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福岡の「CAN!P」が仕掛ける、学童での探究型の学びへのチャレンジ

2022年度から高校で「総合的な探究の時間」が始まり、ますます注目を集めている「探究」。実践に向けてもっと探究について学びたい。教え方だけではなく、探究を体感してみたい。そんな方々も多いのではないでしょうか。

今回ご紹介するのは、福岡県福岡市を拠点に、探究をテーマにした民間学童保育や野外体験をベースにしたイベントを行っているCAN!P(キャンプ)。元々基礎学力養成中心の学童を運営していましたが、子どもたちがよりいきいきする探究型の学び場へ事業を転換。1996年に開校した神戸市の探究型マイクロスクール「ラーンネット・グローバルスクール」が提供する「探究ナビ講座」が、大きく方針を変える際に役立ったと言います。

どのように探究的な学び場をつくってきたのでしょうか。CAN!P代表の粕谷直洋さんと、学童保育等のスクール事業責任者を務める森本直樹さんにお話を聞きました。聞き手は「ラーンネット・グローバルスクール」代表の炭谷俊樹です。

すべての子どもに「驚きやワクワク」の体験を

—— はじめに、CAN!Pでどのような教育を実践されているか教えてください。

粕谷:子どもたちには自分で何かを創り出す人生を、将来送ってほしいと思っています。僕らの使命は、自分で考えて選択し、決定できる人を育てることです。そのために、あらゆる変化に対応しながら学び続けることのできる「自立した学習者」、課題を発見したうえで好奇心を持って行動できる「熱中する探究者」、お互いに助け合う「思いやりある協働者」を育てる活動をしていますね。

使命を達成するために、3つの事業を展開しています。一つ目は、小学1年生から3年生が対象の生きる力を育む民間学童保育「きりんアフタースクール」。二つ目は、小学4年生から6年生が対象の探究学習型スクール「CAN!Pラボ」。三つ目は、夏休みや週末に家庭ではできないようなキャンプなどの面白い体験を提供する「CAN!Pアドベンチャー」です。

2016年からアフタースクールを続ける中でわかったことがあります。それは、「できた!」「やった!」「うれしい!」「ええ!?」といった、達成感や喜び、驚きの体験が子どもたちを成長させるということ。だからこそ、僕らはすべての子どもたちに「!」な体験を届けていきたいです。そんな驚きやワクワクの体験で溢れている日々を、未来を担う子どもたちには送ってほしいですね。

—— 子どもたちの心が動く体験を届けることを大切にされているのですね。特に印象に残っている探究型の活動はありますか。

森本:最近子どもたちが一番夢中になっていたのは、竹を使った昔遊びです。「これまで一度もノコギリ使ったことがない」という子もいましたが、実際にノコギリを使って竹を切ることができたんです。他にも、鉈で竹を割ったり、ナイフで竹の形を整えてお箸をつくったり、竹ぽっくりをつくって遊んだり。生き生きとした子どもたちのたちの姿が印象的でした。

目を輝かせている子どもたちを見れたのは嬉しかったですね。竹の硬さや匂い、切り屑の感触を直接感じて、五感を使う時間になったと思います。自分でゼロから物をつくれたという体験が、少しでも子どもたちの中に残ってくれていたらと思います。

子どもたちの背中を押せる存在になりたい

—— 前も民間の教育事業で働かれていたと思いますが、教育系に就職したのはどういうきっかけですか?

森本:前はKUMONで働いていました。元々学校の先生に興味があったんですけど、義務教育という制約の中で子どもたちに関わっていく限界を感じて。学校以外の選択肢があるんじゃないかと思って、KUMONに就職しました。

教育業界に就職したのは、僕自身がこれまでいろんな大人に背中を押してもらったからですね。たくさんの大人から影響を受けて育ちました。次は僕が子どもたちにとってそんな存在になれたらいいな、と。それで、人に関わることのできる教育の仕事を始めました。

—— 大手で安定されていたと思いますが、そこから、ベンチャーであるCAN!Pに来られたのは、どういった理由でしょうか。

森本:KUMONは全国転勤のある仕事だったんです。妻は私の転勤先について来てくれました。でも、その都度住む場所が変わるので、なかなか現地のコミュニティに馴染めなくて。長男が2歳半のときに発達障害の診断を受けて、妻が子育てに悩むこともあったんですね。それで、直感的に「このままの働き方ではまずい」と思うようになりました。

「とにかく環境を変えないといけない」と当時は焦る気持ちも強かったですね。それで、一番長く子育てをしていた佐賀に移住することを決めました。そんなときに、元々KUMONの同期だった粕谷が、たまたま僕のSNSの投稿へ「今福岡でこんな仕事をしている」とコメントをくれたんです。そこから、CAN!Pで働くことを決めました。

——実際に現場で働いてみて、どうですか?

森本:KUMONでは直接子どもたちと接することがない仕事をすることもありました。でも、今は毎日子どもたちと顔を合わせて、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら働いています。子どもたちと関わる中で悩みも喜びもあって、前職時代とはかなり違う感覚ですね。

それと、教育という言葉の捉え方がものすごく広がりました。KUMONでは読み書き計算の分野から教育に関わっていましたが、今はより幅広い内容を扱うようになりましたね。以前はここまで教育を幅広く捉えるようになるとは想像もしていなかったです。

探究型の学びに価値を感じて、学童の方向性を変えた

—— CAN!Pは、立ち上げ当初は探究型の学びを打ち出していなかったそうですね。どのような経緯があって今のスタイルにたどり着いたのでしょうか。

粕谷:設立当初は探究系のプログラムはやっていませんでした。元々、学力を身につけることに主眼を置いた学童を展開してきたんです。でも、生活の場である放課後に子どもたちと接する中で、学力をつける目的だけではうまくいかない場面が出てきたんですよね。

端的に言うと、目の前の子どもたちが疲弊してしまったんです。放課後って勉強するだけじゃないですよね。自由に遊ぶ時間もあれば、おやつを食べる時間もあるわけです。子どもたちの様子を目の当たりにしたとき、このままじゃまずいなと思いました。

他にも、探究型の学びに舵を切った理由があって。僕の個人的な願いとして、将来子どもたちには起業してほしいという思いがあるんです。そんな思いを抱く中で、PBLが有効な学習法ということを知って、「探究」という言葉も耳にするようになったんです。

それと、探究型の学びを実践したときの子どもたちの生き生きした表情にびっくりしたことも、今のスタイルに関係しています。これまでは夏休みのキャンプなど、オプションのプログラムとして探究型の学びを提供してきたのですが、そこでの子どもたちの変化がすごく大きかったんです。それで、体験しながら学ぶことの価値を実感しました。いろんな背景があって、今のスタイルにたどり着きましたね。

—— 保護者の方からは、探究型の学びについてどんな反応をもらっていますか。

森本:「魅力的に感じている」という声が最近増えてきましたね。実力の分かりやすさという観点から考えると、学力はすごく結果が見えやすいんですよね。点数で子どもたちの成長がわかるので。

だからこそ、学力をつけることを大切にしたいと考える保護者の方もいらっしゃいますが、探究型の学びを実践すると子どもたちの反応が全然違うんです。最近は子どもたちが生き生きしていることが保護者の方に浸透してきて、むしろ「探究型のプログラムを受けさせたい」という声が聞かれるようになってきていますね。

全社員がラーンネットの探究ナビ講座を受講

—— 学童のスタイルを変えるヒントになったのが、ラーンネット・グローバルスクールの探究ナビ講座だそうですね。

粕谷:現場で課題を感じていた頃に、インターネットで「探究」と検索して見つけたのが、探究ナビ講座でした。

今は経営に従事していますが、僕は元々現場で働いていました。僕のような経営者の方も探究ナビ講座は受けた方が良いですね。探究をテーマにした学び場をつくるときに一番大事なことって、大人自身が探究を体感していることだと思うんです。言葉で探究にまつわる理論を説明できるだけでは不十分で、どれだけ探究の温度感を経験した瞬間を持っているかが、極めて重要だと思っています。

実際に講座で探究について学んで、すごく感動しました。でも、この気持ちが高まった状態って、いくら言葉を尽くして説明してもメンバーには伝わらないんですよね。僕は同じ時間に同じ講座を受けることがすごく大事だと思っていて、その後全社員に講座を受けてもらうことを決めました。受講後は、全社員で振り返りもしましたね。

—— 森本さんは現場の責任者を務められています。組織に関わる複数のメンバーが一緒に学ぶことで、現場に良い影響はあったと思いますか。

森本:そうですね。同じ講座を受けて共通言語を持っているのは、チームをつくっていくうえですごく大きなことだと思っています。今は社員以外のスタッフに講座で学んだことを伝える研修を準備しているところです。

講座を受けて驚いたのが、教育関係者だけでなく保護者の方も講座を受けていたこと。今後は保護者の方とも知識を共有している状況を僕らもつくっていきたいですね。

—— 保護者の方とともに子どもたちに向き合っていくのは大事なことですよね。ラーンネットでは保護者の方にも講座を受講してもらっています。子どもの成長を見守るうえで、保護者の方と共通言語を持っているのは大きいですよね。

探究型の学びに変え、子どもたちに大きな変化が

—— 学童の方向性を変えた中で、大切にしていることはありますか。

森本:探究的なプログラムはもちろんなのですが、基礎学力をつけることも僕らは重視しています。両輪を大切にしているイメージですね。学童で宿題を終わらせることは徹底していますし、算数や国語のオリジナルのカリキュラムもつくっています。基礎学力というベースをつくったうえに、探究的なカリキュラムをプラスしていくイメージですね。

粕谷:だからと言って、基礎学力と探究的な学びを完全に切り分けているわけではなくて。基礎学力をつけるための学びが、探究の土台になると思っているんです。だからこそ、僕たちは基礎学習に子どもたちの好奇心が爆発する「探究サイクル」を取り入れています。 

—— 「探究サイクル」で一番大事なのは、自由選択ですよね。好きなことや興味があること、課題と感じることから、学習内容を自分で選んでいく。そうすると、子どもたちは自然に集中して、とことん目の前の学習に取り組んでいきます。その結果、子どもたちは達成感を覚える。それで、「もっともっと学びたい!」と探究サイクルが回っていくんですよね。

粕谷:そうですね。子どもたちには「このプリントをやりなさい」と声をかけるのではなくて、「今週はどれくらい勉強を進めたら良いと思う?」「どんなふうに勉強できたら良いと思う?」と問いながら、学習課題を一緒に考えていくことを大切にしています。そうすることで、結果的に学力もついていくんですよね。

森本:探究サイクルを取り入れたことで、子どもたちが変化してきています。1週間の見通しを立てられる子が増えてきていますね。学習量を自分で調整できるようになってきているんです。子どもたちには自分で調整する力を身につけてほしいので、「今週はどう学んでいく?」「今日はどうしようと思ってる?」と対話することを大切にしていますね。

これからも探究的な学び場をつくっていく

—— 最後に、これから挑戦したいことを教えてください。

粕谷:CAN!Pでは学童のほかに、今年度からは新しく探究型スクールのCAN!Pラボ、野外体験をベースにした面白い体験を提供する「CAN!Pアドベンチャー」を始めました。まずは、福岡でしっかり基盤をつくりたいですね。最終的には、九州の各県にCAN!Pのような拠点をつくれたら面白いなと思っています。どんどん子どもたちの可能性を引き出していきたいですね。将来的には、全日制のスクールもつくりたいです。

僕個人としては、福岡の教育を一緒に盛り上げてくれる方々とつながっていきたいです。それは、僕の人生のミッションの一つが、地方の教育における選択肢を増やしていくことだからです。僕は宮城県仙台市出身なのですが、選択肢の少なさを感じてきました。学校の先生や教育委員会の方々など、いろんな立場の人たちと関わっていきたいですね。福岡の教育をみんなでより良くしていきたいです。

森本:僕自身が探究的な学びへの実践や知識がまだまだ足りないと思っているので、現場でどんどん実践を踏みながらスキルを高めていきたいです。それと、保護者の方との関わりを増やしていきたいですね。僕らのように家の外から子どもたちを応援する大人と保護者の方が、子どもたちへの関わり方や考え方を一致させることが大事だと思っているんです。保護者の方にも僕らが大事にしている考え方を知ってもらって、子育ての応援をしていけたら嬉しいですね。

—— 今日はありがとうございました!これからの活動も応援しています。

\探究ナビ講座のサイトがオープンしました!/





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