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[TOMS・HAPPYBABY] 巨人(大手企業)の肩に乗って知名度を高める

こんにちは。今日はプロダクトの宣伝・PRについて書こうと思います。

スタートアップが真新しいサービス・プロダクトを出す場合、一般的にPRはプロダクトの成功に貢献しません。プロダクトの立ち上げ直後の一番のリスクは、プロダクト・マーケット・フィット(PMF)です。プロダクトが顧客のニーズを満たせていない場合、もしくは、マーケットニーズがそもそもない、間違っている場合、PRで製品のことが広く知れ渡っても、結局売れない・リピートがつかないからです。PRはプロダクトマーケットフィットは解決してくれません

が、しかし、特にB2C向けのプロダクトの場合、中でも物理的なモノを消費者に売るビジネスの場合、拡大期のPRは絶大な効果を発揮することがあります。2000年代に立ち上がった靴ブランドTOMSとベビーフードブランドHappy Baby Organicsの2つのプロダクトの例を見てみましょう。

プロダクトマーケットフィット(PMF)とは: そもそもマーケットにニーズが確かにあり、提供しているプロダクトがそのニーズを解決できている状態です。認知→購買検討→購入→リピート・口コミ拡散、の購買ファネルのうち、特に最後の部分、「買って使ってみたらもっと欲しくなった、周りに勧めたくなった」という状態に至っていないと、いくらPRで認知の部分を改善してもお客さんが定着せず、事業の成功につながりません。

PRにつぐPRが成功を早めたTOMS

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TOMSという靴のブランドをご存知ですか?靴を一足買うと、一足途上国に靴を寄付するという仕組みで一躍指折りの靴ブランドになった会社です。

創業者のBlake Mycoskie(TOMさんではありません)は、元々自分で広告代理店を興したり、ケーブルテレビ局を創業したり、自動車教習所のようなサービスを始めたりと起業精神あふれるアントレプレナーでした。旅行でアルゼンチンに行っていた時に靴がない子どもたちがいる村々を回って靴の寄付をしているNPOの活動に同行する機会を得ます。ぜひとも自分でも靴の寄付に協力したいとアメリカに戻って寄付する靴を集めたBlakeですが、このままでは限界があると気づきます。そこで、彼はラテンアメリカで履いてとても履き心地が良かった布製の靴を現地で作り、一足アメリカで売るたびに一足現地の靴を持たない子どもに一足寄付する「One for One」のコンセプトを思いつきます。

試行錯誤の末に靴を作った彼は、試しに地元ロサンゼルスのブティックショップを周り、一軒置いてもらえることになります。店のオーナーが「One for one」のストーリーを気に入ったのです。更にその店で靴を見かけたLA Timesという地元一の新聞記者がストーリーを気に入って記事を書きます。その記事が出た時点でオンラインストアは完売(完売というよりも在庫設定をしていなかったために在庫の10倍近く売れて強制シャットダウン)。そこからTOMSは取材を受けるたびに売上が伸びて、生産が追いつかない、というサイクルに入ります。「一足買ったら一足寄付(One for one)」というモデルはそれだけ人に伝えたい、ストーリー性が強いモデルだったのです。(今でこそOne for oneのようなソーシャル・ビジネスのモデルは広く浸透していますが2006年当時はとても斬新なものでした。)

アメリカとアルゼンチンを行き来して、靴を作り、靴を売り、靴の寄付をし、なんとか受注を支え続けていたBlakeにさらなる転機が訪れたのはあるテレビ番組での取材でのこと。頻繁に海外に飛び回って一体どうやって仕事をやりくりしているの?と聞かれたBlakeは手に持っていたブラックベリーを指して「これのおかげだよ。これがなかったら全く仕事になってないよ。」と答えます。全く本心からの答えだったと思いますが、この回答の映像がAT&Tの幹部の目に留まったのです。

ぜひその取材で言ったことをCMにしたいので出てほしいと言われて出たのがこのCMです:

AT&Tにとってみれば、グローバルな通信プランを宣伝する格好のストーリー。そして、TOMSはAT&Tの広告宣伝費によって全国CMを無料で流してもらえる機会を得たのです。このCMでも「一足買ったら一足寄付」というモデルがはっきりと宣伝されています。30秒のCMでブランドの共感を得られ購買検討に至るところまでプロダクトマーケットフィットが達成できていた時点でのCMだからこそ絶大な効果を発揮しました。ここでTOMSの知名度は一気に全国に知れ渡り、売上も急激に伸びました。

ストーリーだけでなく品質ももちろん大事: 余談ですが、TOMSの靴はとても履き心地が良いです。いくらストーリーが共感できても靴である以上、履き心地が良い、歩きやすい、見た目が良い、など靴として普遍的に大事な要素が満たされないと売れません。TOMSがここまで伸びた背景には本質的に履きやすい靴というベネフィットがあり、リピート客がついたからです。PRされやすいストーリーだけで成功しているわけではありません。

プロダクトがユーザーニーズにハマっていると確信してからはある程度、広告宣伝費と営業費をかけてとにかくプロダクト認知と販売チャネル拡大を測るフェーズに入ります。そのフェーズは通常スタートアップにとっては大手と戦うには苦しい時なのですが、TOMSは大手のお財布を使ってCMを流してもらうことで無料で認知拡大を手に入れたのです。

AMEXが宣伝して伸びたHAPPY BABY ORGANICS

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Happy Baby Organicsは2003年に当時は独身で子供もいなかったShazi Visramが子供の離乳食を作る時間がとれなくて自己嫌悪に陥っている友達を見て、ベビーフードが瓶入りのまずそうなベビーフードか手作り離乳食の二極端しかないのはおかしいのではないか、と強く感じて創業したオーガニックベビーフードの会社です。

創業時は、離乳食を手作りして冷凍していた友人にならって、冷凍ベビーフードを販売していました。その当時、創業者のShaziは日々スーパーの冷凍食品売り場に並んでは、試食販売をしていたそうです。

※ 対面で売る大切さはこちらを参考に:

対面販売をし始めて3日目で、この商品のままでは売れない、と確信したShazi。離乳食を手作りしていた層の代替商品とはなったものの、冷凍食品売り場はベビーフードを探しに親が来る列ではなく(一般的なベビーフードはベビーフードコーナーで常温販売)、瓶入りベビーフードを使っている大半の親にとっての代替商品とはならなかったのです。この時点で、プロダクトマーケットフィットはなかったということです。

内心ではこのままでは駄目だと思いつつも外向きには絶対に大丈夫だと言い続けて資金調達を続け、踏ん張ること数年。Shaziは新しいレトルトパウチの製造技術と出会い、常温のベビーフードパウチの開発に成功。今度は明らかにマーケットのニーズにマッチしたプロダクトができたという手応えがありました。大手も次々にパウチに参入する中で、シェア拡大を目指します。

プロダクトマーケットフィットが得られた後の拡大は、特に大手の競合もいて、小売の売り場スペースが限られる(=陣取り合戦になる)ような競争環境の場合、とかくお金がかかります。追加の資金調達が必要になっていたShazi、偶然、紹介もなく来ていたAmerican Expressのドキュメンタリー取材を受けることにします。

始めは1回のドキュメンタリー放映だけだと思っていたこの取材ですが、ドキュメンタリーの放映後、キャンペーンの一貫としてこの話をもとにCMを作らせてほしいと依頼されます。そしてできたのがこのCM:

このCM を全国区で、スーパーボール中のCM(アメリカで最も視聴率が高く、一番値段も高いCM枠)も含めて、アメックスの全額負担で流してもらえたのです。

このCMが出たことで、Shaziはたった数日で資金調達を終えることができました。そして商品の売上もこの年に5倍以上伸びました。大手ニュースメディアの取材、大手企業がスポンサーするCMは、拡大期には効果絶大なのです

PRはPMFを見つける手助けにはならないが、PMF達成後の拡大には効果的

TOMSやHappy Baby Organicsの例は幸運も重なっての突出して成功した例ですが、身近なプロダクト、会社を見ていても、成長期・拡大期にはPRが大きく貢献したという例が枚挙にいとまがありません。PRは、いくら記者と話しても取材を受けても記事を書かれても無料でCM作ってもらっても、プロダクトマーケットフィットがないうちは、マーケットフィットの問題を解決してはくれません。(また、そもそも取材が取材が呼ぶような状態になるためにも、共感できて人にシェアしたいストーリー、つまりはある程度のプロダクトマーケットフィットが必要です。)が、認知度を広げる段階では、うまくやれば強い武器になります。

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