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敷居の高さ

独立した当初、仕事を選ぶことなんてもっての他で、なにか少しでも光がさす可能性があれば、人に会いに足を運んでいたし、どんな小さな事でも積極的に仕事したいと考えていた。
正直に言えば、店舗などはつくったこともなかったけれど、出店を考えている方に会えば、むしろ得意だと話し、その後で無理矢理調べながらつくっていたのも事実で、とにかく貪欲に仕事を求めていた。
幸いにも、ひとつつくると紹介で、またひとつと自然とタスキがわたされていくように仕事が続き、気がつけば独立後1年で10件のインテリアデザインの仕事をしていた。
考えてもみれば、安藤忠雄さんも生まれた時から美術館をつくった経験があった訳ではなく、そのチャンスにどう向き合ったかが、作れるようになるきっかけなんだと、いまは思える。
そうやって身近な友人達の紹介から、徐々に仕事の幅が拡がり、他県の仕事が増え、次第に雑誌に取り上げて頂く機会にも恵まれた。
とにかく来るモノ拒まずで、ひたすら仕事をしていた。
月日が流れ、設計した住宅も100件を超え、住宅以外のプロジェクトもあわせると、400件を超える仕事をしてきたことになる。
規模も小さなものから大きなものも経験し、気がつけば来年で設立20年だ。

そんな現況で、先日とあるお施主さんから、「敷居が高くて依頼できなかったけど、今回色々な御縁でやっと依頼できた」というお話を伺った。
いまだにできる限り依頼して頂いた案件はお手伝いしたいという思いは変わりないし、規模や予算で決めることもなく、どちらかというとコンペなどではなく、僕たちに本当に頼みたいと思って下さっているプロジェクトを優先的に選びたいと考えている。
やはりコンペで比べられるより、指名が嬉しいよね。
そんなわけで、良い機会なので、なぜ敷居が高いのかということを聞いて見た。

まずは、よくメディアに出ていること。
あとは大きなプロジェクトもやっていること。
などがあげられた。

おまけに僕はいつもポートレートは笑わないことに決めていて、設計している物件のモダンさが手伝って、どうやらクールで、言葉数が少なそうで、とっつきにくそうな印象もあるとのことだった。
実際は、どちらかというと、いつも笑っている方だし、建築家っぽい振る舞いなどは、ほぼないと言ってもよいだろう。(先生てきなやつね)
笑わないポートフォリオの方が、会った時に、思ったより話しやすいと思って貰える、つまりポイントがあがるわけだ。
もしポートレートが笑顔だったなら、きっと会った時にニコニコしていても、予定通りで、ポイントは上がらないだろう。
だから、ぼくは笑わないポートレートをおすすめする。(腹黒くてごめんなさい) 

話しがそれてしまったけど会うまではどうやら、そのあたりの要素を総合的にみて、敷居が高くなっているようだった。

いまやっている仕事が、これからの仕事を決める。
そう僕は思っていて、仕事を選ぶことによって自分の方向性を選んでいくことになるだろう。
豪邸ばかりを作っている友人建築家の話しを聞くと、予算に余裕があって羨ましく思うこともなきにしもあらずで、いつも予算に苦しんでいることをつらく思うこともある。

が、しかしその苦しみこそがアイデアの源で、新しい知恵によって乗り越えるべき瞬間で、建築家やデザイナーの能力が問われるときでもあると考えている。
予算が厳しい時ほど、能力の差が出やすい気もしている。
そして過去の名作を調べてみると、豪邸ではなく、コストが厳しいプロジェクトの方が歴史に残っている率が高いようにも思う。

だから独立したころと同じ気持ちで、プロジェクトの大小や予算に限ることなく、どのプロジェクトにも向き合っているのだが、多くの方に僕たちのことを知って頂くことによって、社会は有名になったと判断して、有名だと高いとか、頼みにくいという空気が自然とつくられてしまうようだ。

本当はそんなことはないのだけれど・・・

ひとつ変わったことは、仕事を請けすぎて、結果としてスタッフも含め、無理をしなければならない状況は避けるようになった。
やはり健康的に働くことで、心も体も健全で、健全な提案ができる会社をつくりたいと考えているので、昔ほどの無理はしなくなった。
そういう点で、お仕事をお断りしなければならないケースも最近はあるのも事実。。悲

敷居が高くなる。
それは依頼側にとっては勇気が必要な状況になるのは充分理解できる。
だから少しでも、敷居をさげようと考えてはいるけれど、敷居をなくすつもりはない。
頼む側も、請ける側も、それなりの覚悟を持ってプロジェクトに挑みたい。そして一緒に笑ったり、議論することで、良い空間を提案していきたい。

敷居は低く、美意識高く

それが僕たちの会社のスタンスなのだ。


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こどもが生まれてすぐに妻はレストランを開業しました。 もちろん僕が空間を設計しました。 働くと生活は別のものではなく繋がっているので、昔スタイリストだった妻が料理家として衣食を、そして建築家の僕が住として、衣食住の豊かさとして伝えて行くことが出来ればと思います。

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建築家の父と料理家の母の子育てや、旅のこと、谷尻家の食卓など、日常の知恵を記していきます。

公には出来ないけれど、ここだけで書くことが出来る情報も含めて、皆さんに共有出来ればと考えています。 建築業界の凝り固まった環境を見直しながら、新しい働き方や、経営方法、ブランディングについて綴っていきます。