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重量挙げにボディビルトレーニングは必要か?

2020年にドケルバン病という手首の怪我をしたとき、重量挙げの動作が一切できなかったので、まるまる半年間、ボディビルトレーニングだけをした期間がありました。

重量挙げのトレーニングでは、スクワットやデッドリフトなど多関節運動を使って高重量を持ち上げられる筋肉の使い方を鍛えるもの(神経系の強化など)と、スナッチやハイプルなど試技の動きの一部を使ってバーベルを早く持ち上げる技術を鍛えるもの(パワー発揮能力の強化)、この2つがあります。

「高重量を持ち上げられる筋肉の使い方」「バーベルを早く持ち上げる技術」———この両方があってはじめて、重たいバーベルをできる限り高速で引き上げ、その下に潜り込むという競技動作を最大効率で行えるようになります。

しかし、意外に思われるかもしれませんが、伝統的なウエイトリフティングのトレーニングでは、筋肥大をはかり地力を上げる、いわゆるボディビルトレーニングと呼ばれるもの(レッグエクステンションやレッグカールなど単関節運動)をすることはじつはほとんどありません。

適正階級の考え方と除脂肪体重

その理由はいくつかあります。一番大きいのは、日本で多数派を占める軽中量級のトップ選手では、除脂肪体重がそもそも階級体重のギリギリにある場合が多く(ギリギリに到達するスピードが早く)、本格的に筋肥大をはかる必要がないケースが多いことです。

冒頭で書いた2つのトレーニングをするだけで、必要な筋肉が自然につきます。

自分はオリンピックや世界選手権に出場しているトップ選手の平均身長を参考に適正階級を設定しています。

適正階級という考え方では、身長178cmの僕は身長が低いので超級ではなく、もうひとつかもうふたつ、下の階級が向いていることになります。

逆に、身長の高い人が適正階級よりも下の階級でやる場合、除脂肪体重を階級体重のギリギリまで持っていったとしても、骨格の重量が他の選手(身長の低い選手)よりも重く、さらに骨の長さがある場合がほとんどなので、他の選手よりも筋断面積が劣る(筋力が低い)可能性が高いです。

身長の低い人が適正階級よりも上の階級でやる場合、もし除脂肪体重を階級体重のギリギリ(超級は階級体重以上)にもっていけるのであれば不利になることはないので、無理とは言い切れないと考えています。

トップ選手と同等の数値に持って来られるならば、ということですが。

僕の除脂肪体重は従来100kg前後?あり、超級で戦うベースラインは越えていません。でも、除脂肪体重を重くできるほど、勝てる確率が上がるので階級体重(109kg)を越す事を目標にしています。

ですから、手首の怪我をチャンスととらえて、それまであまり取り組んでこなかったボディビルトレーニングに取り組むことで、筋肥大をはかり、除脂肪体重をどこまで重くできるか挑戦しました。

ボディビルトレーニングを実践してみた

もともと僕は、ボディビルが好きで、小さい頃から祖父の部屋にあった月刊ボディビルをみては、登場するバルクモンスターに憧れていました。

半年間の間、ウエイトリフティングを止め、全身を分割法でトレーニングし、集中的にバルクアップをはかりました。

課題であった上半身の筋肉量は格段に増え、全体的に厚みが増しました。

もちろん、ボディビルトレーニングで筋肥大して地力が上がった(筋断面積増加に伴う筋力増加)からといって、競技であげられる重量がすぐに増えたわけではありません。重量挙げでは、増やした筋肉で高重量を持ち上げる練習(神経系の強化)をしなければなりませんし、そのうえで、持ち上げるスピードを早める練習(パワー発揮の強化)をしなければいけないからです。

でも、手応えとして、従来よりも短期間で、伸びが出るようになったと思いました。

スナッチでは188kgから190kg、クリーンアンドジャークでは231kgが235kg(ストラップ)と記録が伸びました。

でもここまでは予想通りの効果でした。

予想外だったのは、フォームが変わっていったことです。

スクワットが大腿四頭筋からハムと臀部を使うフォームへ

目立つものでいうと、スクワットのフォームを修正できました。

僕は大腿四頭筋の発達が強く、もともとスクワットは大腿四頭筋を使うフォームでした。しかし、単関節種目重視のボディビルトレーニングをしたことで、今まで弱点だったハムや臀部、広背筋などが発達し、スクワットがハムや臀部の筋肉を使うフォームになりました。

じつは以前から重量挙げでは四頭筋の関与がそこまで多くなくていいと思っていて、ハムや臀部をどうしたら動かせるようになるか悩んでいました。ですから、怪我の功名といえる変化でした。

背中の筋肉を鍛えられた背景には、大胸筋や二頭筋のトレーニングをしたこともあります。

重量挙げでは、そもそも競技の動作で大胸筋や二頭筋をあまり使いません。それに加えて、この部位を鍛え過ぎると、可動域が狭くなり、競技に支障をきたします。ですから、大胸筋や二頭筋は鍛えなくていい部位、鍛えてはいけない部位と言われてきました。

たしかに可動域で問題が出るケースはあります。でも、それはものすごくやり過ぎた場合であって、ほとんどの場合、その心配は要らないのではと考えていました。

僕自身、二頭筋が弱いことで、背中の筋肉を上手に鍛えられていませんでした。背中に刺激を入れるときは、二頭筋を収縮させないといけません。またアライメントを整えるといった意味でも、拮抗筋である大胸筋をバランス良く鍛えることが結果的に背部の強化につながりました。

半年間のボディビルトレーニングを通して、弱点部位の強化と、あまり競技特異的ではない筋肉(二頭筋、大胸筋)を鍛えられたからこそ、背中が強くなり、これまでとは違う筋肉の使い方ができるようになりました。

弱点部位と競技特異的ではない筋肉を強化することによって競技特異的な部位を発達させることがあると思いました。

とくに重量級の選手には有効ではないか

長く不可能だったフォームの修正ができたのは、ボディビルトレーニングによって、自分が得意とする筋肉ではなく、弱点だった筋肉を鍛えることで、多関節運動を行うときの筋肉の使い方に、大きなポテンシャルが生まれたからです。

多関節運動では、一つの動作に対して、複数の筋肉へ神経刺激を伝えるわけですが、競技を続ける中で、いつも決まった筋肉群だけが優位となり、筋力の伸び代が固定化されがちです。

そうした中で、単関節運動の筋肥大トレーニングとしてのボディビルトレーニングを行うことで、マンネリ化した神経系がリセットされ、新しい筋肉のオーガナイズを行う余地ができるのだと思います。

ボディビルトレーニングは、除脂肪体重を増加させ、筋肥大により地力のアップ(体作り)をはかれる点と、競技の特異性をいったん無視して全身の各筋肉部位に刺激を与えることで、多関節運動の際に、従来とは違うフォームに修正しうる点、この2つにおいて、とくに除脂肪体重の増えにくい重量級の競技者にとっては、利点が多いと考えられます。

あとは日々の練習、あるいはピリオダイゼーションにどのように落としていくか、その際の最も効率の良い方法はどのようなものか、ということですが、それは今後の課題として、より良い方法を突き詰めていきたいと思っています。

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