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読書録2020.02

いやはや、コロナウイルスのおかげで何とも気が滅入る毎日です。
買い占めやらいっせい休校やら、いつもとは違ういろいろなことが同時多発的に起きて、その情報に呑みこまれていく感覚は、9年前の東日本大震災の時を思い出します。あの時は京都にいて、悲惨な映像に心が押しつぶされそうになる一方で、どこか遠いところの出来事のように捉えていた自分もいました。今回はそれがいつ身近で起こってもおかしくない状況です。しかもその解決のメドすら現段階では立っていません。こういうときの経験値がない(ほとんどの日本人はない)ので、この状況が沈静化したら、いろいろな方の本から知見を吸収できればと思っています。

家に閉じこもりがちになるので「読書でも」と思う方も多いのではないでしょうか。拙い読書録がせめてもの参考になればと思います。

第二次大戦、そして人類最大最悪の戦いを、旧ソ連の女性兵士たちの証言から克明に描いた、傑作ドキュメンタリーを漫画化した一冊です。タイトルは以前から知っていて、文庫本を手元に持ってはいましたが、Webで連載が始まったときは「本当にこの作品を漫画化するの?」と驚きました。最近仕事でマンガの編集にも少し関わっていますが、マンガ家の真骨頂とは構成・ネームによる物語や登場人物の見せ方だと思います。原作をしっかり読み込んだ作者の執念をコマからヒシヒシと感じます。Webや電子書籍でも読めますが、作品の凄みが伝わる大型コミックス(四六判)でぜひ読んでみてください。日本ではマンガになりづらいタイプの話ですが、全国で売り切れ続出で即重版になったそうです(本日4刷までいったそうです)。

何年か前からよく聞くようになった、少人数でのインディペンデント出版社経営者へのインタビュー集です。インタビュー集ってインタビュアーの能力や企画力がモロに出るので、「テーマはいいんだけど中身がなあ・・・」という残念なケースも結構あるのですが、これは写真も交えて経営者の切実で生っぽい声が読みやすくまとめられていて、経営者としてとても参考になりました。作りたい本があるから立ち上げた、自身の状況からこれができることだった、気がついたら突っ走っていたなど、出版社を立ち上げる動機は人それぞれで、どれもドラマチックだなあと思いました。

前作が読み応えがあったので、続編も買ってみました。近衛文麿と痔のエピソードや、太平洋戦争の宣戦布告がアメリカへ遅れて届いた真相には驚きました。また後藤田正晴と直でバトルしたことをきっかけに信頼しあうようになった著者にしか書けない、数々の興味深いエピソードを読むことができ満足でした。歴史上いろいろな評価を受けている人物たちですが、その生き様にはステレオタイプに伝えられているものとは、ずいぶん違う印象を受けました。

博士論文取得がかかった妻に付き添って、北海道大学に行ったときに生協の書店で見つけました。私の住む南砺市が加盟する自治体連合に入っているので、東川町の名前は聞いたことがありましたが、バブルよりも前から「写真のまち」を標榜し、長い時間をかけ町役場や町民の意識に、その理念が浸透していったプロセスを、わかりやすく知ることができる一冊です。この本の内容を、他の自治体で真似しようとしても、きっとうまくいかないだろうなあ、このまちならではのやり方だなあと思います。こういう本をいつか自分でも手がけてみたいと思いました。

映画を学ぶため、台湾から京都大学へ留学してきた一人の女性のエッセーです。「幸福路のチー」というアニメ映画を監督し、世界の映画祭で話題を呼んだので、その帯を見て手に取りました。帯って大事ですね。京都の下町の何気なくも波乱に満ちた日常に戸惑いながら、多くの人たちとの出会いと別れをくり返した著者の自己観察眼と、京都のディープな面を描く表現力には驚かされました。実写映画を監督したあと、自らスタジオを立ち上げてアニメを作ってしまうくらいの人だからなあ。

発売情報をTwitterで知って、楽しみにしていた一冊です。「IT業界のサグラダファミリア、ついに完成す」なんて見出しを読まされれば、興味津々にならざるを得ません。みずほ銀行の失敗の歴史をたどるのかと思いきや、ようやく完成した新システムの誕生から構築の過程、実際に現場へ導入されるまでのエピソードは、シン・ゴジラよろしく「現場の力」で難局を乗り切る日本ならではだなあと思いました。ただ出版社は「これを2025年の壁(老朽化した大企業基幹システムの更新が重なる時期)を乗り越える秘訣に」と訴えていますが、二度の致命的な失敗を起こし、それでも潰れなかったみずほ銀行ならではの事例ではないかなあ、と思いました。あとやっぱり銀行が取材に応じた一冊だけあって、システム開発現場の修羅場などの描写はほとんどありませんでした。これの裏話的な本をどこか出してくれないかなあ。

新刊書店、古書店など様々な書店の一線で、人々へ本を届けようとしている人たちを取材した一冊です。カラーページが多く、店舗ごとの雰囲気がよく伝わってきました。書棚や店内のレイアウトにはいろいろなパターンがあるのだと改めて感心します。

ユニクロに潜入して訴えられ、話題になったルポライターによる、Amazon流通倉庫への潜入レポを中心にした一冊です。Amazonで取扱があるのか興味があったのですが、普通に取り扱ってましたね。ユニクロしかり、コンビニ経営者を批判する本をそのコンビニに配本している取次から締め出されたエピソードしかり、日米の企業文化の違いを感じました(笑)単なる倉庫労働者の過酷な労働実態の告発にとどまらず、Amazonという超巨大多国籍企業と正面切って闘う人たち、Amazonの周辺でうごめく有象無象など、様々な視点から積極的に取材を試みていて、感心しました。著者がAmazonの倉庫で自分の著書をピッキングしたエピソードには思わず笑ってしまいました。

2月はこんな感じでした。また来月もまとめたいと思います。

2012年に、京都から富山県の南砺市城端(なんとしじょうはな)へ移住してきました。地域とコンテンツをつなげて膨らませる事に日々悩みながら取り組んでいます。 Twitter⇒https://twitter.com/PARUS0810