという親御さんもいて、EUREKAができたことを喜んでくださったみたいです。

2023年4月にEUREKAを開校してから、子どもたちが変化していっているのを感じます。不登校だった子は不登校じゃなくなっていますし、みんな自分の意見を言えるようになってきているんですよね。

入学当初は言いたいことがあってもスタッフに小声で耳打ちをしていた子が、今は友だちに反対意見を伝えられるようになっていたり。「EUREKAだとちゃんと話を聞いてくれるから、安心して自分の考えを言える」と言ってくれています。

オルタナティブスクールという選択肢が当たり前の未来へ

—— 運営上、工夫していることはありますか?

公立の学校や市の教育委員会とは、密に連絡を取るようにしています。関係を閉ざさないようにしたいなという思いがあるんですよね。なんなら今後は交流ができたら面白いなとも思っています。

民間運営のオルタナティブスクールって、どうしてもまだ公立と比較して敵対視されることがあると思うんです。でも、そこの垣根をもっと壊したいなと思っています。今EUREKAは民間運営ですが、ゆくゆくは学校法人化を見据えていますし、3年以内には中学部もつくりたいですね。

—— 最後に、これから日本の教育がどう変わっていったらいいと思うか教えてください。

今、各地で毎年のようにオルタナティブスクールができて周知が進んできている一方で、どこか特別な学校としてオルタナティブスクールが浮いてしまっている現状もあるのかなと思います。

でもそうじゃなくて、オルタナティブスクールへの進学を考えるときに、もっと当たり前な選択肢になってほしいです。「来年どこの学校に行くの?」と子どもたちが話したときに、自然に「オルタナティブスクールもあるよね」という話が出るようになってほしいですね。

—— 永谷さん、今日はありがとうございました!これからの活動も応援しています。

(文:田中美奈、写真・編集:田村真菜

(一財)とやまハッピースクール(自由学舎 EUREKA)公式サイト
※2024年春入学を希望する子どもたちの見学を受け付けています

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