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牡蠣の旬は冬じゃない?現役漁師が語る牡蠣養殖のリアルとこれから - シェア食vol.3レポート

「牡蠣の美味しい時期は、今は春なんです。」

久美浜湾(京都府京丹後市)で真牡蠣の養殖を営む豊島淳史さんはそう語ります。

「牡蠣のイメージというとやっぱり冬の鍋ですよね。でも最近、牡蠣の成長する時期が以前とズレてきているんです。」

牡蠣の旬が春にズレることによって、実は新たな課題も生まれてきているそう。今回はそんな牡蠣養殖の現場で実際に起きていること、それに向き合う豊島さんの挑戦についてお話をうかがいました。

※この記事は2021年4月19日(月)に開催されたオンラインイベント「シェア食!vol.3」のレポートになります。

詳しくはこちら

シェア食!vol.3豊島さん (1)

シェア食とは

こんにちは。tangobar関さんと一緒にシェア食を企画している、杉本といいます。私自身も水産加工をしており、「地域の食を考える場を作りたい」という関さんの思いに共感し、このシェア食を一緒に始めました。

シェア食は毎回、地域の生産者をゲストとしてお呼びしています。その方のお話をもとに、参加した方々と普段は知ることができない食の背景について探求していく、そんな内容のオンラインイベントになっています。

第3回のテーマは「牡蠣の美味しい季節知ってますか?」

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ゲストは漁師の豊島淳史さん。「久美浜湾の牡蠣養殖を後世まで残したい」 という想いのもと、牡蠣やトリガイの養殖を中心とした漁をされています。民宿も営んでおり、滞在型の養殖体験というユニークなプログラムも提供されています。

変化の激しい漁場 久美浜湾

豊島さんが漁を営む久美浜湾は、日本海と水路一本でつながっているだけの閉鎖性の高い湾。そのため変化が激しく、牡蠣の養殖をするには難しい場所だそう。

例えば今年は雪がたくさん降ったので、雪解け水も多かったとのこと。それが湾に流れ込んで塩分濃度が大きく下がり、牡蠣にも大きな影響が出てしまいました。

一方で、普段から水が山から流れ込んでいるため、牡蠣の餌となる植物性プランクトンが多く、育ちもいいとのこと。また基本的に塩分濃度が低い海なので、塩辛さよりも牡蠣の旨みが先に来る味わいになるそうその味を求めて毎年注文をくれるお客さんも多いそうです。

久美浜湾の様子はこちらの動画からもご覧いただけるので是非。山に囲まれた美しい場所なんです。

牡蠣はどうやって育つの?

さてそんな久美浜湾で牡蠣はどのように育っていくのでしょうか?

久美浜湾での牡蠣養殖の始まりは3月。宮城県で育てられた牡蠣の赤ちゃん(「種苗」という)を購入します。

その牡蠣の赤ちゃんは前年の夏に生まれます。最初の大きさはプランクトンくらいの小さな小さな姿。そんな小さな赤ちゃんが1週間から10日、海の中を漂って一生過ごす場所を探してくっつきます。

そのタイミングでホタテの殻を用意し、牡蠣の赤ちゃんが付着するのを待ちます。その種苗がついたホタテの殻が全国に出荷されていくのです。

5月。久美浜湾では、そうして種苗が付着したホタテを海に吊るします。等間隔にホタテをつけたロープを海に吊るし、牡蠣を成長させていきます。この方法は垂下式と呼ばれ、剥き身用の牡蠣を大量に生産するのに向いているのだそう。

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※垂下式のイカダに乗る豊島さん。ロープにはいくつもの牡蠣が吊り下がっています。

そして冬に水揚げ、と言いたいところなんですが、冒頭でもあったように牡蠣の旬が以前と大きく変わっているようなんです。

一体何が起こっているんでしょうか?

「春にズレた」だけでは終わらない牡蠣の旬問題

牡蠣の旬が春にズレてしまったのは、温暖化に大きな原因があると豊島さんは考えています。

牡蠣は海水温が下がることにより、成長開始のスイッチが入るそう。久美浜湾では例年12月頃、初雪の雪解け水が流れ込んで海水温が下がります。それがスイッチになり1〜2週間でグングン育つそう。

ところが最近は雪も少なく、また温暖化により海水温が下がりきらず牡蠣のスイッチが入らないというわけです。

「旬が春にズレただけなら、春に牡蠣を売ればいいんじゃない?」と思われる方もいるかもしれません。

しかし、牡蠣の価格は鍋の需要が高まる冬のハイシーズンが最も高く、その時期に牡蠣が出荷できないことは、漁師さん達の収入の低下につながってしまうのです。

3つの課題と新たな取り組み

久美浜湾での牡蠣養殖は、先ほど述べた①旬のズレの加え、

②種苗の相性

③生産者の減少

という課題を抱えていると言います。

②の種苗の相性とは、今まで購入していた宮城県からの種苗が、東日本大震災の影響で種類が変わり、久美浜湾との相性が悪くなってしまったということ。成長のスピードが以前より遅くなってしまったそうです。

③の生産者の減少は、経済的な面や体力的な面で後継者が不足しており、高齢化が進んでいること。かつて漁業者を守るためにできた様々な決まりごとも、今では足かせになっている部分もあり、変化していく必要性を感じているそうです。

そういった厳しい状況にあっても、「若い世代が続けられる、魅力を感じる漁業にしていきたい」と話す豊島さん。

同じ思いを持つ漁師仲間たちと研究会を発足し、新たな取り組みを始めています。例えば、最新の養殖法の導入。海外の企業と連携しながら、ITや自然エネルギーを活用した最新の養殖法を模索しています。

またムール貝の活用についても取り組みが始まっています。ムール貝は牡蠣の周りに付着し、牡蠣の水揚げの際に副産物として取れる貝。今までは地元の知人にお裾分けするぐらいで売り物という意識はなかったそうですが、味もよく、なんとか商品化できないかと現在計画中とのことです。

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いい出汁が出るムール貝。これが美味しいのです。

漁師だけの海ではなく、みんなの海に

豊島さんは最近、「地域としての海」という視点が必要ではないかと考えているそうです。

「海のことは漁師が決めるものというイメージがありますよね。昔は多くの住民が漁業に関わっていたからそれほど問題はなかったかもしれませんが、今は違うと思います。住んでいる人と一緒に海の活用を考えていかなければなりません。そうすることで次の世代により理想的な形で久美浜の漁業を渡していけるんじゃないかと思ってるんですよ。」

「漁師は海が職場です。船で出ていくので、他の方には現場が見てもらえないことが多いんですよ。ただ今は久美浜の漁業をもっと多くの方に知ってもらいたいと思ってます。ぜひ久美浜に訪れることがあったら訪ねてきていただけたらなと。」

今回のイベントを通して豊島さんの語りから、真面目な人柄や研究熱心な姿勢、チャレンジングな精神が伝わってきました。まだまだ課題は山積ということですが、こんな漁師さん達がいる海はきっと少しずつ未来に向かって変わっていけるはず。

丹後バルでも豊島さん達、久美浜の漁師さんと連携しながら今後も企画をしていく予定です。ぜひ素敵な漁師さん達に会ってみてください。

おまけ:久美浜牡蠣の美味しい食べ方

これだけは聞きたかった質問。

「プロの豊島さんが思う、牡蠣の一番美味しいと思う食べ方を教えてください!」

豊島さんはちょっと思い出したように笑いながら答えてくれました。

「うちは民宿もやってるので、色々なレシピを参考にして宿泊するお客さんに出してみたんですよ。でも結局『焼きガキとか、そのまま食べるのが一番美味しい』と言われてしまって、嬉しかったんですが、せっかく色々試したのに…という気持ちもあって笑。」

「真面目に答えると“蒸す”のがおすすめですかね。焼くと殻が弾けることがあるので。薬味は柑橘系が定番でおすすめです。お酒を垂らして食べるのも美味しいですよ。」

とのことでした。ぜひ皆さんも久美浜湾の牡蠣、一度食べてみてくださいね。

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