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僕が重量挙げのエモさを語ることにした理由

重量挙げのエモさって何? そう聞かれると、意外と答えに詰まります。

僕みたいな人はけっこういるんじゃないかと思います。

この競技が好きですし、こんなに奥深いスポーツはないです。

競技を始めてから、記録が伸びるのが嬉しくて、試合で結果を出せて、成長できる実感があったので、続けてきました。

でも、競技のエモさを意識したり、誰かにそれを教わった経験はない気がします。なくても自然と競技にのめり込んでいました。

そうやってこれたのは、最初の入り口が学校の部活で、先生が仲間と一緒に頑張れるコミュニティを準備してくれていたからかもしれません。


先生が練習をお祭り的に盛り上げてくれた

最近、新潟で高校生と重量挙げの合宿をしてきました。この部活の雰囲気がすごく良くて、「ここで一緒に重量挙げをやりたい」と思わされました。先生が生徒にしている指導は、強くなるための技術的なアドバイスというよりは、みんなで集まってその場で頑張りたくなる声がけです。それが生徒たちのモチベーションを高めていました。

これと同じ環境が自分の通った富山の高校にもありました。先生は技術を教えるよりも、率先して練習をお祭り的な感じに盛り上げてくれました。「この子が今から自己新記録に挑戦するよ!」と部員全員を集めて、みんなで「がんばれー」と大声で応援するのがいつもの練習風景でした。そうやって仲間と競技に励める場がありました。

多くの場合、重量挙げを始めるのは、学校の部活です。部活はその人間関係、コミュニティ自体に強い求心力があります。だから、重量挙げという競技のエモさを意識しなくても、部活を始める理由、続けていく理由を与えてもらえます。

「最初はこの競技が好きでもなかったけど、仲間と先生に引っ張ってもらううちに、3年間夢中で頑張れた」。こういう話は部活の世界でよく耳にしますが、照れ隠しのようでいて、半分本当でもあると思います。

どんなものもそうですが、ある程度、継続してやり方を心得てくると、面白いし、好きになっていきますよね。その場合、後からエモさについて考えることは少ない気がします。

なぜもっと重量挙げが日本中に普及していないのか

重量挙げが思ったよりも世の中に普及していないのは、部活というコミュニティありきでスタートした人が多いからだと思います。

たとえば、筋トレ系で近い競技に、パワーリフティングやボディビルがあります。この二つは、大学以降で始める人が多く、社会人からスタートする人がほとんどです。

現在、社会人の競技人口は、オリンピック種目の重量挙げよりも、パワーリフティングやボディビルのほうが多くなっています。

パワーリフティングやボディビルを始めるとき、多くの人は、部活のようなコミュニティを前提に頑張るというよりは、自立したアスリートとして、その競技に夢中になれるから選択するはずです。

最初に競技のエモさを感じていなければ、貴重な時間を割いてまで、スタートするわけがありません。

パワーリフティング、ボディビルの経験者は、エモさをとっかかりに始めているから、未経験者に対して、自分の言葉で競技の魅力を伝えられるのだと思います。その熱心さが、さらなる競技の普及に直結するのでしょう。

これまで僕は、重量挙げが普及しない原因について、「バーベルを落とせるジムが少ないから」「協会がエンターテインメント展開に消極的だから」と考えてきましたが、じつはもっと身近な問題として、自分たちが競技の魅力を伝える言葉を持っていないからではないかと感じました。

重量挙げの動きそれ自体に魅力があり、中毒性がある

僕の知る限り、重量挙げの経験者は、競技のエモさをあまり言語化していない気がします。

僕自身はそうでした。でも、競技として魅力がないのかというと絶対にそうではありません。

そこで今回、自分自身の無意識の部分を探ってみました。

重量挙げは、動きそれ自体に魅力があって、中毒性があると思いました。野球のバットを振ったり、ゴルフのクラブを振ったりする動きとよく似ています。道具を使って行う、この種の動作にひかれる人は多いはずです。

重量挙げの「ジャンプして、その重量の下に潜る」という動きは、全力で一瞬のうちに行われます。きれいにスナッチ(床のバーベルを一気に頭上まで引き上げ、両腕・両脚を伸ばし静止する種目)ができたときは、ジャストミートでカキーンと球が飛ぶような感覚があり、ホームランのような爽快さがあります

見た目が似ているパワーリフティングと比べてみます。パワーリフティングがどちらかというと粘る系のアクションなのに対して、重量挙げは、一秒で一気に上げる瞬発系のアクションです。

パワーリフティングはじわじわと筋力勝負の種目。一方、重量挙げはバーベルを持ち上げながら垂直跳びする陸上競技に近い種目です。

腕の力で持ち上げるイメージだが、じつは脚も使っている 

たとえば、子どもたちを集めて、「一発でバシッ」と持ち上げる動きをやってもらったら夢中になると思います。鉄のバーベルでなくても、そのへんの木の棒で構いません。棒を両手でもって、全力で挙げる動作には魔力があって、本能的に楽しいとなるはずです。

重いものを持ち上げる種目でありながら、スピード感があるから最高なのです。とくにクリーンアンドジャーク(地面に置かれたバーベルを肩まで引き上げて立ち上がり、次に全身の反動を使ってバーベルを一気に頭上へ差し上げる種目) をするときにそれがもっとも極まります。

イメージしてみてください。「最初は床から脚の力だけでバーベルを肩まで持ち上げる」「肩にかついだ状態で屈伸してジャンプした勢いのまま、脚の力を使って上にあげてみる」。この動作を聞いたとき、えっ?何それ?という新しい感覚を持つはずです。腕の力で持ち上げているイメージだけど、じつは脚も使っている、という部分が面白いのです。

繰り返しますが、筋トレの延長線上にある競技と考えず、バットを振るとか、ゴルフをスイングするとか、そうした道具を使ったスポーツが持つ楽しさをイメージするほうがずっと近いのです。バットの素振りもゴルフのスイングも、腕の力だけでやろうとしてもうまくいきません。体幹を使って、ひねって回転を加えることで、最大効果を発揮できます。

重量挙げも腕だけで持ち上げようとするより、ジャンプの反動を使ってあげるほうがずっと軽く上がります。その動きの妙に僕ははまりました。

生涯スポーツとして発展するときにエモさは絶対に必要

こんなふうに重量挙げのことを表現したのは初めてです。同じ感覚を他の人から聞いたことはありませんし、もしかしたら世の中で僕だけが感じているものかもしれません笑

でも、自分がその競技のどんな部分が好きで、これから始めようとする人になぜ薦めたいのか。これを語ることなしに、この競技が広く普及していくことはないと思います。

必ずしもコミュニティに依存せず、生涯スポーツとして個人がいろいろな場面で楽しんでいくときに、エモさの言語化はその拠りどころとなります。

僕自身、これから競技を続けていくにあたって、こうした感覚を意識し、語っていくことが、新鮮な刺激を自分に与えてくれそうな手応えがあり、楽しみです。

重量挙げが部活にない子どもたちや、筋トレが好きで何かの競技を始めたいと思っている社会人などを対象に、セミナーやイベントをやってみたいです。そこで今までとは違うアプローチで重量挙げをアピールできたらきっと面白いことになると思っています。

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