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試合当日のピーキングとは?

前回のピーキングの記事の続編として、今回は試合当日のピーキング(広い意味での)について書いてみたいと思います。

タンク村上はこんなことを考えながら試合当日を迎えているんだ、と知っていただくことで、パリ五輪の試技を見ていただくときの面白さが増したら嬉しいです。

また、アスリートの方には「当日のピーキングにはこういうやり方もあるのか」と何かの参考にしていただけたらと思います。

前日の夜、いつものラジオを聴いて寝る

順調にピーキングが進んでいれば、試合の前日の夜は緊張も収まっていて、リラックスした状態でいつもどおりに寝られます。

もちろん、そわそわ感とかはあります。落ち着かず、ときには宿泊先の周りを少し散歩してみたりもします。

でも、寝られないということはありません。時間も決めず、眠くなったときにベッドに入ります。

最近は、Spotifyで『ロバート秋山の 俺のメモ帳!on Tuesday』というラジオ番組を聴きながら眠ります。

これ、めっちゃ面白いので、おすすめです。

普段どおり、いつものラジオを聴いて寝るのが、試合前日夜のルーティンです。

自分の身体のことは自分が一番知っている

重量挙げは身体の可動域が重要なので、ストレッチやコンディショニングをしっかりしているんじゃないですか?とよく聞かれます。

でも、ぼくはそのへんにまったくこだわりがないです。ストレッチのノウハウもないし、特定の治療家の方を頼ったりもしていません。

どちらかというと、そういう身体の調整よりは、それまでの練習で作ってきたフォームとか、力の使い方とかを重視していて、それで試合の出来がほぼ決まると思っています。

むしろ誰かを頼ってコンディショニングするのは苦手。テーピングを巻いてもらうことなどを除けば、できる限り、自分で解決したいタイプです。

普段からそういう気持ちでいるので、自分の状態に人一倍、敏感かもしれません。

当日の朝、食事は軽め、検量後に和食

試合当日の朝は、可能なら試合会場にちょこっと顔を出して、本番のプラットフォームに立ってみます。

床の感覚を確かめたり、そこから見える観客席の景色を見て、数時間後の自分の姿をイメージします。

食事は宿泊先のビュッフェなどを軽めにとります。お腹パンパンまで食べると、動きづらくなるので、腹八分目。

そのあとは控え室に入ります。検量があるので、それをクリアしたら、また軽くお腹に入れます。

この検量後の食事は、海外の試合では重要です。

お米やサバ缶などを日本から持ち込んでいるので、それを食べます。和食を食べることで、試合直前に安心感が得られて、リラックスできます。

控え室はカオス、自分のペースを守る

重量挙げの場合、階級ごとに全エントリー選手が同じ控え室です。

ここがカオスで、超級ともなるとみんな疲れやすいので、海外の選手は簡易ベッドでゴロゴロ寝ています笑

韓国の選手はキムチとか大量に食べていて、「試合前にそんな辛いもの食べて大丈夫?」と聞くと、「食べてみる?」と勧められて食べたら、やっぱり辛い。

北朝鮮の選手は完全な集団行動で、食べるときも、移動するときも、息を揃えているので、見ていると緊張感があります。

そんな調子で、つい周りの選手たちのワールドに巻き込まれてしまいがちなので、いかに自分のペースを守れるかが大事です。

アップ場では全員を圧倒する勢いで声出し

試合の30分前くらいになると、選手はアップ場に移動します。

ここから一気にギアを入れます。

この場で一番強いのはオレだ、という気持ちを作り、ノリノリになって大きな声を出します。

「えっ、あいつ誰?」「この試合ってあいつのためのもの?」と思わせるくらい、他の選手のペースを崩して、やりづらくさせてやろう、と思って圧倒します。

はっきり言ってかなり変なやつで、ヤンキーみたいな発想なんですが笑、試合ってそれくらい図々しくないと勝てないと思います。

周りに遠慮しない、謙虚になると弱くなる

試合会場では、身の回りの世話を誰かにお願いして、水をもらったり、汗を拭いてもらったりします。

そういうとき、ぼくの素の性格だと、めちゃくちゃ申し訳なくなって、毎回「ありがとうございます!」と恐縮して、そのたびに集中が途切れてしまいます。

でも、それだと萎縮して弱気になって、試合に負けそうになるので、180度発想を切り替えて、「やってもらって当然」「当たり前だろ」と考えるようにします。

水をもらうときも、「ちょっと、水、水!」みたいな感じで、偉ぶって受け取ります笑

もちろん、決して周りを見下すとか、そういう勘違いではありません。

ぼくのように気を使い過ぎる性格の場合、謙虚さは競技において必ずしも美徳ではなく、周りに遠慮しない多少の傲慢さも必要だと思います。

意識していることやポイントを口に出す

アップ場では「軽い、軽い!」「いける、いける!」など、自分が前向きになれる言葉を一人でつぶやいています。

ぼくは競技のフォームを現場で調整していくタイプなので、修正ポイントがあるときは、「腰、背中、肩甲骨、腹圧!」「腰の高さ、肩の位置」などと声に出して直していきます。

周りで見ている人からすると、ちょっと気持ちの悪い調整方法なんですが、口に出すことでしっかりと修正できる気がします。

試合の直前にフォームの調整をする選手は自分以外、あまり見たことがありません。

でも、ぼくはフォームが乱れやすい選手なので、どうしても必要になります。

試合の現場でギリギリまでフォーム調整する

競技のフォームの違和感は鏡を見たり、ビデオに撮ったり、誰かに指摘してもらわなくても、自分でわかることが多いです。

力の出し方も、「あれ、いつもと違う出し方だったな」と気づくので、それを修正します。

「上半身寄りに力が出ていた」「胸を張れてなかった」「広背筋を絞めてなかった」など、普段と違うところを探して、アップ場で改善していきます。

そうしないと、いい記録、とくに自己ベストの更新はできないです。

ぼくは下手だし、天才型じゃないので、直前まで考えて、修正し続けています。

プレートを何もつけないシャフトの状態から、40KG、60KG、80KG、100KGとだんだん重い重量を上げていきます。

軽い重量から重い重量まで、一貫して同じフォームで挙げていけることが大切なので、つながりを持つことが大事。

最初にシャフトでしっかりとフォームを修正しておいて、重い重量になってきたら、重さがあるからこそのフォームのわずかな変化が出てくるので、それもできれば直したい。

この修正がアップ場で完全にできるときは、調子がいいです。

独りよがりになってもいけない

逆に、競技のフォームが何かおかしいのに、それが何なのかわからないまま、試合会場に入ることもあります。

そういうときはめちゃくちゃ調子が悪いです。

フォームは外に見えていることだけじゃなく、身体の内的な焦点の話なので、自分自身で見つけられる確率が一番高いと思います。

それでも、まれにコーチからの指摘で直せることもあります。

この前の試合で、「フォームはめちゃくちゃいいのに、すごく重たい」と感じていたとき、コーチから「ちょっと力を出している時間が長いんじゃない?」と言われて、そこを短くしたら、一気に調子がよくなりました。

そうそうあることではないのですが、自分自身の感覚だけにこだわらず、勝ちにつながる助言を逃さずに聞くことも大切だと思います。

修正点を見つけられたというプラセボ

現場で修正点を見つけることに関していうと、「見つけられた!」という自信もプラセボ的に効果があるんじゃないかと思います。

科学的には、フォームの一部を修正したことが、パフォーマンスには直結していないかもしれません。でも、「あ、ここが違ったからか!」と直して自信を得ているというプラセボ効果はたぶん絶大です。

ですから、自分で見つけるにしても、誰かの助言にしても、納得感の強いものを選ぶべきです。

ここまで尽くしたんだから、失敗してもしょうがない、と思えたほうが絶対にいいです。

1本目を成功させるためのセコンドへの宣誓

スナッチの1本目はすごく緊張するので、みんなけっこう落とします。

緊張するからつい守りに入ってしまって、試技に失敗します。

重量挙げには、「爆発的な蹴り」と「キャッチ」の要素がありますが、守りに入ると、蹴りが弱めで、早めにキャッチに入るイメージになってしまいます。

そうじゃなくて、勢い余って後にぶん投げてしまってもいいから、強く蹴って、ふところでキャッチするくらいの、攻めの試技をするほうが成功します。

1本目から攻めていくぞ、という気持ちを作るために、ぼくは、プラットフォームに登るときに、セコンドの一人一人の目をみて、「よっしゃ、いきます!」と声をかけてからいきます。

小さなことですが、この宣誓が守りの試技にならないためのルーティンです。

1本目がだめだったときの切り替えスイッチ

1本目の試技に挑んで、ダメだったとき?

残念ながら特効薬のような切り替えスイッチはありません。

1本1本、命懸けで挙げるだけ。

1本目がダメだったからといって、あーあと思って2本目の試技に挑むのは、それは違うなと思います。

実際、1本目を失敗した試合でも、あとで振り返ってみると、すごくいい記録を出せたというときもあります。

そこは終わってみないとわかりません。

ぼくはネガティブになりやすいタイプですが、ポジティブにいくことが大切です。

セルフ声がけでポジティブ転換する

では、どうやってポジティブを維持するのか?

1本目を失敗したあと、アップ場に戻ってきて、試合の間隔があまりにも長ければ、もう一度、バーベルを持ちます。

でも、そうでないときは、体力的にもしんどいので、バーベルは持ちません。

1本目と2本目の間では、修正点を直そうということも、あまり考えません。

シンプルですが、「さあ、挙げるぞ、挙げるぞ」「オレならできる!」「いける、いける!」と人目をはばからずセルフ声がけをします。

こんな場面での自己暗示はそこそこ効きます。

プライベートな悩みは事前に解決しておく

ぼくが試合中にやっていることは、だいたいこんな感じです。

あと少しだけ。

試合当日に向けて、前から取り組んでおくべきことを2つ書いてみます。

ひとつ目は悩み事の整理です。

ぼくはプライベートなどで悩みごとがあると、とたんに調子が悪くなるタイプです。

そのことを延々と考え続け、試合中も頭をよぎり、集中が乱れやすくなります。だから、悩みごとはなるべく自分の中で解決してから試合にのぞむようにしています。

もし解決できないことなら、忘れる努力をします。

だいたい1週間もあれば、忘れることができます。

でも、海外での試合で、日本を離れるまでに忘れられなかったときは、かなりむずかしくなります。

現地では出歩けず、宿泊先の部屋に閉じこもりがちです。悩みごとをつねに思い出して、それが増幅されて病みがちになります。

そうならないように、とくに海外大会のときはプライベートの悩みを抱えないように、前々から意識します。

試合にのぞむ決意を固めておく

二つ目は、試合に向けて迷いをなくすことです。

ぼくは試合に出るときは、身体がぶっ壊れても全力を出す、という強い決意でのぞんでいます。

逆にいえば、そういう決意ができなかったときは、試合はさんざんな結果になります。

東京五輪の予選では、ポイント制限からAランクの試合に出られず、選考上で不利なBランクの試合に出るしかありませんでした。

オリンピックが遠のくなか、なぜ自分はこの試合に出るのか、ここで勝って何になるのかと、モチベーションが落ちていきました。

所属していた企業では期待に応えられず居づくなったし、この試合を最後に引退しようかな、という弱い気持ちにもなりました。

重量挙げをすることに疑問を持ち、試合に出る決意が揺らぐことは絶対に避けるべきです。

試合は戦場です。迷いなく、この場で死んでもいいと思えるくらいの決意がないと、勝てません。

そもそも200kgを超える重量を頭の上に引き上げることは、中途半端な気持ちではできません。

この試合に出て、死ぬ気で頑張る。

その決意と覚悟をしっかりと作り上げることが、試合に先立ってとても大切です。

まとめ

今回の話はどうだったでしょうか。

ぼくが試合当日にどんなことを考えているか、どんな調整を試みているかを、伝えることができたのではないかと思います。

こうして言語化してみると、自分でも発見がありました。

8月11日のパリ五輪の本番に向けて、自分の中でもひとつ整理ができた気がしています。

これから1ヶ月、着実に準備を進めていきます。

応援よろしくお願いします。

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