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大自然の中で夢中を見つけ、とことん取り組む。ラーンネット・グローバルスクールの1日に密着

豊かな自然に囲まれて、自分の好きなことに没頭する。

神戸六甲山の山頂近くに、そんな環境が整ったスクールがあります。「ラーンネット・グローバルスクール」は1996年にスタートし、今年で開校26周年を迎える探究型のスクールです。校舎の敷地は、約600坪。ここで、小学校1年生から6年生までの子ども達が学んでいます。

新年度を迎えて3ヶ月がたった7月上旬、スクールに通う低学年の1日に密着させてもらいました。1日の流れとともに、子ども達の様子やナビゲータ(子どもの学びをサポートするスタッフ)の関わり方をご紹介します。大自然の中に溢れる子ども達のエネルギーを、本記事を読みながら感じていただければと思います。

ラーンネット小学部「フルスクール」の1日

校舎は六甲山。自然の中で、日本語に浸る

8:00

朝8時を過ぎると、「岡本わくわくハウス」に子ども達が集まってきます。玄関には必ずナビゲータが1人いて、子ども達一人ひとりと会話をしながら健康観察をしていきます。

ラーンネットでは、子どもの学習を支援する大人を「先生」ではなく、「ナビゲータ」と呼んでいます。ナビゲータの役割は、子どもを信頼し、良いところを見つけること。そして、子どもとともに学び、成長すること。時には自らお手本を見せながら、自然や人との出会いの機会をつくります。

8:30

子ども達46人、全員が揃いました。スクールバスに揺られながら、片道40分ほどかけて「六甲山のびのびロッジ」へと向かいます。

「日本語」の学習に力を入れているので、毎日必ず「聞く」「話す」「読む」「書く」時間を設けています。行き帰りの移動中は、「聞く」時間。低学年が乗る車内では童話などのお話や言葉遊びが流れ、子ども達はその音声に耳を傾けます。

ある1年生の男の子の手には、カマキリが入ったプラスチックの箱が。どうやら家から持ってきたようで、周囲の子に見せたりと大盛り上がり。その様子を見かねた2年生の女の子が座席の後ろからトントンと肩を叩き、「静かにしてね」とそっと伝えます。

9:20

「六甲山のびのびロッジ」に到着。

1年生8人、2年生8人が1つの教室に集まり、朝の会がはじまります。前に立つのは、日直の男の子。みんなへの連絡がある人は、挙手をして発表します。

真っ先に手を挙げたのは、捕まえた虫がバスの中でいなくなってしまったと言う子。ホワイトボードに絵を描いて、「こんな虫を見つけたら教えてください!」とみんなに伝えます。

その後、日直が1日の流れを読み上げ、みんなでスケジュールを確認します。ラーンネットでは低学年(1、2年生)、中学年(3、4年生)、高学年(5、6年生)の3クラスに分かれ、ほとんどの授業で2学年が一緒に学びます。2学年が一緒に学ぶことで、年齢が上の子どもはリーダーの役割を担い、それが自立心を育むことに繋がるのです。

1コマ目が始まるまでの5分間は「読む」時間。朝の会が終わると、自然とそれぞれが本を手にとって読み始めます。そのまま教室の中で読む子もいれば、中央のホールに移動して読む子も。


子どもが夢中になれる環境を整える。そして、待つ

9:35

1、2コマ目は「アート」の時間。六甲山のびのびロッジの一番広いホールに集まり、子ども達は椅子に座ります。

この日に取り組んだのは、音楽劇「カエルの詩の物語」のためのカエルのお面作りと蝶ネクタイづくり。よく見ると、布を針と糸で縫いながらお面を作る子や、水玉のビニールにお面を貼り付ける子も。アートは、自己表現をする時間。みんなで同じものを作ることに縛られず、自分を表現します。

大切なのは、学ぶ楽しみをたっぷりと味わうこと。ラーンネットは、子どもの意志に関係なく学習に取り組ませることはありません。

中には、じっとして1つのことに取り組むことが難しい子もちらほら。友達の様子を見に行ったり、自分で作ったもので遊んでみたり、しばらくはホール内をウロウロと動き回ります。

ふと気がつくと、さっきまで落ち着きなく動き回っていた子たちも、それぞれ真剣に作る姿が。

「座って!とか、はよやって!とかくどくど言ってもダメ。側に寄って行って、友達が作っているのをじっくり見たり、真似しながら一緒に作ってみたりと、手や足を動かす時間が必要なんです。それが、自分の探究活動の準備でもある。しばらくしたら、歩き回っていた子も自分の作品作りに集中し始めます」と話すのはナビゲータのいっしーさん。

走り回る子ども達に、「ほら、見てみ。針を使ってる子がいるやろう。その周りで走ってたらどうなる?!」「あかん!やめてくれる?!」ときっぱりと伝えます。

自分の好きなことに取り組むことは、自分勝手に過ごして良いという意味ではありません。ナビゲータは一人ひとりをよく観察し、それぞれの好奇心や探究心を引き出すよう心掛けています。

11:00 

片付け終えた子から、中休みの時間。そのまま夢中で工作を続ける子もいれば、一目散に外へ出る子も。


3年生からの基礎学習は自分で計画を立て、自分で取り組む

11:20

3コマ目は「日本語」の時間。担当するのは、ナビゲータ歴6年のばけいさん。1、2年生が一つの教室に集まり、七夕物語の動画を視聴します。(この日は七夕の前日でした)

動画を見終えると、ばけいさんがお手本を見せながら、紙に四角と丸を順に、線同士が重ならないよう描くことを伝えます。1年生は前日にひらがなの学習を終えたばかり。運筆の練習です。できたら色を塗って、完成。まるでアート作品のような仕上がりです。

ラーンネットでは、基礎的な学力を身につけることも大切にしています。そのため、全学年を通して、「日本語」「算数」「英語」「音楽」「体育」「アート」の授業が時間割に入っています。

特徴的なのは、3〜6年生の時間割に毎日入っている「マイスタディ」の時間。子ども達は、どのテキストを使い、どのように学習を進めるのかを自分で考え、週間学習計画を立てます。定期的に振り返りをし、ときにはナビゲータと相談しながら、自分にあった学び方やペースを模索していきます。

1、2年生の間は、学習習慣をつけるためにナビゲータが毎日の宿題を出しますが、これも3年生からはなくなります。自ら計画を立てることで、自宅でどのような学習をする必要があるのかを自分で決めていきます。

12:00

昼休み。昼食は、どこで食べてもOKです。室内で食べる子もいれば、外のデッキで食べる子もいます。

食べ終えたあとは、外のアスレチックで遊んだり、ピアノを弾いたり。それぞれが自由に過ごします。

子ども達が「楽しい!」と感じられるような学びを

12:50

4コマ目は、「英語」の時間。ばけいさんがアルファベットのプリントを配ると、子ども達はすぐに取りかかります。プリントを終えたら、英語カルタゲーム。ばけいさんが読み上げた英文が書かれているカードを素早くタッチします。

しばらく遊ぶと、「外に出よう!」と声をかけるばけいさん。子ども達は一目散に外へダッシュ。ほんの3秒ほどで、全員が教室からいなくなりました。

外に出ると、ばけいさんは「“投げる”って、英語でなんて言う?」「“取る”は?」と子ども達に問いかけながらキャッチボールを始めます。子ども達は周辺を走り回りながらも、ボールを投げながら「Throw!(投げる)」と発音します。

10分ほどしてから教室に戻り、英語カルタゲームを再開。

「様子を見ていて集中できていないなぁと感じたら、外に出て身体を動かすようにしています」と話す、ばけいさん。そのときの状況に応じて、授業のスタイルを変えていきます。

13:30

掃除は、1年生から6年生全員で行います。1つの場所を異学年で一緒に掃除をするため、3年生が1年生に掃除の仕方を教える場面も。

「『ラーンネットって大家族みたいだよね』と、よく言われるんです」そう話すのは、ラーンネットに通う子どもの保護者であり、ナビゲータでもあるまっきーさん。いろんな学年の子ども同士が教えたり教えてもらったりしながら、ここで育っていきます。


自分の好奇心に従って、とことん取り組む!

13:50

5コマ目は、「テーマ学習」の時間。テーマ学習では、ナビゲータが選んだテーマに沿って、調べる、実験する、作る、話し合う、考える、まとめるといった活動をします。(例:水辺の自然、光と影、大むかしなど)

低学年の1学期後半のテーマは、「チャレンジ」。ただ好きなことをやるだけの時間ではなく、それぞれがチャレンジしたいことを決めて、目標を設定して取り組みます。

縄跳びに挑戦する子。
折り紙を使って多面体づくりに挑戦する子。
木工の作品づくりに挑戦する子。

それぞれが夢中で取り組みます。ただ、自分が何に取り組みたいのか、すぐに決められない子もいるのではないでしょうか。

「個人でのチャレンジを決める前に、みんなでいろんなことをやりました。ぐりとぐらの物語に出てくるようなカステラを外で焼いてみたり、マラソンをしてみたり、シャボン玉を作ったり、音楽に触れたり、折り紙をやったり。その経験を通して、それぞれがやりたいことを決めていったんです。それが、このテーマのねらいです」といっしーさん。

最終的に何をするかは、子ども達が自分で決める。そこに、ナビゲータが一緒に伴走します。子ども達の好奇心や探究心を、決して妨げない。ラーンネットにはそんな環境が整っているのです。

14:40

最後は、終わりの会。「書く」時間でもあります。連絡帳を取り出し、明日の持ち物や宿題を書き写します。

午前中のアートの時間に作った七夕飾り。休み時間にもずっと作り続けていた子ども達がいたようで、最後はなんと廊下を超える長さに。

15:00

「岡本わくわくハウス」に戻るスクールバスが出発。今日1日たくさん動いたからか、すぐに眠ってしまう子もいます。到着したらバスを降りて、それぞれ自宅に帰ります。

ナビゲータへのインタビュー

低学年を担当しているナビゲータの石川朋子さん(いっしー)、藤原真季さん(まっきー)、大場径さん(ばけい)に子ども達の変化や大切にしていることを伺いました。

教える、教わる体験が、子どもを成長させる

ーー 2年生にとっては、今年度から初めて年下の学年との関わりがスタートしましたね。4月からの数ヶ月間で、どのような変化が見られましたか?

いっしー:最初は1年生に対して偉そうにしすぎてしまう場面もありましたが、徐々にリーダーらしい振る舞いに変化していると思います。ロッジの庭を駆け回って大胆な遊びをする2年生がいるんですが、1年生の中には、その子に憧れてついて行く子がいます。それが自信にもつながっているようで、「自分がしっかりしよう」という気持ちが芽生えてきています。

まっきー:2年生は、「とにかく面倒を見たい!」という気持ちがあるようです。2年生同士では喧嘩するけど、1年生には優しい声かけをしたり(笑)そんな関わりができるんだなと驚くこともありますね。

ばけい:上級生の様子を見ているし、自分たちも過去に同じようにしてもらった経験があるからでしょうね。一方で、今の2年生は入学したときからずっとマスクを着用する生活が続いているので、コミュニケーションの難しさを感じていると思います。

学ぶ意欲を高めるための学習評価

ーー ラーンネットではペーパーテストがなく、点数による学習評価を行わないところも特徴の1つですよね。通知表は、どのように作成しているのでしょうか?

ばけい:通知表のことは、「アセスメント」と言っています。それぞれの良かったところや頑張ったところを、科目ごとに文章で書いて、学期の終わりに渡すんです。例えば、日本語の授業だったら「字を書くことを楽しんでいた」「書いた文章を見せに来てくれた」など、できる限り具体的なエピソードを交えて書くようにしています。

いっしー:各学期の最後にアセスメントをお渡しするときには保護者の方に来てもらい、代表の炭谷を交えて面談をします。そこでは、子ども達の日常の様子を中心にお伝えしています。

ーー 子ども自身が本来持っている力を最大限引き出せるように、学習評価も工夫されているんですね。保護者とナビゲータの関わりは、どのくらいありますか?

まっきー:毎日のコミュニケーションは連絡帳ですね。毎回ではないですが、連絡帳で文章のやりとりをすることはあります。子ども達が日々の取り組みを発表する「探究シェアリング」が年5回あって、そこには保護者の方も来られます。この2年間はオンラインで開催することが多かったのですが、今年度に入ってからは対面で開催することが増えてきました。探究シェアリングのあとは保護者会があるのでそこで、学年ごとや全体で話をします。

保護者とナビゲータ、ともに子どもの成長を見守る

ーー まっきーさんのお子さんはラーンネットに通われているので、ナビゲータであり保護者でもありますよね。保護者同士の交流は、どれくらいあるのでしょうか?

まっきー:保護者同士のメーリングリストがあって、そこで誰かが企画を提案することがありますね。この前は「須磨海岸に行って潮干狩りをしませんか?」というお誘いがありました。コロナ禍でこの2年間はそういった交流はあまりなくなってしまったのですが、「また以前のように集まりたいね」という声が出ています。

「親子で受けられる性教育の講座がありますよ」という情報が回ってきたこともありました。教育に対して受け身ではなく、自分達で探しに行って、良いものがあったらみんなにシェアしたいと思ってくれている方が多いような気がします。

ーー 最後に、入学を検討している保護者の方へメッセージをお願いします。

いっしー:いろんな子どもがいていいし、経験を重ねながら成長してもらえたらいいと思っています。友達と喧嘩することも、悪いことではありません。喧嘩をするからこそ友達の想いに気づき、理解しようとする。だから、仲良くなっていけるんです。子ども達の成長には、時間が必要なんです。それを一緒に見守っていただけたらと思います。

ばけい:大人の方が、心に余裕を持っておくことが大切なんですよね。失敗も成功も見ておいて、「よかったね」「失敗したね」と落ち着いて関われるような状態でいれば、子ども達は安心して成長していけます。大人って、どうしても先に手を出してしまったり、あれこれ口を出してしまう。僕もそうなんだけど、そこをぐっと抑えるんです。「緊張感を持って見守る」ってのが、大人の務めなんじゃないでしょうか。

ーー いっしーさん、ばけいさん、まっきーさん、ありがとうございました!

<スクールの基本情報>
・開校曜日:月〜金曜日(1,2年生のみ月曜日はお休み)
・開校時間:8:30〜15:40
・昼食:持参
・長期休暇:春休み3/18~4/7、夏休み7/16~8/31、冬休み12/17~1/9(2022年度)
・卒業後の進路:1名がラーンネットエッジへ、2名が私立中学校へ、2名が公立中学校へ(2021年度卒業生5名)
・入学説明会:8月28日(日) 13:00~15:00 申し込みフォーム
・見学会日程:9月6日(火)、10月4日(火)、11月15日(火)申し込みフォーム
・応募期間:9月1日(木)〜9日(金)正午必着
・選考:9月24日(土)、9月25日(日)※いずれか1日
・選考結果のご連絡(郵送):10月7日(金)
・ホームページ:http://www.l-net.com/fullschool/
・Instagram:https://www.instagram.com/learnnet_global_school/
・Facebook:https://www.facebook.com/Learnnet.Global.School/

< カリキュラム >
基礎学力を身につける「ベーシック学習」の他に、探究力を伸ばす「テーマ学習」「プロジェクト学習」「とことんやろう!」の3つが含まれています。

・テーマ学習:ナビゲータが選んだテーマに沿って、調べる、実験する、作る、話し合う、考える、まとめるといった活動をします。(例:水辺の自然、光と影、大むかしなど)

・プロジェクト学習:自分が興味を持ったことに取り組みます。自分で内容を決め、「調べる」「まとめる」「発表する」というプロセスを通して、問題解決能力を身につけます。

・とことんやろう!:子どもたちが興味のあることにとことん打ち込む時間です。目標を立て、それに向かってとことん取り組みます。



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